ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたか? 皆さん、お元気ですか?

 私は筋肉痛がやっと収まったところです。優勝目前のアトレチコ・マドリードが失速、リーガエスパニョーラの優勝争いは最後の最後までもつれそうです。しかし、優勝のプレッシャーというのは本当に大きいのですね。改めてびっくりです。

 さて、当社と日本経済新聞社の電子媒体アクセスのためのID統合作業のため、暫くメール送信ができず、申し訳ありませんでした。これに懲りずにどうぞ宜しく願います。

 まずは、皆さんの研究やビジネスに革命を起こすシングルセルバイオロジー(SCB)のセミナーの案内です。この技術革新を見逃すと、将来のビジネスに禍根を残すことになると思います。今回は国内外からSCBを開発、あるいは実際の生命科学の研究に応用している最先端の研究者を招き、皆さんの目前でSCBによってバイオ研究やバイオビジネスがどう変貌するかをお見せしたいと望んでおります。幸い有力な演者の召集に成功いたしました。今回は再生医療とがん研究に的を絞り、SCBの具体的な最新の成果を議論したいと思います。どうぞ下記のサイトより詳細にアクセスの上、お申し込みをお急ぎ願います。 開催日時と場所は、6月17日(火))12:25~17:45(12:00開場) 会場 秋葉原コンベンションホールです。 http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/140617/mail.html

 どうぞ宜しく願います。

 現在、またも懲りずに理化学研究所の記者会見が開催されている東京両国のファッションタウンの会議室におります。理化学研究所の研究論文の疑義に関する調査委員会(委員長渡部惇弁護士)は、小保方ユニットリーダーの不服申し立てを拒絶、再調査を行わないことを決定いたしました。既に、理化学研究所の理事会はこの決定を受け入れており、理研として小保方ユニットリーダーに通告、Nature誌の論文の取り下げも要請しました。今後はこの決定を受けて、理研の懲戒委員会で小保方ユニットリーダー、笹井副センター長、山梨大学の若山教授など関係者の処分が決定されます。今回の事件は、わが国の科学研究に関する信頼の失墜と騒動を拡大した理化学研究所の劣ったガバナンスにも問題があり、研究者だけでなく、理事会のメンバーの処分も避けられないと考えます。

 調査委員長の論文疑義発覚による辞任など、味噌を付けた理研の調査委員ですが、不服申し立て拒絶の理由書は極めて説得力のあるものでした。最終報告書でも明らかにされなかった彼らの隠し球は、小保方ユニットリーダーらが、ほぼ同じ内容を他の一流科学雑誌に投稿して拒絶されていた論文と、その雑誌のレフェリーのコメントのメールでした。犯人しか知らない事実の提示など、まるで探偵小説のような展開です。

 「不服申し立てに関する審査の結果の報告」。2014年5月7日に調査委員会が理研の野依理事長に提出した報告書は、A4版21頁にも上る厚い報告書です。
http://www3.riken.jp/stap/j/t10document12.pdf

 まず冒頭に、調査委員会の中間報告の記者会見で最も争点となり、小保方さん側の代理人も不服の根拠とした理研の規定第61号の悪意がなければ研究不正ではないという記述を、明確に悪意=故意(知っていること)と法律的な解釈を下して、小保方さんの不服申し立てを一掃しました。

 しかし法律でも刑法の悪意と民法の悪意は解釈が異なり、今回の調査委員会は民法的悪意の解釈を取った訳です。ここは将来、小保方さんが訴訟に持ち込んだ時は争点となるでしょうが、今回の記者会見ではあくまでも「知っていてやった」ことが証明されれば、研究不正であると主張しました。

 調査委員会が隠し球を投げたのは、報告書の6頁です。実はSTAP細胞の論文は2012年4月にNature誌に投稿し、掲載拒絶された論文(2012年論文)に加え、ほぼ同じ内容の論文をScience誌とCell誌にも投稿しており、それぞれ掲載が拒絶されていました。調査委員会はその論文とレフェリーの掲載拒否や論文に対する問い合わせなどに関するメールを証拠として調査していました。この事実は一切今まで明らかにされていなかったものです。実際、不服申し立てに答えるために追加した調査から隠し球を得たというのが事実です。しかも、調査委員会は入手したScience誌投稿論文を確認するため、小保方さんにScience誌投稿論文の提出を求めておりましたが、意見書は提出されたもののScience投稿論文の提出は拒絶されていました。

 この新しい隠し球によって、Science誌のレフェリーがT細胞受容体の組み換えを示す電気泳動の図に関して「この論文は複数のデータから切り貼りされており、通常は間にスペースを入れて、再構成が判るように表示する。また、ジャームライン(GL)のTCRのバンドが信じられないくらい明確だ」と指摘を受けていたことが明らかになりました。こうした指摘がありながら、何故、小保方さんは画像が再構成されたものを明示する努力をNature誌の2014年の論文では行わなかったのか? 今回の証拠は非常に明確に小保方さんがこの図を1つの図として再構成することを「知っていて」やってしまったことを示すものです。

 また図の再構成に関しても、分子量の直線性が担保される条件がゲルによって異なることから、目視でバンドを摺り合わせたことが、定性的な比較でも誤解を生む改ざんに当たると認定しました。チャンピョンデータや見栄えに拘る小保方さんが填まった落とし穴です。見栄えを良くするために画像を加工することにあまり良心の痛みを感じなくなっている研究者に大いなる教訓となったと思います。30年前に私が実験していたころはゲルを並べるのに写真をとって切り貼り、それを写真に撮って図にしていました。切り貼りは隠しようもなかった。しかし、画像ソフトの進歩がそうした常識を消失させました。この進歩にわが国の科学界は新しいエチケットやルールを確立できなかったことを示しています。皆さんも見栄えより、真実のデータが重要であることを、是非とも確認願います。

 博士論文の図が使い回されたテラトーマの免疫染色の捏造疑惑に関しても、隠し球が有効に打撃を与えました。調査委員会は、細いピペットで何回も骨髄細胞をすったり出したりして機会的なストレスによって作成したSTAP細胞由来のテラトーマと、脾臓細胞を酸処理によって誘導したSTAP細胞由来のテラトーマを取り違えたことが重要な捏造であると認定しています。手法も細胞も違う図を合成したことが捏造であるという訳です。しかも、2012年論文、Science誌投稿論文、Cell誌投稿論文、そしてNature誌2014年1月30日号掲載論文の4本とも、まったく同じ捏造疑惑図が掲載されていたのが、隠し球によって証明されたのです。約9カ月も一貫して元画像に当たること無く、図を使い続けていました。しかも、小保方さんは博士論文由来の図に文字が存在することも認識しており、「知っていて使った」可能性を否定できないというのです。

 最終的な打撃はやはり杜撰な実験ノートでした。酸処理によるSTAP細胞に由来したテラトーマの免疫染色の真正画像とされた画像がいつ免疫されて、撮影されたかがノートからは確定できなかったのです。しかも、2012年1月24日にテラトーマが採取されて固定されてから、2012年6月9日に免疫染色され、撮影されたと小保方さんは主張していますが、あまりに長期に免疫染色されていなかったという新たな疑義も生んでしまったのです。びっくりしたのは小保方さんのノートの73ページの日付けが6/28、そして76ページが2/19or29であったことです。もし、これが日付けであることが正しければ、4カ月で4ページしかノートを取っていなかったことになります。200回もSTAP細胞を樹立したのに、それを第三者が検証可能な記録を取っていないのは、科学者の態度ではありません。これはもう抗弁の余地はないと判断せざるを得ません。

 まったくもって残念な結果に終わりました。調査委員会の隠し球は、不服申し立て以降に、若山教授から提出された資料でした。“後出しじゃんけん”かも知れませんが、STAP騒動は一体どうして起こったのか、理研や日本の科学の病巣をえぐり出すためには必要なデータでした。現在、理研発生・再生科学総合研究センターの自主点検に加え、理研の研究リーダー280人に対して研究不正の総点検が始まっています。この際、膿を早く出す必要があります。仲間をかばい合う事態ではないことを認識して、一切合切を明らかにする必要があると思います。理研の経営陣や文科省の関係者はこうした科学者の勇気と自助努力を挫くことなく、支援しなくてはなりません。

 これからが、日本の科学の再生を始めるのです。皆さんも頑張りましょう。

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 今週もどうぞお元気で。

            日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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