たのしい人生

HHKB Studio 製品開発中の社外レビュワーと先行体験を経ての HHKB Studio レビュー

ついに HHKB Studio が発表・発売されました。

※発売直後に売り切れてしまっていましたが、今日 10/31 に再入荷されるようです。
※10/31 の販売も即完売になってしまったようです… 次回入荷は 11 月中頃とのこと。

HHKB Studio

ポインティングスティックとジェスチャーパッドの追加と、なんと言っても HHKB の名を冠しながらメカニカルキースイッチを採用するなど、大きな変化に興奮と動揺があったことは発表後の各種 SNS の反応からも窺えます。

実は HHKB Studio にはキーボードニュース の ぺかそ @Pekaso とともに開発の後半 (最終製品に近い検証モデルはすでに作られているぐらい) の段階からおよそ 1.5 年に渡って「後期アセスメント」に関わってきた経緯があります。また、HHKB エヴァンジェリストとしてここ 2 週間ほど最終製品を先行して使ってきました。

ですので、本レビューでは HHKB Studio の基本的な部分の紹介に関しては簡単な説明に留め、上記のような HHKB Studio の大きな変化の部分に焦点を当て、このキーボードがどうしてこのようなモデルになったのか、そして「HHKB としてどうなのか」について、スペックではなく実際の使用感を中心にレビューしてみようと思います。

基本情報

基本的なところは プレスリリース にあるので、その中の注目ポイントについてだけ簡単に紹介します。

www.pfu.ricoh.com

HHKB Studio は 10/25 に発表・発売となった HHKB の 新ラインナップ です。新たにメカニカルキースイッチを採用したほか、ポインティングスティック・ジェスチャーパッドなどが追加された意欲的なモデルになります。静電容量無接点スイッチ (以下東プレスイッチ) を採用した既存モデルは併売されるため、HHKB Professional 系が東プレスイッチ、HHKB Studio 系がメカニカルキースイッチ + ポインティングデバイスという棲み分けになりそうです。

また HHKB Professional HYBRID シリーズから強化されたキーボードカスタマイズのソフトウェアについても HHKB Studio では大幅に強化されています。カスタマイズできるレイヤーが 2 → 4 レイヤーに倍増したほか、新たに Profile という概念が追加されカスタマイズ内容が 4 つまで保存可能になり、その Profile をキーボード上から即時切り替えられるようになりました。これによって Windows / macOS 切り替えが簡単に行えるようになっている他、アプリごとにキーマップをカスタマイズするような使い方もできるようになっています。

HHKB のアイコンであるコンパクトなキーレイアウトは維持しつつ外観デザインは一新された

機能・デバイス以外の点では、外観も大幅に刷新されました。従来モデルでは出っ張っていた電池ボックスが筐体内に格納されるようになったのもうれしいポイントです。

そもそも HHKB Studio はどういった位置づけの誰向けの製品なのか

HHKB Studio は前述の通り HHKB の新ラインナップです。「最小の動きで、無限大の創造を」をキャッチコピーに、HHKB のコアであるコンパクトで合理的なキー配列を継承、HHKB らしい高品位な打鍵体験を提供する専用カスタムメカニカルスイッチを採用し、ポインティングスティック・ジェスチャーパッドを搭載することで GUI 環境での 統合された入力デバイス = 仕事場 (Studio) を提供するというコンセプトを持った製品になっています。

HHKB はもともと UNIX / CUI 環境でどんなマシンにも使えるポータブルでコンパクトで合理的配列のキーボードを作るプロジェクトであり、そういう意味で HHKB は文字入力に特化した環境でのプロの仕事場として愛されてきました。それから四半世紀ほどを経てコンピュータの利用シーンも大きく様変わりし多様なタスクが実行できるようになった今、どんなマシン、そしてどんなタスクにも使えるポータブルな入力デバイスとして、GUI 環境でのプロの仕事場として企画されたのが HHKB Studio と言えそうです。

そういった多様化したタスクに対応した仕事場 = Studio というコンセプトを実現するために、HHKB Studio ではカスタマイズ性に大きく舵を切った設計になっています。物議を醸しているメカニカルキースイッチの採用も、ソケット交換式 (ホットスワップ) で簡単に好みの互換キースイッチに差し替えてカスタマイズできるというところが大きな理由となっているようです。

HHKB User Meetup vol.7 での HHKB Studio 企画者の笠原さんの「HHKB Professional はこれが最高だからこれを使ってください ~(中略)~ HHKB Studio は自分の色に染めてください」 という発言や HHKB Professional HYBRID シリーズからより強化拡張されたキーマップ変更ツールからも、HHKB Professional シリーズに対して HHKB Studio が Studio というコンセプトを実現するためにカスタマイズ性を軸に据えて企画・設計された製品であることがわかります。

すなわち、HHKB Studio はそういった GUI 環境でどんなマシン・どんなタスクにも使えるポータブルな入力デバイスを求める人たちに向けて開発された新しい HHKB ということになりそうです。

HHKB Studio と HHKB Professional HYBRID Type-S

そのため、既存の文字中心の利用を想定した東プレスイッチ採用の HHKB Professional シリーズは継続して販売されますし、HHKB Studio が HHKB Professional シリーズの後継機・上位機というわけでもありません。和田先生が求めた、長く使えるコンパクトで合理的なキーレイアウトのキーボードである HHKB Professional シリーズは、引き続き完成された理想形として提供されることになります。

ですから「東プレスイッチにあらずんば HHKB にあらず」という人や「HHKB の後継・上位機種が出たから買い換えよう」といった考えの人が HHKB Studio を購入すると納得できない可能性があります。

逆に「高品位で完成済みのリニアスイッチな HHKB が欲しかった」「HHKB Studio の統合されたインプット環境というコンセプトが自分にフィットする」「HHKB をより深くカスタマイズしたかった」といった方にはおすすめできる製品になっています。

「HHKB」とは Happy Hacking Keyboard (HHKB) は計算機科学者の和田英一先生と PFU が協力して開発し、1996 年に第一世代が発売されたコンパクトレイアウトのキーボードシリーズです。当時キーボードのレイアウトがマシンごとに異なっており不便を感じていた和田先生が 幅広いマシンで長く安定して利用できるキーボード を求めて発案した「Aleph キーボード」をベースに開発され、そのコンパクトで合理的な配列、マシンを選ばないポータブルなキー配列が幅広い支持を受けて現在の HHKB の地位を確立しました。

意外に思われるかもしれませんが、2003 年の HHKB Professional の発売まで HHKB はメンブレン式のキーボードでした。HHKB の性質上プロユーザーが多数を占めていたため高品位で快適な打鍵感は発売当初より重要視されていたようですが、HHKB Professional での東プレスイッチの採用によって プロのための合理的なキー配列と心地よいキータッチという「HHKB」の本質 が決定づけられていくことになります。

今回の HHKB Studio も、メカニカルキースイッチとなりキースイッチの動作形式は変わりましたが「プロのための合理的なキー配列と心地よいキータッチ」を受け継いでいます。手段ではなく目的の部分に HHKB のコアコンセプトがあるんですね。

HHKB User Meetup vol.7 での和田先生の「携帯電話が送話受話の機能しかなかったところから、写真を撮ることもでき自分の位置もわかり万能情報処理ツールのスマートフォンになったように、HHKB もポインティングスティック、マウスボタン、ジェスチャーパッドなどが使えるようになり万能手動入力装置に大変身し、スマート HHKB になったかと思われます。」 (要約) という話も印象的でした。

新規要素

ここからは HHKB Studio の新規要素であるメカニカルキースイッチ、ポインティングスティック・マウスボタン、ジェスチャーパッドについて先行体験 2 週間での使用感をお伝えします。

メカニカルキースイッチ

HHKB Studio では東プレスイッチを採用した既存の HHKB Professional シリーズとは異なり、Kailh 製の PFU カスタムスイッチ (以下 HHKB Studio スイッチ) が採用されています。東プレスイッチが支持されているポイントの一つがその高い耐久性ですが、PFU さんもこの点にはこだわっており東プレスイッチ採用 HHKB と同様の耐久性テストをこのカスタムスイッチでも実施し、少なくとも東プレスイッチ (3000 万回耐久) 以上の耐久性があることを確認したとのことでした。

Kailh 製カスタムスイッチ

HHKB Studio スイッチの概観としては、リニアスイッチのためタクタイル感のある東プレスイッチと打鍵感は異なりますが、スイッチだけでなく筐体やキーキャップまで含めたチューニングによるものか打鍵音や底打ちの感触が東プレスイッチの HHKB Professional Type-S シリーズに近く、不思議とたしかにこれは「HHKB」っぽいなというおもしろい感覚があります。

HHKB Studio スイッチは東プレスイッチに近いと同時に最近のメカニカルスイッチらしく軸のブレは Type-S スイッチと比べて大幅に小さく、潤滑も適度で軽いスレ感はあるもののなめらかで、安定感があり上質です。ただタクタイル感はないためやはり東プレスイッチとはどうしても打鍵感は異なります。打鍵音は HHKB Studio のほうが HHKB Professional HYBRID Type-S よりはだいぶ静かですが、心地よくはっきりした低音寄りのサウンドプロファイルで打鍵のたのしさは負けず劣らずといった印象です。このあたりは究極的には好みだと思うので、ぜひ触って判断してみてください。

スイッチの回路部分はソケット式になっており好みのスイッチに差し替えることができる

また、スイッチの好みに関しては HHKB Studio は後からスイッチを差し替えることができるのでそういった面でも融通がきくのが美点です。メカニカルではありますがタクタイル感のあるキースイッチに差し替えてもいいでしょう。HHKB Studio で手に入らないのは東プレスイッチだけですね…

海外の「Topre 信仰」 米ガジェットレビューサイト大手 Tom's Hardware を筆頭に、HHKB Studio が東プレスイッチを採用しなかったことに対する海外ユーザーの落胆の声は日本国内のものに比べて大きく、また辛辣なものが多く見受けられます。これについてはある事情が考えられます。

海外でも東プレスイッチの打鍵感の評価は高く「Topre」の名で知られていますが、一方で同時に東プレスイッチを搭載した REALFORCE や HHKB の入手性が海外で長らく悪かったため、その希少性故に知っている人は熱狂的だが知らない人のほうが圧倒的に多いという若干歪な「Topre 信仰」とも呼べるような状態が続いていました (海外 SNS で「今度東京に行くから HHKB を買ってくるんだ!」といった書き込みがあったぐらい)。

2018 年に PFU が持つ海外販路で HHKB の米国再参入と REALFORCE の米国参入が実現し状況は改善していますが、依然として知名度がとても高い状態とは言えないようです。そのため海外で「Topre」を知っている人、という時点でかなり熱心な東プレスイッチファンであることが予想され「Topre is the soul of the HHKB.」というような若干過激な事になってしまっているようです。

Tom's Hardware のレビューについても大半の部分のレビューについては妥当であるものの、東プレスイッチを採用していない点については若干冷静さを欠いており、キースイッチやキーキャップが付属せず組み立てが必要な HHKB レイアウトのメカニカルキーボードキットである「Tokyo60」を引き合いに出すなど混乱が見られます。

今回の海外の HHKB Studio に対する反応の一部は、東プレスイッチが世界でそれだけ深く愛されているということの裏返しとも言えそうです。今後 HHKB Studio が海外でどのように評価されていくかが気になります。

ポインティングスティック・マウスボタン

HHKB の完全新規要素の一つがポインティングスティック・マウスボタンです。私はもともとトラックボーラーですが、ポインティングスティック素人の私でも数日で操作に慣れることができました。ただ他のキーボードのポインティングスティックを知らないので、あくまで「少なくとも私は簡単に操作できた」程度の感想と思ってください。

ポインティングスティック

ポインティングスティックをしばらく利用した印象としては、基本的に問題ないレベルでは使えるものの私が普段使いしているトラックボールやトラックパッドに比べると操作精度に関してはどうしても一段落ちる印象です。マウス・トラックパッド・トラックボールが直接的に位置情報 (速度の積分) を入力するのに対し、ポインティングスティックは速度を入力するデバイスであるため相対的にはどうしても制御は難しいです。

ポインティングスティック

HHKB Studio のデモ動画に出てきているような Adobe Illustrator や Adobe After Effects 等の比較的細かなマウスポインタ制御を求められるツールを実際に HHKB Studio を使って 2 週間ほどヘビーに操作してみましたが、操作精度の不足によるストレスや作業速度低下はさすがに否定できません。これは上記のデモ動画が示すようなユースケースに関して残念ながらネガティブな要素です。ポインティングスティックで動画や画像編集を行うことは可能ですが、最高のデバイスになるのは難しいかもしれません。慣れによるところも大きいとは思いますが…

逆に既存の HHKB ユーザーとして多いと思われるプログラマや文筆家、編集者などの人にとってはキーボードから手を離さず GUI を簡単に操作できて意外にも親和性が高いと感じました。あまり高精度なマウスポインタ操作を要求されず GUI 上のボタンやテキストを操作する程度であればストレスなく使えるため、上記業種等に加えてオフィス系ソフトウェアの利用にも適しているかもしれません。

実際のところキーボードから手を離さずに操作できる没入感は圧倒的で、上に書いたように Adobe 製品のような画像編集等の操作に多少の不満はあるものの、結局この没入感のある操作の気持ちよさ負けてここ 2 週間は HHKB Studio のポインティングスティックでの操作に統一してトラックボールを撤去してしまいました。

個人的にはポインティングスティックの感度を 3 にして、OS 側で速度を微調整すると操作感がよく感じました。このあたりもファームウェアアップデートで洗練されていってほしいポイントですね。

マウスボタン

ポインティングスティックの追加に伴ってマウスボタンも追加されました。スイッチには Gateron のロープロファイルスイッチが採用されています。キーボード部分とマウスボタンでわざわざ異なるキースイッチメーカーを選んだ PFU さんこだわりのポイントです。

実際、操作感やデバイスとしての枯れ具合から後期アセスメントではマウスやトラックボールで一般的に用いられるマイクロスイッチの採用を提案したこともありましたが「キーボード本体のスイッチと耐久性に差があり、マウスボタン側が先に壊れてしまう」という理由で却下されるなどかなりこだわりを持って選択されているようでした。

マウスボタンのスイッチには Gateron のロープロファイルスイッチが採用された。こちらもソケット式で交換ができる

ただ、後期アセスメントではこのロープロファイルメカニカルキースイッチの選択によって大揉めすることになります。

HHKB Studio ではマウスボタンがケースのフチとツライチであわせられた、かなり意匠性の高い設計がされています。それ自体は素晴らしいことなのですが、初期の試作モデルではキーキャップのスイッチへの嵌合が甘かったのかその時点で選定されているキースイッチの精度がよくなかったのかこのツライチのデザインが完全に裏目に出ており、マウスボタンの隙間が不均一だったり平行が出ていなかったりと組み立て精度の不足がガチャガチャした見た目としてめちゃくちゃに悪目立ちしてしまっていました。

また、キーボード部分の打鍵感が前述の通り非常になめらかで洗練され、打鍵音がコントロールされているのに対し、マウスボタンの打鍵感・打鍵音ともにパカパカとしたかなり安っぽいものになってしまっていたため、一時は「このクオリティではちょっと OK は出せないですね…」とだいぶ暗雲垂れ込めたりもしていました。

そういった中で、前述のマイクロスイッチの採用、いっそのこと静電容量タッチパネルに変更、キースイッチをより精度の高いものに選定やり直し、マウスボタンのキーキャップのスカートを伸ばす・肉厚にするなどの構造的変更、マウスボタンのキーキャップの裏にフォームを貼り付ける… などなど様々な提案を PFU の担当者の方々と頭を突き合わせて、それこそ終電間際まで付き合ってもらいました。もちろん全てが採用されたわけではなく、PFU さんも高耐久のロープロファイルメカニカルスイッチは譲れないなど喧々諤々の議論がありましたが、その結果は発売された HHKB Studio を見ていただければと思います。

マウスボタン。高い精度が求められる筐体とツライチのボタンデザインが実現している

ジェスチャーパッド

HHKB Studio の完全新規要素のもう一つがジェスチャーパッドと称する本体左右側面それぞれに 1 つずつ、本体前面のマウススイッチを挟んだ左右に 1 つずつ、合計 4 つ搭載されているアナログスライドパッドです。本体がチャコールグレーとマットシルバーの二色構成になっていますがこのデザインには意味があり、チャコールグレーの部分にのみジェスチャーパッドがあり、マットシルバー部分は単なるケースになっているので触れても反応しないようになっています。標準では左側にカーソルキー上下、手前左側にカーソルキー左右、右側にスクロール、手前右側にタスクスイッチャーが設定されています。

ジェスチャーパッド。筐体の左右と前面の左右 2 箇所、あわせて 4 箇所に搭載されている

ジェスチャーパッドの検出精度に関してはもう少しなめらかな解像感がほしいものの、基本的にはきっちりと検出してくれる印象です。ただ現在のファームウェアの実装だと誤検出防止のためのタッチ開始時の入力を一定時間ブロックする処理が長く、しばらく反応しないなと思ったら突然スムーズに動き出すというやや違和感のある挙動になっており、これについてはファームウェアアップデート等で改善してほしいポイントです。

前述の操作精度はソフトウェア的に改善できそうなのですが、より根源的に気になるポイントはポインティングスティックとの相性の悪さです。前述した通りポインティングスティックは操作性こそ癖があるものの、キーボードのホームポジションから腕を大きく動かす必要がないシームレスな体験が非常に快適なのに対し、ジェスチャーパッドは手をホームポジションから離して大きく動かして操作する必要があり、ポインティングスティックのよい点と完全にバッティングしてしまっています。

これについては近年ブームとなっているキーボード搭載のロータリーエンコーダにも当てはまるため、私が思いついていないだけでホームポジションから手を移動してでも使う価値のあるユースケースが存在するのかもしれません。このあたりは PFU さんからも「画像編集ソフトのブラシサイズ変更に便利!」等の具体的な使い道をもっと提案、アピールしていただけるといいかもしれないな、とは感じています。

最終的に HHKB として、キーボードとしてどうなのか

結論から言うと HHKB Studio はかなり HHKB なのではないかと思います。

HHKB Studio は挑戦的なモデルであり新規要素も多く、まだまだ荒削りな部分があることは否めません。その一方で「HHKB とはなにか?」という点について真剣に検討し、磨き上げられてきた設計製造技術とこだわりによって HHKB らしい非常に高品位な製品 に仕上げられています。

特にポインティングスティックとマウスボタンの統合は、コンパクトで合理的な HHKB 配列というコンセプトを守りつつ、この考えを時代に合わせて GUI にも拡張したと考えると非常に腑に落ちます。ただ同じものを作るのではなく、守るべき根幹を守りながら再解釈を行ったアップデートは衝撃的であると同時に実際に使ってみると納得感がありました。

議論を呼んだメカニカルキースイッチの採用についても「プロのための合理的なキー配列と心地よいキータッチ」という目的をブレさせず、東プレスイッチという手段にこだわらないで、実際に高品位な打鍵感を実現できた技術力には素直に感心しました。

もちろん最初でも述べた通り HHKB Studio は HHKB Professional の後継機でも上位機でもありません。そのため HHKB Professional シリーズをすでに持っている人が無理に乗り換える必要はないと感じますが、HHKB の名を冠したキーボードの最新作やポインティングデバイスの統合というコンセプトに惹かれる方にはぜひ触ってみてほしくはあります。

では、広くキーボードとしてみた場合の HHKB Studio はどうでしょうか?

あなたが本当によいキーボードがほしくて、かつ自作キーボードやカスタムキーボードのような電子工作や打鍵感向上のための試行錯誤に時間を溶かすことがしたくないのであれば、HHKB Studio は数少ない最高の選択肢の一つでしょう。

現状「購入して箱から出してすぐに使える」という完成品の範囲では、どれだけお金を積んでも HHKB Studio レベルによい打鍵感・打鍵音のキーボードを手に入れるのは容易ではありません。それこそライバルは東プレスイッチを採用した HHKB Professional シリーズや REALFORCE になってくると思われます。

HHKB Studio はたしかに絶対的な価格は非常に高価ですが、これだけの品質のキーボードが組み立て済みの完成品として、しかも安定した供給がある状態で販売され、アフターサポートも受けられると考えると十分現実的な価格と言える気がします。

あなたが自作キーボードやカスタムキーボードなど、電子工作や黒い画面を厭わず、その打鍵感を向上させるためにスイッチを全て剥がしてははめ直し、キースイッチを潤滑し、Tape Mod 等の効果を検証するべくキーボードを分解しては組み立てることに情熱が傾けられるだけの時間とお金があるのならもう少し選択肢は広がって、HHKB Studio はそれらの選択肢の中の一つになるかもしれません。

それなりのクオリティ以上のキーボードを作ろうと思うと結局 HHKB Studio ぐらいの金額はしてしまう気がしますが、自作やカスタムを考慮に入れると HHKB Studio のライバルはかなり多くなってくると思われます。それでもポインティングスティックのついたキーボードは珍しいのでポインティングスティックに目がないのならおすすめです。

一方で、あなたがちょっとよいレベルのキーボードを求めているのであれば HHKB Studio は少しばかり過剰かもしれません。HHKB Studio はマウスボタンの項でも書いた通り、若干偏執的ともとれるこだわりがところどころに見受けられるキーボードです。その細部にまで気を配るために HHKB Studio はそれなりに高いコストを強いられています。

打鍵感や打鍵音、バネ鳴りの一つまで、微に入り細を穿つこだわりがあるのであれば HHKB Studio の金額を払う価値は十分にあると思いますが、そうでなければ国内メーカーのメカニカルスイッチ採用キーボードや Keychron などの新興カスタムキーボードメーカーのキーボードを選んでみるのもいいかもしれません。もちろんお財布に余裕があればぜひ HHKB Studio のこだわりと良さを体験してみてほしいですが。

個人的には HHKB Studio のキーボードとしての立ち位置はこのような印象になっています。

まとめ

いずれにしても HHKB Studio は HHKB 初代から実に 25 年以上ぶりの大変革モデルです。打鍵感に関してはぜひ毛嫌いせず、実際に体験してみてほしいと感じています。

HHKB Studio は各地にある HHKB タッチ&トライスポット で触ることができます。また、今週末 11/4 (土) に開催される 天下一キーボードわいわい会 vol.5 でも、PFU 協賛ブースにて HHKB Studio と HHKB Professional HYBRID の打ち比べ体験などができる予定とのことです。天キー vol.5 にいらっしゃる方はぜひ東プレスイッチ HHKB とメカニカルスイッチ HHKB を並べて触って比較してみてください。

HHKB Studio は 10/25 の発売直後に売り切れてしまっていましたが、本日 10/31 に再入荷されるようです。
次回入荷は 11 月中頃とのこと。間違いなく色々な意味でおもしろいキーボードなので、本当に触ってみてほしいです。

HHKB Studio は小売流通に乗っていないので家電量販店等の店頭では触れません。HHKB タッチ&トライスポット で触ることができるので、お近くのところにぜひ伺ってみてください。

happyhackingkb.com

この記事は HHKB Studio を使って書かれました。


この記事は ぺかそ 氏、サリチル酸 氏、モン𝕏オブファンク 氏、yohe 氏にレビューいただきました。本当にありがとうございました。

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