人気アイドルグループの日向坂46・四期生が全員集合!デビューから約2年、演技初挑戦となる11人がメインキャストとして出演する映画『ゼンブ・オブ・トーキョー』が10月25日(金)よりいよいよ全国公開される。主演を務めた正源司陽子をはじめ、東京を訪れた修学旅行生に扮した全メンバーが力を合わせ、物語を牽引していく。
そして今回、映画ファンの間で最も度肝を抜かれたのが、180度真逆の世界にいた鬼才・熊切和嘉監督がメガホンをとり、アイドルが主演の映画に初挑戦すること。これまで『658km、陽子の旅』『#マンホール』『私の男』など、人間の本性をえぐり出すような人間ドラマを手掛けてきた熊切監督が、修学旅行を題材にした爽やかな青春映画にどう関わっていったのか。直接本人に話を聞いた。
<Story>「東京の全部を楽しむぞ!」と意気込む班長の池園(正源司陽子)は、修学旅行で東京の名所を巡る完璧なスケジュールを立て、当日、みんな揃って実行するはずだった。ところが、なぜか全員バラバラに!「これはもしかしてマルチバース?」と池園は混乱しつつも、仕方なく独りで東京観光に繰り出すことに。実は班員たち、それぞれに行きたいところ、やりたいこと、挑戦したいことなど、思惑を秘めて東京に来ていたのだった…!
●アイドル映画挑戦のきっかけはHey! Say! JUMPの中島裕翔
――鬼才と呼ばれる熊切監督が、まさかアイドル主演の青春映画に挑戦する日が来るとは思っていませんでした。本作を撮ることになった経緯を教えていただけますか?
熊切監督:『#マンホール』という映画でHey! Say! JUMPの中島裕翔さんと初めてお仕事させていただいたんですが、彼のプロ意識の高さにすごく驚かされたんですね。それまであまりアイドルの方に関心がなかったんですが、見方がガラっと変わりました。お芝居はもとより、映画公開のイベントや舞台挨拶もとても真面目に取り組んでいて、なんて素敵な人なんだろうと。これをきっかけに、アイドルの方とまたご一緒する機会があったらぜひ、という気持ちになっていたんですが、そこにスーッと入り込むように、『#マンホール』のプロデューサーから、「熊切さんらしくないびっくりするような企画なんだけれど」と打診されたのが本作だったんです。
――熊切監督+日向坂46=青春映画は、方程式として一見成り立たないようにも見えますが(笑)、プロデューサーさんはこの意外な取り合わせが面白いと睨んでいたんでしょうね。
熊切監督:プロデューサーですから、いろいろ狙いもあって嗅覚が働いたんでしょうね。僕としては、青春の要素のある映画は撮ったことがありますが、真っ当な青春映画は実は一度も撮ったことがなかったので、そこもちょっと興味がありました。自分も歳をとったというか、逆立ちしたってあの頃には戻れないという実感を最近になって持つようになって。そうなるとその感情を映画の中で掴んでみたい…という思いが強くなりましたから。
――日向坂46というグループに対してどんな印象を持っていましたか?
熊切監督:お名前だけは存じ上げていたんですが、興味が湧いたとはいえアイドル業界は疎い方だったので、あまり深くは知りませんでした。しかも、まだ業界に入って間もない四期生ともなれば、顔も性格も演技力も全くわからない。ただ、まっさらな彼女たちが映画デビューする瞬間に立ち合えるわけですから、プレッシャーは感じましたが、新鮮で面白いなと思いました。
●撮影しながら個性豊かな日向坂46のファンになった
――企画の段階では、具体的なストーリーは決まっていなかったと聞いていますが?
熊切監督:決まっていたのは「日向坂46・四期生が出演する青春もの」だけで、最初は漠然としていたんですが、脚本家の福田晶平さん(『HiGH&LOW THE MOVIE』シリーズ)とプロデューサーチームが11人全員に直接事前インタビューを行い、それぞれの学生時代の思い出や、アイドルになる前のエピソード、そして 東京への思いなどをヒアリングし、それを基に完全オリジナル脚本を書いていただきました。配役は、一人一人面談をしたり、読み合わせをしたり、組み合わせを考えたりしながら決めていったという感じですね。
――菊地凛子さんや満島ひかりさん、二階堂ふみさんなど、実力派の俳優さんを演出してきた熊切監督が、原石に近いアイドルに演技指導をするときは、やはりアプローチの仕方って違うんですか?
熊切監督:映画の質が違うのでなんとも言えませんが、基本的にはそんなに変えていないつもりです。ただ、無理やり役に押し込めようとするよりも、むしろ彼女たちから出てきたものをうまく活用するって感じですかね。あまり細かいことは言わず、彼女たちの素の部分を大事にしたり、気持ちが乗ってるときにカメラを回したり、そういうアプローチをしていたと思います。
――映画の撮影を通して四期生のみなさんと密にコミュニケーションをとったわけですが、見方は少し変わりましたか?
熊切監督:お会いするまでは、正直、みんな似たような女の子たちなのかなと思っていましたが、実際に撮影などでご一緒すると、それぞれがものすごく個性的で面白かったですね。撮り終わってみると、全く他人と思えないくらい彼女たちの大ファンになりました。
――11人それぞれの感想を聞きたいところですが、代表して主演を務めた正源司さんについて印象に残っていることがあれば。
熊切監督:正源司さんって、漫画の主人公みたいなところがあるというか、ジブリのアニメに出てきそうな魅力がありますよね。ちょっとドジだけれど行動力があって仲間思い、というキャラクターがすごくよく似合う。池園役って自分の中では少年っぽいイメージがあったので、正源司さんのなかにある少年性みたいな部分がピッタリ来たんです。
――普段もそんな感じなんですかね?
熊切監督:僕はそう思っていたんですが、撮影が終わってからお会いすると、意外とそんな感じでもないときがあったのでわからないです(笑)。キャラクターに入り込んでいたのか、はたまた撮影上がりで疲れていたのか…。もし、あれが役づくりだったら怖いですよね。そうであれば俳優として完璧だったと思います。
――「東京が彼女たちを観ているような映画にしたい」という発想も面白いなと思いました。
熊切監督:東京の実景はなるべくフィックスで撮って、彼女たちが走り回る姿は手持ちカメラで追っかける…どっしりと微動だにしない東京が彼女たちを見つめているイメージですかね。誰か一人に肩入れするのではなく、それぞれを、少し距離を置いて。その中で彼女たちから目が離せなくなってくれたら良いなあと思っていました。
――確かに。気づいたら四期生を夢中で追っていました。そして、追っているうちに、なんというか応援したくなる「ファン」の気持ちが芽生えてきました。
熊切監督:それは1番嬉しい感想かもしれません。撮っている僕もファンになりましたから。規模は小さいですが、四期生たちの初々しい姿を自由に撮れたので、こういう映画も楽しくていいなと思いました。今まで、どちらかというと苦しい映画が多かったので。
――日向坂46の魅力に気づいてしまったわけですね。ちなみに熊切監督は、少年時代に「推し」と呼べるアイドルはいましたか?
熊切監督:ちょうどバンドブームの頃だったので、プリプリ(プリンセス プリンセス)とかはよく聴いていましたが、「推し」というほどではなかったですね。やはり、映画ばっかり観ていたせいか、昔からアイドルに夢中になることはなかったので…しいて挙げれば、クリストファー・ウォーケンですかね(笑)『ディア・ハンター』や『デッドゾーン』、最近も『デューン 砂の惑星 PART2』に出演してました。
――ク、クリストファー・ウォーケンですか…やっぱり、熊切監督は筋金入りの映画オタクですね(笑)
熊切監督:あと、クリスチャン・ベールも好きですね…あ、もうこの話はいいですかね(笑)
(取材・文・写真:坂田正樹)
<Staff & Cast> 監督:熊切和嘉 、脚本:土屋亮一、福田晶平/出演: 日向坂46 四期生(正源司陽子、渡辺莉奈、清水理央、宮地すみれ、 石塚遥季、山下葉留花、平尾帆夏、藤嶌果歩、平岡海月、竹内希来里、小西夏菜実)、小坂菜緒、真飛聖、八嶋智人/製作・配給 :ギャガ
©2024映画「ゼンブ・オブ・トーキョー」製作委員会