4台の車をヒッチハイクで乗り継いだあと、次の車を拾うのが面倒になり、最寄りの駅まで歩き始めた。最寄りといっても徒歩で2時間はかかる。安物ゆえに重たいテントや寝袋や炊事道具を背負い、小雨のぱらつく薄暗い空の下を、北へ向かって歩いた。眼鏡をかけて遠くをしっかり見つめていても、眼鏡を外して視界がぼやけていても、状況にはしばらく変化が起こりそうになく、それなら、ぼやけた視界でただ無心に歩いたほうがいいと思い、眼鏡を外して歩いた。やがて常磐線のどこかの駅にたどりつき、さらに北へ向かって、いわき市の平ユースホステルの庭にテントを張らせてもらい、ぼんやりと海だけ眺めて過ごした。大学受験に失敗して二浪が決まった2004年3月のことだった。 このとき以来、何らかの不安を感じたときには、眼鏡を外すという奇妙な癖がついた。情報過多で頭が回らなくなり身動きできなくなったとき、視界をぼやけさせてしまえば、自分の目の