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(講談社・1785円) ◇「根無し草」の矜持を再発見する時代 安部公房の作家生活の時代、日本社会は流... (講談社・1785円) ◇「根無し草」の矜持を再発見する時代 安部公房の作家生活の時代、日本社会は流転彷徨(ほうこう)の相をきわめ、知識人は「根無し(デラシネ)草」の思いを深めていたと、苅部は見る。まだ戦争の余燼(よじん)を残しながら、経済成長の予兆は急速な都市化の芽生えを見せ、生活空間は抽象的なコンクリートの塊と化す一方、無秩序な汚泥と廃墟(はいきょ)を随所に生み出していた。 同時にそれは歴史的には、日本人が敗戦の虚脱のなかで帰属意識の模索を始め、その結果かえって深刻な自己分裂を体験していた時代であった。典型的なのは一九六五年ごろ、「明治百年」を祝う気運が政府側で興ると、ジャーナリズムの主流はただちに「戦後二十年」を守ろうという声で応じた。外交では日米安保体制を巡って左右が激突する傍ら、進歩的知識人の一枚岩が崩れて、共産党批判が左翼陣営の内部分裂を招き始めていた。
2012/05/01 リンク