プレイバック2022
サウンドバー、サブウーファーの「ワイヤレス」について考えさせられた年 by 海上忍
2022年12月26日 10:00
AV関連製品でいえば、2022年は実にヤキモキさせられる年だった。半導体不足や(中国都市部の)ロックダウンによる遅延などの影響は、正直慣れてしまった部分があるものの、急激な円安/ドル高に端を発する輸入製品の大幅値上げは悩ましいの一言。為替は年末が近づき落ち着きを見せ始めたものの、ウクライナ紛争終結の見通しは立たず、原油価格の先行きも不透明な中、出荷ペースと価格はコロナ前の状態に戻すことができるのか? とも考えてしまう。
そこに光明を見出すとすれば、シアターバーの活況だろうか。サウンドバーとも呼ばれるこの製品群、映像機器と組み合わせ、映画やスポーツ番組などの音響的な迫力・魅力を引き出すことが存在意義であり、“テレビ前”が定席だ。
大画面化傾向が顕著なテレビは、メーカー各社とも工夫を凝らして画音一体の再現性向上を図っているが、筐体の薄さゆえの容積不足という物理的な問題は如何ともし難い。“テレビ前”も限られた空間ではあるが、可能性は十分にある。
たとえば、JBLの「BAR 1000」。Dolby Atmos/DTS:X対応で7.1.4chという前口上はさておき、左右両端を分離しワイヤレスのリアスピーカーとして利用できる構造が斬新だ。
入力端子を備えた本体部にはオーバル状のウーファーが5基、ツイーター3基と天井反射用フルレンジ3基が用意され、それだけでも(立体音響の)効果が得られそうなところ、分離部にもツイーターと天井反射用フルレンジ各1基が用意される。そこにワイヤレスサブウーファーがくわわりスピーカーは総計15基で総合出力880W、物量という点でも目を剥くスペックだ。
試聴時の印象も上々。独自のビームフォーミング技術「MultiBeam」と室内の音響特性を測定するキャリブレーション機能が奏功してか、高さや奥行き方向が丁寧に描写される。25cm径のサブウーファーも、分離したリアスピーカーの鳴りっぷりもよく、本体部との一体感がある。本体部がリアスピーカーの母艦として充電を兼ねるというアイデアに目を奪われがちだが、立体音響の再現力という点でもシアターバーカテゴリにおいてエポックメイキングな製品といえるだろう。
シアターバーの可能性という点では、「Denon Home Subwoofer」も印象が強い。Denon Homeシリーズ製品との組み合わせが前提となるものの、先行導入したシアターバーに必要性を感じたらサブウーファーを買い増すことができ、HEOSアプリでかんたんにセットアップが完了する。
ウーファーユニットはダウンファイアリングの20cm径、スタイリッシュかつ壁に寄せて設置可能な点も、“低音が出るだけ”的な付属品サブウーファーが散見されるシアターバー界隈においては新鮮味がある。低音成分の再生をサブウーファーに任せる「オートバランス機能」も効果が高く、感心させられた。
惜しまれる点があるとすれば、“環境が閉じられている”こと。このDenon Home Subwooferは、アナログ音声入力端子も用意されているが、ターゲットはDENON HOMEユーザに限られてしまう。Denon Homeシリーズのオプション/バリエーションという位置付けの製品だからやむを得ないのだが、これだけしっかり鳴るのだから、Bluetoothスピーカーのような手軽さで他のシステムに使えたらなあ、とつい考えてしまう。
と、ここまでつらつら書き進めたところで思い出した。ワイヤレスオーディオといえば、期待の新技術があったじゃないか。そう、「Bluetooth LE Audio」。今年こそ実製品が出るかと待望していたが出ず、来年に持ち越しとなったが、この技術体系にはシアターバーという製品ジャンルを一変させるポテンシャルがあるような気がしてならない。
理由のひとつは「LEアイソクロナスチャネル」。現行のBluetoothオーディオ(A2DP)は非同期のデータ転送で、低遅延をうたうコーデックを使用したとしても数十ミリ秒の遅延が生じることは避けられないが、等時性あるLE Audioであればいい勝負ができるはず。
Wi-Fiを使うサブウーファー接続の汎用規格が今後登場するとは考えにくい中、マルチストリームをサポートするLE Audioなら、ひょっとして汎用ワイヤレスサブウーファーシステムを実現できるかも? と期待してしまうのだ(シアターバーと呼べるほど多チャンネル対応の製品は現行規格では難しそうだが)。
未来のプロダクトを想像しても埒が明かないが、前述したBAR 1000にしてもDenon Home Subwooferにしても、すでに「ワイヤレス」が製品設計の主軸にあり、市場のニーズもそこにある。LE Audioは、当初こそ低遅延やブロードキャスト送信を売りにするプロダクトが中心だとしても、いずれは……その萌芽が来年(CESか? MWCか?)には見られるものと期待したい。