藤本健のDigital Audio Laboratory

第973回

ゲーム配信特化のコンパクト最強ミキサー!? ローランド「BRIDGE CAST」

ローランド「BRIDGE CAST」

1月28日、ローランドがBRIDGE CASTなるオーディオミキサーを発売した。ゲーム配信者向けという非常にターゲットを絞った機材だが実売価格が33,000円という手ごろさもあってか、即日完売で、現在は生産&入荷待ちな状況。配信用ミキサーとしてはヤマハのAGシリーズが高い人気を誇っており、先日もフラグシップマシンである「AG08」について紹介したところだが、このBRIDGE CASTとはどんなもので、ゲーム配信者向け機材とはどういうことなのか? 機能、性能をチェックしてみた。

ローランド「BRIDGE CAST」

コンパクトなゲーム配信向けミキサー

ネット配信の世界でローランドは長い歴史を持つメーカーであり、とくにビデオミキサーにおいてはプロからアマチュアまで幅広い人たちが使う、トップメーカーだ。筆者と作曲家の多田彰文氏とで運営しているDTM番組、DTMステーションPlus!においても「VR4-4HD」というものを使っており、絶対に手放せない機材となっている。

今回登場したBRIDGE CASTは、そうした配信機器の延長線上というわけではなく、ゲーム好きの社員のアイディアから製品化された、まったく別のラインナップとのこと。発表されていた製品写真からは、大き目な機材をイメージしていたが、意外とコンパクトなミキサーだった。iPhone 14 Proや、デスクトップ用キーボードと並べてみたのがこちら。222×110×70mm(幅×奥行き×高さ)で、450gとなっているので、カバンにポンと入れて持ち歩けるサイズ感だ。

サイズ感はこんなイメージ

Windows、Mac、そしてiOS、Androidでも使えるUSBクラス・コンプライアントな機材。ただし、Windows用には専用のドライバが出ていて、これを使うことで、まさにゲーム用配信機器としての威力を発揮できる。またローランドによると4月公開予定でMacにも最適化したドライバをリリースする予定とのことだ。

そうしたドライバでローランドが強いのはWindowsでもMacでも、基本的に自動でドライバがインストールされる、という点。まあ、USBクラス・コンプライアントなデバイスであれば、特にドライバについて意識せずとも、接続すれば即使えるのは当然なのだが、ここでいう自動インストールというのは、ローランドが開発した専用ドライバが自動でインストールされる、ということ。

オーディオインターフェイス関連においては、他社でそうしたところはなかったと思うので、特異な存在ともいえると思うが、まさにプラグ&プレイを実現しており、USB接続するとインターネット経由でドライバが降ってくるため、ASIOドライバも使えてしまうのだ。

では、具体的にこのBRIDGE CASTがどんなものなのか、外見から見ていこう。カラフルに光る4つの大きいノブが並んでいるが、これを使って各チャンネルの音量調整を行なうミキサーとなっている。が、単なる4chミキサーというわけでもないし、リアに4つの入力が並んでいるわけでもない。かなりユニークな仕掛けがいっぱい施されたミキサーなのだ。

光る4つの大きいノブで、各チャンネルの音量調整を行なう
リアに4つの入力が並んでいるわけでもない

外部入力としてはXLRでのマイク入力が1つ、ステレオミニでのAUX入力があるのみ。ヘッドセットを接続した場合はこのマイクも利用できるが、これもXLR入力のマイクと同じチャンネルの扱いとなる。出力はヘッドセット/ヘッドフォンのほか、AUX入力の左にあるステレオミニでのライン出力だ。さらに左にあるのはPCと接続するためのUSB Type-C端子と、電源供給のためのもう一つのUSB Type-C端子。

WindowsやMacなどと接続する場合は、CONSOLEというスイッチをPCにすることで、USBバスパワーで動作し、iPhoneなどと接続する場合はスイッチをMOBILEにするとともに、5V電源供給して動かす形になっている。

では、そのマイク入力とAUX入力以外はどうなっているのか? トップパネルには左からMIC、AUX、そしてCHAT、GAMEとある。そうCHATとGAMEはPCからUSB経由で入ってくる音なのだ。利用シーンとしてはZOOMとかSkypeなどで会話している相手の声がCHATに立ち上がり、ゲームの音がGAMEに立ち上がってくる。その4つの音量バランス調整をして、配信するというわけなのだ。

トップパネルには左からMIC、AUX、そしてCHAT、GAMEとある

ここで思い浮かぶのが、先日紹介したヤマハのAG08。AG08でも、PC側からの出力をミキサー各フェーダーに立ち上げて調整できるようになっていた。そしてそれが3系統別々に立ち上がって調整できるようになっていた。AG08は約10万円の機材だが、33,000円のこのBRIDGE CASTでも同様のことができるわけだ。

でも、ここまでの話からするとBRIDGE CASTではCHATとGAMEというステレオ2系統が扱えるのみ……のように思えるが、実は2系統どころか、Windowsのオーディオ出力を見るとMUSIC、SYSTEM、GAME、CHATと4系統も使えるようになっている。

なぜなのかは、BRIDGE CASTのコントロールアプリを起動するとすぐにわかる。このLEVEL METERを見ると、トップパネルにある4つのチャンネル以外にもMUSIC、SYSTEMさらにはSFXというものがあり、計7chのミキサーとなっているのだ。このうちマイクのみはモノラルで、あとはステレオだ。

BRIDGE CASTのコントロールアプリ

とはいえ、ハード的にコントロールできるのは4CHだけではないか、と思うかもしれない。確かにノブは4つしかないのだが、実は各ノブに割り当てる入力を自由に設定できるようになっている。もし、CH1をMUSIC、CH2をSYSTEM、CH3をCHAT、CH4をGAMEとすれば、PCからの音を別々の4つのノブでコントロールできるというわけだ。しかもパネル上の色も自由に設定できるようになっているのも面白いところ。

各ノブに割り当てる入力を自由に設定できる

もうひとつ、このBRIDGE CASTには配信用ミキサーとして非常に優れた機能を持っている。それはスイッチでストリーム用ミックスモードと、パーソナル用ミックスモードを切り替えて使うことができるという点。この辺りもAG08と近い考え方だが、パーソナル用ミックスでは自分の声はモニターバックさせず、ZOOMなどでチャット相手とゲームの音は大き目にする一方、配信においては自分の声やチャット相手の声は大き目に出して、ゲームの音は控えめにする……といったことができるのだ。

このパーソナル用としてはヘッドフォンから出力したりラインアウトからモニタースピーカーで鳴らすといった使い方ができる。

スイッチでストリーム用ミックスモードと、パーソナル用ミックスモードを切り替えられる

ちなみに、PC側から見ると、BRIDGE CASTからの入力はSTREAMのほかに、PERSONAL、そしてMICの3系統があるので、必要に応じてどれを使うかを選択できる。なおMICを選んだ場合は、マイクからの音のみを捉える形となる。

BRIDGE CASTからの入力はSTREAMのほかに、PERSONAL、そしてMICの3系統があるので、必要に応じてどれを使うかを選択できる

ところで、先ほどのSFXというのは、BRIDGE CASTが持つポン出しのこと。これもAG08と近い機能で、AG08には6つのポン出し用のPADがあったが、BRIDGE CASTの場合は2つ。そしてデフォルトにおいてはCHATノブの下のボタンがSFX 1、GAMEノブの下のボタンがSFX 2ボタンとなっている。これはPC側からWAVファイルを転送することでBRIDGE CAST本体で音を再生する形になるのだが、この使用もAG08と同じで最大5秒となっている。

ポン出し機能のSFX

強力なマイクエフェクト機能

さて、もう一つ、BRIDGE CASTには強力な機能が備わっている。それがマイク入力に対するエフェクト機能だ。この辺もAGシリーズというよりAG08に近いもの。ご存じの方も多いと思うがローランドでは「VT-4」というボイストランスフォーマー=ボイスチャンジャーがあるが、それに近い機能が、BRIDGE CASTに搭載されているのだ。

強力なマイクエフェクト機能

デフォルトでは5つのプリセットがあり、MIC EFFECTSのSELECTボタンを押すことで、切り替えることが可能。もちろん、これがBRIDGE CASTアプリと連動しているのだ。試してみるとわかるが、マイクから入力にリバーブをかけることができるほか、ピッチを変化させたり、フォルマントを変化させることで、男性が女性っぽい声にできたり、ロボットボイス風な声にすることができる。

MIC EFFECTSのSELECTボタンがBRIDGE CASTアプリと連動

さらに、MIC CLEANUPという機能を使うことで、マイクに対しさまざまなエフェクトをかけていくことが可能。具体的にはローカット、ノイズサプレッサ、ディエッサ、コンプレッサ、それにEQのそれぞれ。これについては、プリセットは用意されておらず、自分で調整する形になっているが、かなり積極的な音作りも可能だ。このうちEQは10バンドで調整できるようになっている。

マイクに対しさまざまなエフェクトをかけていくことが可能
EQは10バンドで調整可能

ゲーム配信向けならではの機能も

こうしたエフェクトはGAME、CHATにも独立した形で搭載されているのもBRIDGE CASTの大きな特徴。CHATの場合はコンプレッサとディエッサとなっているから、ZOOMやSKYPEなどから入っていくる声を聴きとりやすい形に調整できる。

ZOOMやSKYPEなどから入っていくる声を聴きとりやすい形に調整できる

一方、GAMEのほうはEQのみを調整する形になっている。そして、ここには5つのプリセットが仕込まれていて、本体にあるEQ SELECTボタンで切り替えることが可能だ。

GAMEのほうはEQのみを調整
本体にあるEQ SELECTボタンで切り替え

その5つを見ると、1.APX(おそらくApex Legends)、2.VLRT(同Valorant)、3.FRONT(同Fortnite)、4.COD(同Call of Duty)、5.FPS Generalとなっていることからもわかる通り、各ゲームソフトでのサウンドを聴き取りやすくするための設定となっているのだ。この辺がまさにゲーム用機器である所以でもある。

もちろん、自分でEQ設定を行ない、プリセットとして保存することも可能なので、各アプリごとに最適な設定を作ってみるというのも、BRIDGE CASTを利用する面白さともいえそうだ。

なお、冒頭でも触れたとおり、BRIDGE CASTはWindowsマシンと接続すると自動的にドライバがインストールされ、ASIOでも利用可能となる。この場合、入力が3系統、出力が4系統と、Windowsの通常のサウンドドライバー=MMEの場合と同じであり、ASIOであっても排他制御とならず、両方同時に使える。もちろんマイク入力やAUX入力も同時に利用できるので、DAWを使いながらの音楽制作配信なんて使い方もできそうだ。

入力が3系統
出力が4系統

こうしたルーティングは、文字で説明するよりも、ブロックダイアグラムで見たほうがわかりやすいかもしれない。

ブロックダイアグラム

かなり考え抜いて設計されたミキサーで、AG03 mkIIやAG06 mkIIよりもAG08に近い考え方の製品といえるかもしれない。外部入力がたくさんほしいというニーズには向かないが、一人でゲーム配信をするにはコンパクトで最強のミキサーといえそうだ。

藤本健

リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto