藤本健のDigital Audio Laboratory
第960回
生きとったんか「Winamp」。ハイレゾ&Win11対応の懐かしプレーヤーを試す
2022年10月31日 09:49
皆さんは普段、音楽プレーヤーソフトに何を使っているだろうか? おそらく多くの人がOS標準のプレーヤーソフト、つまりWindowsなら「メディアプレーヤー」、Macなら「ミュージック」を使っていると思う。ただ、音質や機能、使い勝手などを考えると、専用ソフトを使いたくなるところではある。
そんな中、先日ちょっと“懐かしいソフト”が復活していた。そう、一度はなくなったはずのWindows用プレーヤーソフト「Winamp」が復活し、さらにWindows 11用にアップデートを果たしたのだ。
スキンやプラグインが充実していて、以前はかなりの人気ソフトだったが、2013年でソフトの配布などのサービスが終了するとの発表がされて以降、使う人も少なくなっていたし、筆者も使うことがなくなった。が、先日編集部から、Winampの最新版「Winamp 5.9.0」が発表され、誰でも無料で入手できるようになっているとの話を聞き、気になっていたのだ。
今回はWinampの最新版がどのような内容になっているのか、そして実際に使う価値があるソフトなのかなどチェックしてみた。
“スキン”の先駆けだった懐かしの再生ソフト「Winamp」
Winampと聞いて、「懐かしい!」と感じる方も多いのではないだろうか。
Winampは1997年に米国Nullsoftが開発したプレーヤーソフトで、当時はフリーウェア版とシェアウェア版があり、多くの人がフリーウェア版を使っていたような覚えがある。
筆者も20年くらい前には愛用していたソフトだったが、いつからか使わなくなり、すっかり忘れた存在になっていた。ソフトウェアの「スキン」という存在を知ったのも、たしかWinampが最初だったと思うし、その後もWinampほどスキンが充実したソフトはなかったのではないかと思う。
第64回:ライセンスフリーの圧縮音楽フォーマットが正式版に ~OggVorbis 1.0~
そんなWinampが復活していたというのは驚きだったが、調べてみると先月突然復活したというわけでもないようだ。
調べてみると、2013年末に「5.666」というバージョンが出た後、2018年10月に「Winamp 5.8 Beta Build 3660」というベータ版がリリース。それからしばらくして、今年7月26日に、Winamp 5.9のリリース候補第1版(RC1)が登場。そして9月9日、ついに正式版として「Winamp 5.9 Build 9999」がリリースされた。
「Winampを開発したNullsoftって、確かAOLに買収された後に消えたような…?」というような曖昧な記憶が残っていたが、その後いろいろな変遷があったらしい。確かにNullsoft自体はAOLに吸収されて消滅しているが、その後ベルギーのブリュッセルにあるRadionomyがWinampの権利を取得。Winampの著作権表記を見るとWinamp SAと記載されているが、Linked inの情報などを見る限り、Radionomy内部にある組織のようだ。
さて、その正式版としてリリースされたWinamp 5.9 Bulid 9999はWindows 11との互換性を実現し、ハイレゾ機能の強化などが行なわれたとのこと。さっそくダウンロードして、Windows 11上でテストしてみることにした。
Winampのサイトにいくと、“Player”と“Creator”の2つがある。Creatorはまだ準備中のようだが、Playerを選択すると、Windows版のダウンロード画面にたどり着く。
昔のようなシェアウェアはなく、すべてフリーウェアとなっているようなので、これをダウンロードした上で、インストーラーを起動。すると、VC++ 2019のラインタイム版のインストールを促されるので、それに従って進めていくと、懐かしいロゴが表示されたインストール画面にたどり着いた。
ただ、インストール先のフォルダを見ると“C:Program Files(x86)Winamp”となっている。Windows 11対応で、正式版ということで、現在の環境に最適化して作り直されたのかな? と期待していたが、32bit版のリリースのようだ。
ちなみにWinampの対抗馬のフリーウェアとして登場し、その後プレーヤー市場で大きなシェアを取ることとなった「foobar2000」も最新のVersion 1.6は32bit版のみとなっている。ただ、ベータ版として公開されているVersion 2.0βでは、32bit版と64bit版が用意されている。現状、64bit版は安定して動作しているので、今後はそちらに移行していくのではないだろうか。
さて、さっそくインストールされたWinampを起動してみると、その新しいWinampが立ち上がった。
UI自体は以前と変わらなそうだが、なんとも文字が小さく、画面左上のメニュー関連は、もう何が書かれているのか判別できないレベルだ。
筆者の使っているディスプレイが4K解像度であるのも原因とは思うが、いろいろなソフトを使ってきた中で、ここまで文字やボタンが小さい表示は珍しい。とはいえ、とりあえずローカルドライブにある音楽ファイルの入ったフォルダを追加して、まずはプレーヤーとしての準備は完了。WAVファイルやMP3ファイルなどをダブルクリックすれば再生できることまでは分かった。
が、このままでは文字もアイコンも小さすぎて使えないので、何か方法はないかと探してみたところ、ツールバー部分を右クリックして出てくるコンテクストメニューの中に[Window Settings]-[Scaling]なるものがあるのを発見。これを200%程度にすると、なんとかいい感じにすることができた。
メニューの上に[Skins]というものがある。まさにこれこそWinampの神髄(!?)ともいえる部分。標準では4つ用意されているようで、デフォルトの設定がBentoというものだったようだ。
が、Winamp classicというのがあるので、これを選んでみると……なんとも懐かしいWinampの画面が登場してくる。
ただ、先ほどスケールを200%にしたのに、また小さな表示になってしまった。どうやらスキンには旧規格(Classic Skins)と新規格(Modern Skins)があるようで、先ほどのようなスケール設定ができるのは新規格のスキンのほう。もっともModern Skinが登場したのも10年以上前の話であって、今回のバージョンアップとは無関係の模様。ちなみにClassic Siknsの場合は、Double Sizeというのを指定すると、2倍のサイズに設定できるようで、これでなんとか見えるレベルにはなった。
Skinsのメニューに“<<Get more skins!>>”というものがあったので、ここから一覧が表示されてダウンロードできるのかな? と思ったら、Chromeが開いて、Googleで「Winamp skins」での検索結果が表示されるという他力本願な状況だった。逆にいえば、既存のスキンがどれでも使えるということのよう。試しにいくつかためしてみると、Classic Skins、Modern Skinsともに、しっかり利用できるようではある。
表示言語はデフォルトでは英語だが、ランゲージパックをダウンロード・インストールすることで、世界中の言語に対応。もちろん日本語にも対応する。
実際、ほぼ問題なく使えるのだが、この日本語設定ファイルは2013年にT-MatsuoさんによってWinamp v5.666用に作られたもの。そのため、一部情報が古かったり、日本語化されない部分などもあるが、これでかなり使いやすくはなりそうだ。
ASIO対応やハイレゾ再生はクリア。AIFFは難ありで、DSDは動作せず
肝心のオーディオ再生機能のほうはどうなっているのか。
最初にチェックしてみたのは、やはりドライバ周り。これは設定メニューの中のPlug-insの中にあるOutputで行うようになっている。デフォルトではDirectSoundが選択されているが、WaveOut、WASAPIが選べるようになっていた。
Windowsのオーディオドライバ周りはダメダメなので、最低でもWASAPI、できればASIOを選択したいところだが、ASIOの設定は見当たらない。そこでWASAPIを選んでみたが、DirectSoundの状況となんら変わらないし、Configureボタンを押してもダイアログが開かず、ここからオーディオ出力先の変更すらできない。よく見るとv0.2となった状態のままだったので、開発途中のものがそのまま放置されている…という状況のようだ。
調べてみると、otachanさんが作った「out_asio.dll」なるものがあり、これを利用することでASIOが利用可能になるようだ。
そういえば、昔もこれを使っていた記憶がある。しっかり日本語のドキュメントも一緒に配布されているが、otachanさんの手で開発されたのは2006年10月4日のVer.0.67が最終。ただ、現在配布されているのは、それをベースに少し修正を加えた0.67z3b、0.67z4bというもの。大きく変わっているわけではなく、MOTUのオーディオインターフェイスでの不具合を修正したもののようだが、これを試してみたところ、しっかり現状のASIOデバイスでも利用することができた。
Winamp 5.9.0でサポートされているオーディオファイルはどうだろうか。
こちらはWAV、FLAC、MP3、AAC、WMA、OggVorbisなど、一通りそろっている印象。44.1kHz/16bitのファイルはもちろん、48kHz/24bit、96kHz/24bit、192kHz/24bitなど、サンプリングレートの違うものも問題なさそうだ。
ただ、AIFFについてはなぜか正しく再生できなかった。確かWAVとAIFFではビットの並びが逆になっていたような記憶があるが、まさにビットがひっくり返ったような変な音で再生されてしまうのだ。標準組み込みのプラグインとしてWaveform Decorder v3.26というものがあり、ここでAIFFがサポートされているはずなのだが……。
またDSDも標準ではサポートされていない。DSD再生を求める人がどのくらいいるかはわからないが、2015年に「DSD Plugin for Winamp 1.1」なるものが公開されており、いまもダウンロードできるようになっている。
これを利用することでDSFおよびDSDIFFファイルの再生ができるので、組み込んで試してみた。が、残念ながらDSFファイルを再生しようとした瞬間にエラー表示が出てWinampが丸ごと落ちてしまう。何度か試してみたが、状況は変わらないため、DSD再生は諦めた。
もちろんWinampにはイコライザが搭載されていたり、プラグインでさまざまなDSPを追加できたり、もちろんファイル管理機能やプレイリスト作成機能など、様々な機能が搭載されていた。基本的には昔の機能がそのまま踏襲されているようで、以前Winampを使っていた人であれば、すぐに利用再開ができるはずだし、昔のプレイリストが残っていればそのまま活用できるだろう。
前述の通りスキンも膨大にあるため、気に入ったスキンが見つかるようなら、すべて無料だし、試してみてもいいのではないだろうか。
結論としては、Windows 11で安定動作するということ以外には、それほど新しい話はなく、アーキテクチャも古いままなので、積極的に利用をお勧めするほどのものではないように感じた。とはいえ、インストールしたからといって問題を起こすソフトではないので、懐かしさからWinampを今動かしてみるのも悪くはないだろう。