レビュー
iOS 14でAirPodsの価値急上昇!「空間オーディオ」と「自動切り替え」やってみた
2020年9月16日 07:00
9月16日午前2時から、アップルの秋の発表イベントが行なわれた。今年は例年と違いiPhoneの発表は後日に持ち越されたが、iPadやApple Watchなどの新製品は登場している。その分析については追って詳報をお伝えするが、AVファンには重要な発表もあったので、速報的にお伝えしたい。
同日には、iOS 14・iPadOS 14など新OSの正式版がアメリカ時間の16日(日本は17日)に公開されることも発表された。また、すでにAirPodsのファームウェアアップデートについても更新が始まっている。
以前お伝えしたように、AirPodsのファームウェアとiOS 14・iPadOS 14の組み合わせでは「空間オーディオ」機能が利用可能になる。また、アップル製品端末同士での「AirPodsでのBluetooth自動接続先切り替え」もできる。
・AirPodsが秋に“ソフトだけ”で進化、「空間オーディオ」「自動切り替え」に迫る
https://av.watch.impress.co.jp/docs/series/rt/1261350.html
実際にどのような使い勝手なのか試してみたのでショートレビューをお送りする。一言でいって、「みなさんが想像しているよりもすごい」ものだった。
アップルの「新OS」導入と「ファームウエアアップデート」が条件
まずは、前提条件を解説しておこう。
これらの機能は基本的に
- iOS 14を導入したiPhone
もしくは
- iPadOS 14を導入したiPad
- macOS Big Surを導入したMac
と、
- 第二世代AirPods、AirPods Pro、Powerbeats、Powerbeats Pro、Solo Proなど対象のアップル製ワイヤレスヘッドホンと、同製品向け最新ファームウェア
を組み合わせた時に動作する。
なお、上記の空間オーディオ対応予定機種については、以前の取材の情報をもとに記載しており、9月16日10時現在、公式発表ではない。ファームウェアなどの公開時期が機種によって異なる可能性もある。現時点で確認されているのは「AirPodsシリーズ向けには最新ファームウェアで対応した」という点のみだ。
iOSやiPadOSはともかく、ヘッドフォンの側のファームウェアはちょっとわかりにくいだろう。特別なアップデートメニューがあるわけではなく、iPhoneやiPadとヘッドフォンをペアリングしておき、さらに両者を充電状態にしておくと、いつのまにか最新のファームウェアが適応される。
確認するには、ペアリング後に「設定」の「Bluetooth」から、ヘッドホンの名前の横にある「i」マークをタップした先の詳細設定を見る必要がある。今回テストに使った「AirPods Pro」の場合では、バージョン表示が「3A283」になっていれば、アップデートが終わっている証だ。
アップデート後には、設定メニュー内に「空間オーディオ」をオン・オフする項目が追加されているので、その点でもわかる。
Dolby Atmosで「音の厚みと臨場感」が劇的に変化! 驚くべき「空間オーディオ機能」の価値
では、まず「空間オーディオ」の方から試してみよう。
以前にも書いたが、この機能は主に映像を見る際、5.1chや7.1ch、Dolby Atmosといった「立体音響」の再現性を高めるための機能だ。
立体音響に対応したコンテンツでは、音が単純に左右に分かれるのではなく、「体験上、前後や上下からも聞こえる」ように作られている。本当は複数のスピーカーを配置して楽しむものだが、現在はヘッドフォンによる再現技術も進化しており、多くの機器で採用されているのは、みなさんもご存知のとおりだ。
それを、本体側とヘッドフォン側のモーションセンサーを組み合わせることで「自分がどちらを向いているのか」を判別して再生のための情報として使い、音が聞こえる方向をより正確で自然なものにしよう……というのが、今回アップルが導入した「自社ヘッドフォンでの空間オーディオ最適化」技術といっていい。
今回は、主にDolby Atmos対応コンテンツで試してみることにした。iTunes Store ではDolby Atmos対応作品も売られているので、それを使っている。この機能自体はiTunes Store専用ではなく、他の動画配信サービスなどでも同じように楽しめる。
テストで視聴したのは、「ボヘミアン・ラプソディ」と「グレイテスト・ショーマン」、それに「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」。比較対象としてAtmos対応ではない「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」も視聴している。
まずは「ボヘミアン・ラプソディ」から。クライマックスシーンである、ウェンブリーでのライブエイドステージを選んだ。
「空間オーディオ」をオンにして聴いて、本当に驚いた。音が作る空間の厚みが違うのだ。楽曲の臨場感はもちろんだが、それだけでなく、ライブ会場の広がりや盛り上がりが明確にわかる。オフでも立体感はあるが、どちらかといえば左右への広がりが中心で「奥行き方向の豊かさ」がない。上下の動きでの変化もあるが、なにより「厚みから来る臨場感」がまったく異なる。
次に、同じく歌がテーマである「グレイテスト・ショーマン」。こちらは「This is Me」がかかる、スタートしてから55分程度のとこをチョイスした。
こちらも同様だ。「This is Me」が流れるシーンは、街中へと出ていき、さらに劇場へと戻る、音の空間的変化のバリエーションが豊かなシチュエーションである。ここでも、空間オーディオをした時の「広がり」「厚み」の楽しさが際立つ。
ではアクションシーンはどうか? 「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」のクライマックスの戦闘シーンを選んだ。ネタバレ防止のために詳しくは言わないが、音の位置や聞こえ方が特に重要だったりもする。あえて首を動かしたりしながら聴いてみたが、位置関係は「オフ」のときよりずっとはっきりとわかる。
比較として、Atmos非対応の「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」のクライマックスから、ゴジラとキングギドラの対決シーンを聴いてみた。こちらの場合、確かに「オン」だと位置関係は「オフ」より正確になり、立体感は楽しめる。だが、Atmos対応コンテンツにあったような音の厚みの感覚が再現されない。
これでこの機能の位置付けがわかってくる。
「首を動かしても音が正しい方向から聞こえる」という説明で空間オーディオの話をすると、ちょっと特殊効果的な印象を受けすぎるのだ。
重要なのは「右を向いた時に右の音が聞こえる」こと以上に、「自分を音がちゃんと包んでいる」感覚、すなわち実在感を伴った音の楽しさを味わえるということ。映画館やリッチなホームシアター環境の持つ感覚の一部を再現している、といった方が適切だろう。オブジェクトオーディオであるAtmos対応コンテンツでより良い効果が出ているのは、もともとAtmosがそういう効果を狙ったものだからでもある。
もちろん完璧ではない。実際のオブジェクトオーディオ環境よりも体験が少々強調されている部分はあるし、首やディスプレイを動かした時の「定位の変化」も、無段階的ではなく、一定の角度でスイッチしていくような「段階感」がある。特に後者は、もう少し段階を滑らかにしてほしいとも思う。
しかし、この体験が貴重ですばらしいものであることに変わりはない。同じ映画をiPadで、より品質の高いヘッドフォンをつけて聴いても、AirPodsの空間オーディオで生まれるような「厚み」は出てこない。
複数のアップル製品の中でAirPodsなどを「自動切り替え」
もうひとつの体験である「Bluetooth接続の自動切り替え」は、音質ではなく快適さの体験だ。
複数のデバイスで1つのBluetoothヘッドフォンを使う場合、通常は「使う機器ごとに接続の切り替え」が必要になる。これは今のAirPodsでも変わらない。そのため、メニューなどの操作が必要になることは多い。ソニーの「WH-1000XM4」のように複数のデバイスに同時接続できる機器は切り替えが不要だが、その場合でも同時接続する機器の数には制限がある。
アップルがやったことはもっともっとシンプルだ。
例えば、自分がiPhoneとiPadを使っていたとする。iPhoneで音楽を聴いている最中に、iPadで見ていたSNSで気になる動画を見つけたとしよう。その時はヘッドフォンをはずすか、ペアリングをiPadの側に切り替える必要がある。
だが、今回からそれは不要になる。今の例の場合なら、そのままiPad側で動画の再生を始めればいい。するとiPhoneの側で音楽が止まり、Bluetoothの接続がiPadに切り替わり、動画が「音付きで再生」される。ここまですべて自動だ。
さらにiPhoneでの音楽視聴に戻る時には、iPhoneで「再生」ボタンを押すだけでいい。
これが本当に、「なにも意識することなくできる」のが今回のアップデートの凄さだ。以下のビデオは、iPadとiPhoneの間でAirPodsをつけたたま、「音楽再生を切り替えた」時のものだ。著作権の関係もあるので音は切っているので文字で補っているが、Bluetoothの接続先がちゃんと切り替わっているところにご注目いただきたい。
とはいえ100%の精度かというと、そうでもないのが現実。ごくまれに切り替えに失敗することもあった。本当は再生停止まで自動制御できるものだが、一応「切り替える前に再生を止めて」から改めて視聴するデバイス側で再生ボタンを押した方が確実ではある。なお、macOS Big Surのベータ版ではまだ動作しなかった。
どちらにしても、これは画期的で便利なものだ。音楽再生でも動画再生でも、そしてビデオ会議でも、ヘッドフォンはつけっぱなしにしたまま機器の側だけ操作すれば切り替わるので、本当に「接続」を意識しないで済む。
この機能が働くには、当然あらかじめ自分のデバイスにそのヘッドフォンがペアリングされている必要がある。また、今は前述のアップル製ヘッドフォンのみで動作する。他人のヘッドフォンにいきなりつながることはないのでご安心を。
本音をいえば、この機能をオープン化し、どんなヘッドフォンでも同じように使える仕組みにして欲しい。だが、競争上そうはいかないだろう。当面「アップル製品とアップル製ヘッドフォンでまとめている人」のための付加価値になるはずだ。空間オーディオにしろBluetooth自動切り替えにしろ、すべてはハードは「それを前提につくっておいた」上でソフトのアップデートで実現されているのがすごい。こうした製品同士の連携、ソフトによる価値追求がアップルの強みであり、他社との差別化ポイントなのである。