レビュー
「CHRONO CROSS」ハイレゾ音源を、計4万円弱のFostex小型スピーカーで味わう
2020年6月30日 08:15
本年冬、中野サンプラザにて開催された「CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019」の追加公演。その千秋楽を記録したライブ音源、通称「クロノクロスライブLive Audio」が、moraにてハイレゾ版が先行配信中。そして7月1日から各種配信サイトでリリースされる。ここでは、その音質の魅力を、ハイレゾが手軽に楽しめるFostexのスピーカーと共に紹介する。
「CHRONO CROSS」は1999年にプレイステーションで発売されたRPGである。音楽を前作「クロノトリガー」に引き続き、光田康典氏が担当した。現在も世界中に熱心なファンを擁するCHRONO CROSSは、その音楽についても評価が高い。2015年には「ハルカナルトキノカナタヘ」というタイトルでアレンジアルバムもリリースされた(クロノトリガーと合わせたアレンジアルバム)。作品発表後、15年以上も経ってから本人プロデュースのアレンジアルバムが発売というのは珍しいことだ。
CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019 RADICAL DREAMERS Yasunori Mitsuda & Millennial Fair Live Audio at NAKANO SUNPLAZA 2020
moraハイレゾ先行配信日:6月24日から
配信日:7月1日
品番:SBPS-0041~42
レーベル:SLEIGH BELLS
発売元:有限会社プロキオン・スタジオ
希望小売単曲価格:200円(税込/通常・ハイレゾ共通)
希望小売アルバム価格:1,800円(税込/通常・ハイレゾ共通)
※配信サイトによって価格が変わる可能性がある
CHRONO CROSSのライブツアーは、昨年の11月に東京・大阪・名古屋・台湾と開催されたが、あまりの人気にチケット争奪戦に敗れたファンが続出。追加公演を望む声に応え、2020年1月、中野サンプラザで追加の2公演が行なわれた。筆者はいちファンとして千秋楽を楽しませていただいた。何というか言葉で説明するのが憚られるくらい、とても尊く、とても大切で、決して忘れられない特別な時間となった。
今回のハイレゾ版配信実現は、もともとU-NEXTでの映像配信が企画されていたことが関連している。U-NEXTでは、ライブの模様やメイキングが配信中だが、これに備えて録音も手配していたという。
U-NEXT用に録音されていた音源を、映像に合わせたミックスから、より音楽に集中できるようリメイクされたのが今回のハイレゾバージョンとなる。筆者は、配信開始に先駆けて聴かせていただいた。率直に言って、“音がとてつもなく良い”。ライブ収録とは思えない低ノイズ、高純度の楽器音に耳を疑った。
さらに、ライブならではの躍動感を高いレベルで両立している。録音から、ミックス、マスタリングまですべて96kHz/32bit-floatのハイレゾで一貫して作業を行なったという本作。当日会場にいた方はもちろん、ライブに行けなかったファンにもこの感動を味わって欲しいと心から思った。
そこで、今回の前篇ではクロノクロスライブLive Audio ハイレゾ版の楽しみ方を、ハイレゾ入門者に向けて徹底解説。さらに後編では、高音質実現の舞台裏について、光田康典氏へのオンラインインタビューから得られた貴重な情報をたっぷりとお届けする。
ハイレゾを聴くために必要なもの
光田氏は、ハイレゾ配信をCD等のリリースに先駆けて行なうなど、ハイレゾ音源にも力を入れている。例えば、「ゼノブレイド2 黄金の国イーラ」はmoraでのハイレゾ先行配信、連動したトークイベントが行なわれている。実はこのイベントも筆者は足を運んでいたのだが、訪れたファンの話やTwitterでの感想を見ると、「ハイレゾ興味あるけど、聴き方が分からない」という声が少なくなかった。
今回のクロノクロスライブLive Audioもハイレゾを聴いてみたいけど、迷っている方も多いかと思う。あるいは買ったはいいが、ちゃんと本来のクオリティで聴けているか分からないという方もいるだろう。
ハイレゾを聴くためにはどうすればいいのか。
まず、手っ取り早く聴くためには、スマホに外部機器を追加するか、携帯音楽プレーヤー(DAP)を使うことが挙げられる。
スマホで聴く場合は、「Onkyo HF Player」などのハイレゾに対応したアプリをインストールし、音源をPCからコピー、あるいは端末に直接ダウンロード。ハイレゾ対応のDACを搭載したヘッドフォンアンプをスマホに取り付ける。同アンプは、数千円から豊富に種類があるので、スマホの端子やアプリとの対応状況を確認の上、導入すればよい。
DAPで聴く場合は、エントリークラスならハイレゾ対応でも1万円台から選択肢が存在する。スマホで購入したハイレゾ音源を、プレーヤーのWi-Fi機能を使って直接ダウンロードできる機種もある。PCは音源の管理面であるに越したことはないが、無くても成立する場合もあるのだ。
CDやAACも含めた大量の音源を好きなだけ楽しむには、ネットワーク機能が付いたコンポーネントやAVアンプがお勧め。ネットワーク機能が備わっていれば、ほぼ間違いなくハイレゾ対応だ。これは3万円台からある。3万円はちょっと高価だが、ハイレゾ再生だけでなく、テレビやゲームを楽しむ時のサウンドを向上できる、一台三役なAVアンプは注目に値するだろう。
購入したはハイレゾファイルを保存するには、ネットワーク対応のHDD(NAS)を使うのが便利だ。こちらは1万円台から手に入る。音源の管理には基本的にPCが必要だ。
今回は、昔からハイレゾを楽しむ手段として最もスタンダードなUSB-DACを使ったコンパクトなシステムを紹介しよう。いわゆるPCを核とした“デスクトップオーディオ”だ。というのも、本作はライブ音源なので、スピーカーで部屋の空気を震わせて聴いた方が感動は深まるからだ。
あまり音が出せない環境でも大丈夫
「スピーカーで音楽を聴くの!?」と、顔をしかめる人もいるだろう。「置くスペースがない」、「音量を出せない」という方の気持ちも痛いほど分かる。筆者も隣⼾からの壁ドンをやられてきた“六畳⼀間アパート 無理ゲーオーディオ”の経験者だ。
そこで、今回は、極力省スペースで、低音など音漏れの原因になる要素を個別にコントロール可能なシステムを編集部と厳選した。値段は合計4万円弱だ。
4万弱も低価格とは言えないが、PCと組み合わせる本システムは、ハイレゾのみならず、動画サイトの音も高クオリティで再生できる。投資を上回る感動がきっと味わえる良質な製品だ。
製品は3点。1つ目は、USB-DAC兼ボリュームコントローラー。2つ目は、メインのアクティブスピーカー。3つ目は、重低音を再生するアクティブサブウーファーだ。メーカーは、オーディオブランドのFostex製品で統一した。
- ハイレゾアクティブスピーカー「PM0.3H」(ペア:オープン/実売13,000円前後)
- サブウーファー「PM-SUBminin2」(15,000円)
- DAC兼ボリュームコントローラー「PC100USB-HR2」(9,800円)
1つ目の「PC100USB-HR2」は、最も上流の機器になる。PCにUSBケーブルで接続するのだが、プリンターと同じケーブルで接続するだけと思えば、意外と簡単だ。USB-DACとは、何のことか。初めての方になるべくシンプルに説明すると、パソコンからデジタルで送られてきた音声信号を、アナログに変換してくれる機器のことだ。PCはピュアなオーディオ再生を前提としていないので、イヤフォンジャックからの音はお世辞にも良好とはいえない。そこでUSB-DACのような外部機器を使って、ノイズなどの影響を極力排除してあげようという訳だ。
本機は、ボリュームコントロール機能を備えているので、手元で音量を微調整可能だ。ソフトウェアによるボリュームよりもアナログボリュームは音質的なメリットもある。出力は、ヘッドフォン(3.5mmステレオミニ)とRCAピンの2種類。RCAは、昔のビデオデッキやゲーム機とかで使う赤と白の音声ケーブルのことだ。最近は、見ることも少なくなったが、CHRONO CROSS世代の方はきっとご存じのことと思う。
ちなみに、ヘッドフォンとRCAは、どちらか一方の出力になる。USBバスパワー(PCからの電力供給)で駆動できるので、ACアダプターなどを接続する必要がなく使いやすい。ハイレゾフォーマットは96kHz/24bitまで対応していて、専用ドライバーのインストールは不要。繋ぐだけで使えるから楽チンだ。
ちなみに国内大手配信サイトe-onkyo musicによると、96kHz以下は約50,000アルバムあるのに対し、それより上の176.4kHz以上は約5,000アルバム。大多数のハイレゾ音源が96kHz以下だ。しかも、約5,000の中には、オーディオマニア向けの音源が多く、邦楽やアニソン、ゲーム音楽を楽しむ分には96kHzまで対応していれば滅多に困ることはない。クロノクロスライブLive Audio も96kHz/24bitなのでそのまま再生可能だ。なお、44.1kHz/48kHzの音源を再生しているときは緑ランプ、88.2kHz/96kHzを再生しているときは橙ランプが点灯する。
2つ目の「PM0.3H」は、メインのスピーカー。Fostexの人気小型スピーカー「PM0.3」のアンプ内蔵版だ。プロが音をチェックするモニタースピーカーとして、またリスニング用途も想定したコンパクトなアクティブスピーカーだ。
幅10cm、高さ18.5cm、奥行き13cmとミニマムサイズ。スピーカーを駆動するアンプを内蔵しているので、この2つの四角い箱と、先ほどのPC100USB-HR2でシステムが完結してしまう。高音用のツイーターと低音用のウーファーの2ウェイ方式。右側のスピーカーにアンプや操作部を集約させることで、使い勝手を高めている。
例えば、電源供給は片側だけでOKだ。左側のスピーカーには、モノラルミニプラグのケーブル1本で接続するだけ。芯線を剥いたりするスピーカーケーブルは一切不要なので手軽に設置できる。入力は、RCAピンの他、スマホなどとも接続可能なステレオミニジャックも装備。
3つ目は、重低音を再生するアクティブサブウーファー「PM-SUBmini2」。PM0.3Hだけでは、ライブの迫力や臨場感に惜しいところが否めない。低音~重低音を受け持つ、サブウーファーは本システムではぜひ導入して欲しいアイテムだ。
メインスピーカーは大型なのに越したことはないが、置くスペースの問題がつきまとう。スタイリッシュに生活空間を圧迫せず設置しつつ、音楽にとって重要な低音域を諦めない選択肢として、サブウーファーは実に有用なのである。
製品名の末尾に「2」とあるように、このモデルはマイナーチェンジ版。本体のラベルには2の文字は無いのだが、操作盤を見てみると、「2」で追加されたオート・スタンバイスイッチがある。
サブウーファーの効果について、あまり知らないという人で、CHRONO CROSS世代の方は、「プレイステーション2」の登場でホームシアターが注目を集めたとき、店内で映画を流しているコーナーにあった床置きの大きな謎の箱を目にした事があるかもしれない。「ズズン!ドドン!」と、やたら大音量で鳴らされていたのを筆者も記憶している。まさにアレのことだ。
スピーカーは2個で一組なのに、何でサブウーファーは1個しか無いのか不思議に思うかもしれない。これは、低音には指向性が弱いというのが関係している。割と適当に置いても、人間の耳はどこから低音が鳴っているのか分からないので、1個でも問題が起きにくいのだ。
さっそく設置。サブウーファーの置き方にポイント
まずは、PCデスクに設置してみた。筆者のデスクはデュアルディスプレイにしており、デスクの上の空きスペースがあまりないので、やや窮屈な設置になってしまった。本来は、モニターを中心として左右にメインスピーカーを置くのがベストだ。なるべく左右の間隔を広げた方がダイナミックなステージ感が楽しめる。
サブウーファーは机の下段の棚板に設置した。どこに設置してもよいと書いたばかりだが、基本的にリスナーの前面に置いた方が無難だ。また、また、視聴位置からメインスピーカーまでの距離と同じくらいの距離で設置した⽅が望ましい。部屋の平行面に向かって設置すると、音響的によろしくない現象が起きてしまうことがあるので、写真のように少し斜め向きに設置することを勧める。サブウーファーの設置場所は、聴いて違和感の少ない場所を選ぶのが基本だ。ただし、あまり柔らかい物の上に置くのはお勧めしない。
接続は以下の順番でやると分かり易い。ケーブル類は全て製品に付属している。
- 1:PCとUSBケーブルでPC100USB-HR2を接続
- 2:RCAケーブルでPC100USB-HR2とPM-SUBmini2を接続
- 3:RCAケーブルでPM-SUBmini2とPM0.3H(右チャンネル)を接続
- 4:モノラルミニケーブルでPM0.3H(右チャンネル)とPM0.3H(左チャンネル)を接続
- 5:ACアダプターをPM0.3H(右チャンネル)に接続
- 6:電源コードをPM-SUBmini2に接続
- 7:PM0.3HとPM-SUBmini2の電源を入れる
接続するケーブルが多くて、ちょっと面倒に思うかもしれない。ただ、ハイレゾの音源には、ライブさながらのとても生々しい音の情報が入っている。光田氏が音源に込めた本当の音を体感するための儀式と思ってチャレンジして欲しい。
ちなみに手順の「2」と「3」は、意味がよく分からない方も多いと思う。PM-SUBmini2はRCAパススルー機能を搭載しているので、PM-SUBmini2の電源を入れてなくてもPM0.3Hの音は鳴る。夜間など低音を鳴らせない時に、いちいち接続を挿し替える必要がなくなるのだ。
逆にPM-SUBmini2の電源を入れると、重低音だけがPM-SUBmini2から鳴る。ざっくりいうと、PM-SUBmini2に低い音の帯域を抽出する回路が入っていて、RCAケーブルから送られてきた音声信号から目的の周波数帯だけを鳴らしているということだ。何にせよ、「PM0.3Hだけで鳴らすのに繋ぎ替えは不要」、このことだけ抑えておけばOKだ(もしも、2や3のケーブルの長さが足りないときは、別途長さを測って市販品を購入しよう。筆者のデスクでは添付品で間に合った)。
PM0.3HとPM-SUBmini2には、操作できるダイヤルがいくつかある。マニュアルに推奨設定が書いてあり、これがバランスよく的確なので、まずはそれに習ってみよう。PM0.3Hのダイヤルは、スピーカーに内蔵されているアンプのボリュームだ。これはてっぺん(12時の位置)まで上げておく。
PM-SUBmini2のダイヤルは、クロスオーバー周波数と、サブウーファーのボリュームだ。ボリュームは、左から数えて4つ目の印の位置に合わせる。ここを基準に微調整してみよう。サブウーファーは大きく鳴らせば鳴らすほど迫力が出るのでついつい音量を上げてしまうが、基本は「さりげなく」かつ「まるでメインスピーカーから低音が鳴っているような」音量に抑えておくのがよい。音量を上げすぎると、「下に置いているサブウーファーから鳴っている」ことが分かってしまうし、音楽としてのバランスも崩れてくる。
また、音量の上げすぎによって、サブウーファー自身の共振による音の濁りや、設置場所自体が振動して音を濁す影響が無視できなくなる。次にクロスオーバー周波数は、60~150Hzで調整可能だ。まずは60Hzの一つ上の目盛り70Hzに合わせよう。サブウーファーにおけるクロスオーバー周波数は、上げれば上げるほど、高い周波数帯までサブウーファーが担当するようになる。
組み合わせるメインスピーカーによってこの周波数は適切な設定値が変わってくるのだが、実は設置する部屋の環境によっても変わってくる。人間の耳は、スピーカーからの「直接音」の他に部屋の「反射/反響音」も聴いていて、その割合は半分以上とも言われる。
部屋はそれ自体が吸音しており、吸音する周波数帯域は部屋によって、また置いてある家具などによっても異なる。これらのことからクロスオーバー周波数は、環境に応じて違和感のない値まで上げるとよいだろう。
筆者のデスクはリビングにあるが、70Hzを越えて上げていくと、低音がもっこりしてライブステージの透明感がなくなったので70Hzに戻した。そして、位相を変更するPHASEスイッチは、まずは180度で音を出してみよう。「低音が小さいな」とか「低音が引っ込んでいる感じがするな」という場合は0度にしてみるとよい。設置場所によって自然な再生音になる方を選ぶ。ただし、違いを聴き取るためにサブウーファーに耳を近づけてもむしろ逆効果なのでご注意を。あくまでメインスピーカーの音を聴きながら、それとのマッチングで決めるのが基本だ。
いよいよ鳴らす。そして大興奮&半泣き
セッティングが終わったら、PCの再生ソフトウェアを立ち上げて、PC100USB-HR2から音が鳴るように設定してあげよう。クロノクロスライブLive Audioを本来のクオリティで楽しむためには、ハイレゾ対応の再生ソフトウェアを用いて、接続したUSB-DACを正しく選ぶことが大事だ。ハイレゾのデータを加工せず、劣化なくデータ送信するための一工夫と思ってもらえればよい。
実際の操作や項目は若干異なるが、設定画面からオーディオの項目に入ると、再生するデバイス(機器)を選ぶことができるので、そこで「WASAPI(WASAPI排他)」の「FOSTEX PC100USB-HR2」を選ぶようにする。筆者は、有償の「HQ Player 3」を使用したが、無償のMusic Center for PCや、TuneBrowserなどでも基本は同じだ。最初だけ設定すれば、次回以降は設定不要な場合がほとんどである。有償の再生ソフトウェアは、無償のソフトウェアよりも音が良いのだが、マニアックなのでとりあえず忘れてくれていい。
冒頭「夢のはじまり」から「時の見る夢」まで試聴してみる。冒頭の拍手の緻密な音の粒立ちは、会場にいるかのようなリアルさだ。サブウーファーは、メインスピーカーとの音の繋がりが良好で、3つ目のスピーカーがあることはほとんど意識しないで済む。演奏が始まると、楽器音の素直な周波数バランスに感心した。さすがモニタースピーカーとしても使用を想定した製品である。一聴して地味に感じるかもしれないが、特定の帯域だけ盛りに盛った個性派よりは、癖の少ない音色を奏でてくれる本機の方が何を聴いても相性は良い。
シンバルやハイハット、弦楽器の高音域がやや耳に付く。少しだけ強めに出ている印象だが、いわゆる音量を上げて耳が痛くなるような深刻さはない。許容範囲だろう。そして何より筆者が感動したのは、この価格帯としては驚異的な解像度の高さだ。具体的には、楽器の音がクッキリと描写されており、濁りや曇りがない。ハイレゾの情報量と相まって、生音ならではの説得力が大きい。
ライブ当日に味わった感覚とは、ミックスも違うので単純比較できないが、生き生きと演奏するミュージシャンの皆さんの躍動が音から伝わってくる。解像度が高いと演奏の強弱がハッキリと分かるし、リズム感もよく伝わってくるので、聴いているこっちも気持ちがアガる。
サブウーファーによる低音再生は、ライブ会場の空気感も伝えてくれる。楽器が出している低音域だけでなく、会場のホールに響く低音はお腹にグッとくるというか、ライブ演奏を聞いて人間が興奮する要素を担う大切なものだと筆者は思う。
続いて、最後の曲、「マブーレ」。サラ・オレインの透明感のある伸びやかな歌声は、突き抜けるように美しく、そして生々しく再生された。光田氏のメンバー紹介は、氏のダンディーな低音ボイスを余すことなく再現。個人的に光田さんの声質は素敵だと思っていて、ハイレゾの豊かな情報量でとってもリアル。これはファンのひとつの楽しみになるのではないか。メンバー紹介に伴うソロパートは、楽器音にあとから掛けられたリバーブと、アンビエンスマイクが集音した生のホールリバーブが聴き分けられるのに感動した(両者のバランスも秀逸)。
スピーカーから部屋に解き放たれた音が耳に届くことで、当日中野サンプラザにいた臨場感が蘇ってくる。一方、心配していたドラムとパーカッションのソロパート。低音が左か右に集中するシーンなので、サブウーファーが一個だと不自然さが大きいかなと思ったが、そうでもなかった。厳密には、違和感ゼロとは言わないが、ちゃんと定位のとおりに鳴っているように感じられる。
ラストスパート、ドラムのかき回しからのテープが「パーン!」と放たれる下り。もう大興奮&半泣きだ。感情移入しまくり。やはりサブウーファーによる低音の充実は、ライブにいるような説得力を担う重要な要素といえよう。どうしても音量を出せない時間帯は、音楽自体のボリュームを下げるとともに、サブウーファーのボリュームをさらに絞って対応しよう。低音を抑えるだけでも隣戸への音漏れは軽減できる。
Fostexのデスクトップオーディオは、コンパクトでありながら、臨場感のあるライブサウンドを楽しめることが確かめられた。筆者宅には防⾳スタジオもあり、そちらのリファレンススピーカーを使って通しで聴いていたにもかかわらず、この小型スピーカーでもライブの世界観にドップリと浸かり、ウルッとくるほど感動してしまった。高額な製品と比較しても、十分健闘している優秀な組み合わせだと思う。
それと同時に、このライブ音源の高音質ぶりにも改めて驚かされる。そこで、後編では光田康典氏のインタビューをお届けする。ハイレゾ版のこだわりや制作プロセス、音質面の工夫、ライブ当日のパフォーマンスなど、濃い話をたっぷり伺っているので期待して欲しい。さらに、今回のデスクトップオーディオを、オーディオアクセサリーを使ってさらにいい音にするテクニックも紹介する。ぜひ、チェックしていただきたい。