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ラジオ局が作ったラジオ「Hint」がついに完成。声優も応援
2017年7月20日 20:01
ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記氏が発起人となって開発が進んでいた、無指向性スピーカー+Bluetooth機能搭載のFMラジオ受信機「Hint(ヒント)」。その一般発売が9月初旬より一部の家電量販店などでスタートする。7月20日から先行予約受付を開始した。価格は22,000円。なお、クラウドファンディング支援者には20日より順次発送を開始した。
製品名は「Hint BLE Radio」で、ニッポン放送とCerevo、グッドスマイルカンパニーが共同開発した。筒状の筐体を採用し、無指向性スピーカーにより360度どの方向でもクリアに音が聴こえるのが特徴。ワイドFM(AM補完放送)の受信に対応する。Bluetoothスピーカー機能も備え、手持ちのスマートフォン/タブレットなどとワイヤレス接続して、端末内の音楽やポッドキャストなども再生できる。カラーはフロストシルバーとブラックの2色。
QRコードの音声バージョンといえる技術も搭載。放送局から流れるDTMF音(ピッポッパ、という電話のダイヤル音)を用いて、アーティストのWebサイトのURLなどの情報を、Hintの周囲のスマートフォンにBluetoothのBLE(Bluetooth Low Energy)経由で配信できる。
'16年7月にクラウドファンディングで資金を集めており、支援者には7月20日より順次発送を開始。クラウドファンディング終了後もHintを購入したいという声が多かったため、一般発売を行なうことを決定した。CerevoやグッドスマイルカンパニーのWebストアのほか、ビックカメラの店舗/Webサイトやコジマ、ソフマップのラジオ取扱店で購入でき、20日から先行予約受付を開始した。ニッポン放送も販売を予定しており、近日受付方法を公開するという。
音にこだわった「カッコいいラジオ」
7月20日、'16年のHint開発発表からちょうど1年という日に、完成発表会を実施。吉田尚記アナウンサー、Cerevoの岩佐琢磨 代表取締役、グッドスマイルカンパニーの安藝貴範 代表取締役社長、デザイナーのメチクロ氏が登場し、Hintのコンセプトや仕様、販売までの裏話などを語った。
Hintは、「カッコいいラジオがほしい」という思いのもと、吉田氏が立ち上げたプロジェクトから生まれた。フィギュアなどを手掛けるグッドスマイルカンパニーや、デザイナーのメチクロ氏がデザイン面で協力。グッドスマイルカンパニーの安藝社長は、「デザインが縦型になったのはメチクロさんの素晴らしいアイデアで、即OKした。美観を攻めていてカッコいいけれど、代わりに機構設計が大変難しくなってしまった。フィギュアにおいても、生産しながら生産工程の気づきをステップバックして進めていくことはよくある。(このラジオも同様に)作りながら設計が進む感じだった。冷静になってみると作ってはいけない設計だった(笑)」とコメント。
製品開発にあたり、クラウドファンディングサービスのCAMPFIREで支援を募ったところ、当初は「仲間内での購入者しかいなかった。どうなることかと思った」(グッスマ安藝社長)。しかし、吉田氏をはじめ、ニッポン放送の「ラジオを愛する気持ち」が功を奏し、最終的には目標額(1,300万円)を大きく超える約3,046万円を調達して、製品化が決定。CAMPFIREの全プロジェクトにおいて、過去最も支援金額が集まったプロジェクトとなった('16年9月時点)。
ハードウェア設計や試作機の開発はCerevoが担当。当初は'17年3月に支援者に届けられる予定だったが、2度延期された。Cerevoの岩佐氏はその理由について「中国での製造工程で金型の作り替えが必要になった。これで2〜3週間も遅延するなど、本当に大変だった」と話した。国内で検品を行ない、吉田氏も品質チェックに携わったという。完成品のアンベールが行なわれると、岩佐氏は「涙が出そう」とコメントしつつ笑顔を見せた。
Hintのプロトタイプではフルレンジユニット1基を搭載していたが、製品版では3ユニット、3ウェイ構成に改良。上部が66mm径フルレンジ(プロトタイプは50mm径)で、下部にウーファーとツイータを向かい合わせで内蔵している。最大出力は10W×3。吉田氏は「ここまで音にこだわったラジオはない」とアピールした。
音については、ニッポン放送技術部が監修。「人の声が心地よく聴こえる柔らかいサウンド」にチューニングしたという。メチクロ氏もチューニングに携わっており、「3ウェイスピーカーで人の声の聞き取りやすさを目指した。小型スピーカーは低音が出る製品が多いが、それだとラジオの一番の魅力である『声』が魅力的に聞こえない。(Hintでは)日本語の母音成分にあたる400Hz辺りの盛り方、削り方でかなり追い込んだ」と説明。部屋のどこに置いても同じような聴こえ方を実現し、ラジオの魅力である「気配」が伝わるようなサウンドを実現したという。得意な音や音楽ジャンルについては、「アコースティックギターや弦楽器、響きのあるホーンやシンバルなどはよく響く。ダンスミュージックのような低音は、あまり楽しくは聴けないだろうが、一般的なポップスなら問題なく聴ける」とした。
スピーカーユニットが増えたことで、外形寸法/重量は80×297mm(直径×高さ)/1,075gとやや大型化し、重くなっている。付属のACアダプタのほか、内蔵バッテリでの動作も可能で、連続稼働時間は約3時間。充電の仕様が一部変更され、取り外して充電する方式から、本体にバッテリを装着したままで充電できるようになっている。USB充電にも対応し、充電時間は約5時間。インシュレータや、FM外部アンテナが付属する。
発表会には、声優の野島健児さん、中村繪里子さん、田所あずささんも登場。3人はニッポン放送のラジオ番組などに出演しており、それがきっかけとなってHintの「声優モデル」に起用されている。クラウドファンディング支援者に向けて限定販売された製品で、電源オン/オフやラジオ、Bluetooth機能の切り替えなどの動作音が各声優の声でアナウンスされる。なお、同モデルの一般販売は行なわない。
中村さんは根っからのラジオ好きで、ラジオ雑誌にラジオ専門家としてインタビューされるほど造詣が深く、Hintの開発メンバーではないが、製品化前の最終モデルを自宅で使っていたという。「使いやすくて音も良い。無指向性スピーカーの威力を感じたのは、窓辺に置いて聴いているときに、ベランダで“風ぼっこ(ひなたぼっこの風バージョンという意味)”をしていても、ラジオの向きを変えずに部屋と同じように良い音で楽しめたこと。とても快適なラジオライフができている」と熱く語った。
野島さんは、「ラジオは夏休みの工作とかでも作れるけれど、大人が本気を出して作るとこうなるんだ」と感慨深そうにコメント。野島モデルには“モビルスーツっぽい熱い感じ”(吉田氏)だけでなく、色気のある感じのボイスも収めている。「頼まれていないものも含めて相当なパターンを録った」と収録時を振り返った。
田所さんは吉田氏とレギュラー番組を4年ほど続けており、その印象について「ラジオは楽しくお話できて、お客さんとも共有できる楽しいお仕事」とコメント。“田所モデルを買う人はきっとディープ”(吉田氏)という判断から、「ラジオに切り替えっかんね」、「Bluetoothに切り替えっかんね」などの茨城弁を収めているが、実機で初めて耳にした田所さんは「もっと可愛くと言われた結果これですか?」と苦笑していた。
この「声優モデル」のように、Hintは法人やメーカーのロゴをいれたり音声を収録した“カスタマイズモデル”の製作も可能だという。
Hintには、ラジオ番組内で紹介されたWebサイトのURLがスマホに自動で届く「BLEビーコン」を搭載しているが、テスト信号を用いたURL送信のデモも行なわれ、実際に発表会場にいた報道陣が手持ちのスマートフォンでHintの製品販売ページにアクセスできた。QRコードの音声バージョンといえる技術で、吉田氏は番組を聴取した人が、紹介されたアーティスト名や商品名などのキーワードを検索サイトに打ち込む手間が省け、検索できても正しい情報にたどり着けないといったことも無くなるため、メリットは大きいとアピール。
ニッポン放送ではDTMFを用いた放送は行なっていないが、Hint購入者が実際にその良さを試せるようにするため、「(吉田氏が)自分の番組や、ニッポン放送で流れるHintのラジオCMから採り入れていくので、買ったは良いけど(DTMF音が)全く流れないということはない。使っているのはFM放送波とBluetoothという世界標準の技術なので、他局でも使われると良いなと思っている」と話した。