ゲームの導入部について「長い説明はやめてすぐ遊ばせて」との意見が議論呼ぶ。はやく動かしたい派、じっくり世界観を知りたい派

ゲームにおける開始直後のいわゆる導入部分。あるゲーム開発者によるゲームの導入部分の長さを巡るポストを発端にして、X上で賛否わかれるさまざまな議論が起こっている。

ゲームにおける開始直後のいわゆる導入部分。そのゲームの背景説明やキャラクターの台詞などのやりとりで始まることは多い。今回、あるゲーム開発者によるゲームの導入部分の長さを巡るポストを発端にして、X上で賛否わかれるさまざまな議論が起こっている。“導入部分の適切な長さ”については、さまざまな意見があるようだ。

議論の発端となったのはゲーム開発者David氏のあるポスト。同氏はオールドスクールFPS『Project Warlock』シリーズを手がけるBuckshot Softwareにて、アートディレクターなどを務める人物だ。

発端となったポストでは、David氏が開発者に向けて「ゲームの導入に説明や台詞を詰め込まないでくれ」と呼びかけている。理由としては、まずゲームをプレイして、そのゲームが好きかどうかを確かめたいからだと主張。また続くポストでは、「ストーリー主導のゲームを、物語を伝える技術をもって作っている」といった場合を除き、ゲームのテキストはできる限り削るべきだ、といった趣旨の持論も説いている。アクションゲームをメインとして開発している同氏のゲーム開発経験に基づく持論や哲学と考えられる。

ゲームの導入はどうあるべきか

David氏の意見には、同意や反論がさまざま寄せられている。導入は短くあるべきだと同意する意見では、“ゲームの理想的な導入”としてアクションゲームだけでなく、『ファイナルファンタジー VII』における爆破ミッション開始前のような短い導入の例を挙げる人もみられる。世界観の説明やキャラクターの台詞は後回しで構わず、まずゲームがプレイできることが望ましいとする考え方も多く見られるようだ。

一方で反対意見もある。冒頭の背景説明がなければ、登場人物AとBでどういった会話がされているのか文脈がわからず、ゲームに入り込めないのではないかといった意見だ。ほかにも、ゲームプレイに入る前に、丁寧なチュートリアルがあると嬉しいという意見も存在。またテキストの量についても、ストーリードリブン型のゲームやテキスト主体のポイント&クリック型のアドベンチャーなどのジャンルでは、膨大な世界観の説明や会話テキストが詰め込まれていても良いゲームはあるというユーザーもみられる。

ゲームの導入部分を巡った議論のなかで、具体例としてさまざまなゲームの名前も挙がっている。たとえばパズルFPS『Portal』シリーズなどはゲーム開始直後に壮大なオープニングムービーや世界観の説明などはなく、すぐにキャラクターを操作することができる。ゲーム内の台詞やテキストもそれほど多くない本作だが、それにもかかわらず、同作はゲームプレイを通して、Aperture Science 社を取り巻く複雑な世界観を表現できているとストーリー面でも高い評価がされている。

「Portal」


また同氏の意見への反例として挙げられている作品として『Disco Elisyum』がある。こちらは作中の膨大なテキスト量に加え、冒頭から世界の特殊な背景を前提とした難解な用語が飛び交うテキストをじっくりと読む作品となっているが、複雑な文脈を読み解く深みのあるストーリー展開が高く評価されているアドベンチャーゲームだ。

このように、ストーリーをどういったかたちで表現するか、その説明をゲームの導入部分にどのくらい詰め込むのかについてはゲームによってさまざまだ。しかし、どちらの表現にも人気作や高評価な作品は存在しており、表現技法のみをもって、どちらが優れているかを一概に決めることは難しいだろう。

導入をめぐるゲーム事情

David氏による「早くゲームプレイに到達できるようにすべき」といった投稿を発端に、ゲームの導入部の“適切な長さ”に関し、白熱している今回の議論。そもそも同氏はどうしてそういった発言をしたのか。そしてなぜ多くの反響が寄せられているのか。そこには各種プラットフォームで多数のゲームがリリースされている昨今の事情も考えられるだろう。

たとえばDavid氏は自身の体験談として、たくさんのゲームを手に取る過程で、興味深いタイトルのゲームやデモを数多くアンインストールしたという。その理由としては、ほとんどのタイトルにおける導入部分が、その時点では興味のないキャラクターの背景説明や会話を必死にスキップする作業だったからとのことだ。

「Disco Elysium – The Final Cut」


また先日にはDevolver Digitalの共同設立者であるNigel Lowrie氏が、最近ではユーザーがライブサービスゲームに夢中になっている傾向があり、さまざまな大作ゲームがリリースされていてもユーザーが(買い切り型)ゲームに割ける時間はあまり多くなくなっているとの見解を述べていた(GamesIndustry.biz)。限られた時間の中で、自分に合うゲームかどうかを手っ取り早く確かめたい、といったプレイヤーの需要は日々高まっているのかもしれない。

ちなみにマーケティングの面においても「ゲームプレイを先に確認させること」を重視する考えはある。たとえばゲームクリエイターの桜井政博氏は、自身のYouTubeチャンネル上にて「ゲームプレイ映像を重視すべき」との見解を動画として投稿(関連記事)。ゲームプレイが周知されたシリーズ作品や人気開発者による大作などはともかく、新IPやインディータイトルでは宣伝においてトレイラーなどでゲームプレイを早く確認させるのが大事だという見方が伝えられていた。そうした考え方は実際のゲームの導入部分をどの程度の長さにするか、という点にも通じている可能性はあるだろう。

いずれにせよ導入部の長さはゲームによってさまざま。前述した『Disco Elisyum』のように小規模開発の新規IP、かつ導入部分が長めのゲームでも人気を博した例もある。適切な導入部分の長さはそのゲームが何を持ち味としているかや、プレイヤーが何を望んで遊び始めるかによって変わってくるところだろう。開発者としてもプレイヤーとしても、これまで以上に「導入部の長さ」は重要性を増しているトピックなのかもしれない。

Jun Namba
Jun Namba

埼玉生まれBioWare育ちです。悪そうなやつはだいたいおま国でした。RPG全般が好きですが、下手の横好きでいろいろなジャンルに手を出しています。

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