自然対数の底とは、\(2.71828\cdots\) と無限に続く超越数のこと。
小数表記では書き切れないため、通常は記号 \(e\) で表される値です。
ゴロ合わせとしては「船人、ヤツは一発梯子(ふなびと、やつはいっぱつはしご)」と覚えると良いでしょう。
自然対数の底 \(e\) は、対数の研究で有名な数学者ジョン・ネイピアの名前から、「ネイピア数」と呼ばれています。
このネイピア数、その不可思議な数の性質から
と感じる方も、多いのではないでしょうか?
そこで今回は、このネイピア数がどんな流れから出てくる数なのか・どう役に立つのかについて軽く解説していこうと思います。
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ネイピア数とは?
ネイピア数 \(e\) は、\(\left(1+\dfrac{1}{n}\right)\) の \(n\) 乗を \(n→∞\) にした時の極限として表される定数です。
また、\(\left(1-\dfrac{1}{n}\right)\)の \(n\) 乗を \(n→∞\) にした時の極限が \(1/e \ (≒0.367879\cdots )\) になるという性質もあります。
複利とクジから分かるネイピア数
1年間の合計金利が100%になる銀行での連続複利
1年間の合計金利が \(100\)% になる銀行があったとしましょう。
もし、この銀行が単純に1年で \(100\)% の金利を付ける場合、預けたお金は1年後に \(2\) 倍になって返ってきますよね。
一方、この銀行が半年ごとに \(50\)% ずつの金利を付けた場合、預けたお金は1年後に \(1.5×1.5=2.25\) 倍になって返ってくることになります。
3ヶ月ごとに \(25\)% ずつなら、預けたお金は1年後に \(1.25×1.25×1.25×1.25≒2.44\) 倍に。
合計金利が一定でも、金利を細かく刻むほど、「複利の効果」によって返ってくるお金が増えていくことが分かります。
では、ここからさらに1ヶ月、1日、1時間、1分、1秒…と限りなく短い時間ごとに限りなく小さい割合で金利が発生するとしたら、預けたお金は最終的にどこまで増えていくのか?
こういった流れから導かれる極限値が、ネイピア数 \(e≒2.718\) です。
1/n の確率で当たるクジを n 回引く
次に、「\(1/n\) の確率で当たるクジを \(n\) 回引く」ゲームを考えてみましょう。
たとえば「\(1/10\) の確率で当たるクジを \(10\) 回」引けば、期待値が \(1.0\) だから大体当たるだろうと思いきや、実際に計算してみると1回もアタリを引かない確率は約 \(35\)%
実は、「1回もアタリを引かない確率は意外と高い」ということが分かります。
この「\(1/n\) の確率で当たるクジを \(n\) 回引いて、1回もアタリを引かない確率」も、\(n\) が大きくなるほど高くなっていくことが分かっています。
そして、この \(n\) をドンドンと大きくしていって「限りなく小さな確率で当たるクジを、数えきれないほど多くの回数引く」ときに、1回も当たらない確率はネイピア数の逆数 \(1/e\) に収束する、ということです。
ネイピア数はどう使われているのか?
もしかしたら、ここまでの説明を聞いて「つまり、現実ではあまり見かけない”無限”を考えたときに出てくる値なんでしょ?それなら、想像上でしか役に立たない数なんじゃないの?」と思った方もいるかもしれません。
しかし、それは大きな誤解です。
実は、ぼく達が生活している現実世界では、いたるところにネイピア数 \(e\) が登場するんです。
例えば、現実世界において「2分に平均1回起きる現象」というのは
「① 1分ごとに、\(50\)% の確率で起きるかどうか判定」というよりも
「② 限りなく短い時間ごとに、限りなく小さい確率で起きるかどうか判定(期待値 \(0.5\) 回/分)」
といったほうが、より的確に実態を表していると考えられますよね?
そして皆さんは先ほど『限りなく短い時間ごとに、限りなく小さい割合』という考え方が、ネイピア数の求め方と密接な関係があることを実感したはずです。
そう、つまり連続した時間における確率計算において、ネイピア数 \(e\) は重要な役割を果たしてくる、という事なんです。
こういった連続時間における発生確率の分布はポアソン分布と呼ばれ、マーケティングや医療におけるリスク計算において、その性質が活用されています。
また、大規模な模試の点数分布や全国の成人男性の身長分布など、さまざまな場所で見かける最も一般的な分布「正規分布」においても、ネイピア数 \(e\) が登場します。
これも、現実世界には「限りなく小さな確率」で点数や身長に影響をもたらす要因が「数えきれないほど多く」存在し、それらが複合的に重ね合わさった結果だと考えるとイメージしやすいのではないでしょうか。
このように、ネイピア数は確率論を現実世界に適用してデータを分析するときに非常に役に立つ存在となっているんですよ。
ネイピア数は今回取り上げたもの以外にも振動・熱伝導・化学反応速度など、自然科学における様々な場所で登場します。
「限りなく短い時間ごとに限りなく小さい割合」という視点から出てきたネイピア数。皆さんなら、どう活用しますか?
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