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目的はドキュメントの共有ではなく「アイデアの共有」、製品責任者に聞く

Dropbox Paperの開発では「思考に集中できるシンプルさ」を考えた

文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

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 「Dropbox Paperは、クリエイティブの『プロセス』を支えるためのツールです」――。クラウドファイル共有サービスの米Dropboxが2017年に一般提供を開始したDropbox Paper。Dropboxユーザーであれば誰でも無料で使える、チーム内コラボレーションのためのツールだ。

「Dropbox Paper」はチーム内における情報とアイデアの共有を目的としたコラボレーションツールだ

 法人向けビジネスに大きく舵を切った現在のDropboxにおいて、Dropbox Paperはビジネスユーザーを獲得するための武器のひとつと捉えられている。一見すると「Google Docs」のようなドキュメント共有ツールと同じようにも見えるが、そのコンセプトは大きく違うと、同ツールを手がけたプロダクトマネジャーのカヴィタ・ラダクリシュナン氏は説明する。

 今回はラダクリシュナン氏とプロダクトデザインマネジャーのカート・ヴァーナー氏に、Dropbox Paperの開発コンセプトやツールとしての特徴、ターゲットとするユーザー像、そしてDropboxが目指すコラボレーションのあり方などを聞いた。

米Dropbox,Inc. Group Product Managerのカヴィタ・ラダクリシュナン氏

米Dropbox,Inc. Product Design Managerのカート・ヴァーナー氏

制作プロセスにおけるコミュニケーションを支援するツールを作りたかった

 Dropbox Paperは、Dropboxが2014年に買収した「hackpad」をベースとして機能強化やサービス統合を進めてきたサービスだ。2017年1月に一般提供開始(GA)となり、すでにアイスクリームチェーンのBen & Jerry's、ネットショップ開設プラットフォームのShopify、プロダクトデザイン/ワークフローツールのInVisionといった企業が活用しているという。

Dropbox Paperの紹介ビデオ(DropboxのYouTubeチャンネルより)

 そこでまずは、Dropbox Paper(以下、Paperと略)の成り立ちから聞いてみた。

――まずはDropboxがなぜPaperを提供するに至ったのか、その背景から教えてください。

ラダクリシュナン氏:もともとクラウドストレージサービスのDropboxは、制作途中あるいは完成した制作物(ファイル)を、チームメンバーやクライアントとの間で共有する目的で使われていました。

 しかし、制作物を最終的なアウトプットまで持っていく前の段階には、長い制作プロセスがあります。そこではチーム内やクライアントとのミーティングを繰り返したり、Eメールなどのツールを使って何度もやり取りをしたりする必要があります。

 われわれは、このコミュニケーションの部分でもDropboxが何かお手伝いできるのではないかと考えました。それにより、徐々にPaperの方向性が見えてきました。

――具体的にどんなコンセプトのツールを作ろうと考えたのですか。

ラダクリシュナン氏:Paperは、物事を制作するプロセスにおいて、さまざまなメンバー間での情報共有が効率的で素早く行えることに主眼を置いて開発してきました。

 従来のこうしたコラボレーションツールでは「テキストの共有」が中心でしたが、Paperはチーム内の「アイデアの共有」を中心に置いています。メンバー間のアイデアの共有を通じて、いかに効率的に共同作業を進められるかを重要視しています。

――Paperは、製品カテゴリーとしては何になるのでしょうか。ライバル製品は?

ラダクリシュナン氏:Paperを既存のカテゴリーに分類するのは難しいですね。これまでにあった幾つかのカテゴリー、たとえばノートテイキングツールやドキュメントの共同編集ツール、プロダクトマネジメントツールなどを意識しつつ、まったくユニークな製品を作ろうと考えました。

 簡単に言えば、Paperは「クリエイティブの『プロセス』を支えるためのツール」だと言えます。

ヴァーナー氏:よく比較されるツールとしては「Google Docs」や「Evernote」などがありますが、それらはドキュメント編集のためのツールです。一方で、Paperは「共同作業のためのワークスペース」という位置付けです。

テーブルやタスクリスト、動画などの貼り付けが簡単にできる

 ここで、ラダクリシュナン氏がPaperのデモを実演してくれた。PaperのWebサイトにアクセスすると白いページが開き、ユーザーはすぐに書き込み始めることができる。その名のとおり、真っ白な“紙”を前にした状態だ。

新規ドキュメントを開いたところ。書き始めるにあたって迷う要素は何もない

 プロジェクトごとにこの“紙”(ドキュメント)を用意し、アイデアやタスクリスト、参考資料などを書き込んだり貼り込んだりして、チーム内の情報共有や進捗確認などに役立てるのが基本的な使い方である。もちろん、オンラインで複数のユーザーが同時に書き込み、編集することができる。バージョン管理や、複数のドキュメント間をリンクにも対応している。

 テキスト入力ではマークダウンに対応しており、行頭に「#」を付ければ大見出し、「##」ならば中見出し、「>」は引用ブロック、「1.」「2.」とすれば番号付きリストなど、自動的に表示フォーマットを選択してくれる。

 また、画像の貼り込みはドラッグ&ドロップで行える。複数の画像を貼り込み、ドラッグして横並びにすると、見やすいように自動的にリサイズをしてくれる。テーブル(表組み)の作成や、行/列の追加も簡単にでき、こちらも自動的にサイズ調整が行われる。

 「ユーザーの皆さんがアイデアを書き出すことに集中できるように、ほんとうにクリーンで、シンプルなユーザーインタフェースにすることを心がけています」(ラダクリシュナン氏)

画像を貼り付けたり、複数画像を並べたりすると画像サイズは自動調整される(画像はサンプルドキュメントより、以下同)

 また、Dropbox上のOfficeドキュメント(PowerPointスライド、Excelシートなど)やPDFファイルなども貼り込むことができ、それをクリックすればファイルを開くことができる。GoogleマップやYouTube動画、SoundCloud上の音楽といったサードパーティのメディアもそのまま貼り付け、画面上で閲覧/再生することが可能だ。プロダクトデザイナーには、「InVision」ツールで共有しているデザインモックアップを貼り付けられる点が人気だという。

 「クリエイティブのプロセスは1つのツールだけでは完結しません。デザイナーはさまざまなメディアを使って制作を進めるので、サードパーティのツールも含め、ツール間を自由にまたいで利用できるようにしています」(ラダクリシュナン氏)

 チェックボックス付きのタスクリスト機能も用意されている。担当メンバーに呼びかける「@メンション」機能を使い、それぞれの担当タスクが完了したらチェックを入れてもらうことで、プロジェクトの進捗がチーム全体で共有できる。またソースコードを入力すれば、その言語に対応したカラー/強調表示を行ってくれる。

 「デザイナーだけでなく、コーダーやデベロッパーなどチームメンバー間で共有するものなので、できるだけわかりやすく表示されるようにしています」(ラダクリシュナン氏)

テーブル(表組み)やタスクリストも簡単に挿入できる。特定の相手に通知して対応を依頼する「@メンション」機能、チャット形式で内容にコメントする機能も

 プレゼンテーションモードも用意されている。Paperには“ページ”という概念はなく、1枚の長い紙に書き込んでいく仕組みだが、これを自動分割してプレゼンテーションに適した全画面表示にしてくれる。プロジェクト進行中のチームミーティングのためにわざわざプレゼン資料を用意する必要がなくなると、ヴァーナー氏は説明する。

プレゼンテーションモードを使うと、制作中のドキュメント(左)を全画面表示にすることができる(右)。わざわざスライドを作成するほどではないチームミーティングなどで便利だ

 そのほか、ドキュメントに書き込まれたテキストや貼り付けられたオブジェクトに対しコメントを付け、メンバー間の意見を交換できるチャット機能、絵文字やスタンプ、アニメGIFで感情を表すような機能なども盛り込まれている。

 「アニメGIFの機能は、入力したテキストに合ったアニメGIFを自動的に貼り込んでくれるものです。たとえば、プロジェクトのマイルストーンを達成できたときに『/gif happy』と入力すれば……ほら、“Congratulations!”というGIFアニメが出てきました(笑)。Paperは仕事のためのツールですが、チームで仕事を進めるうえでは“遊び心”も大切だと考えていますから」(ラダクリシュナン氏)

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