【前編】『楽園追放』プロデューサー野口光一氏インタビュー
「40代で負けたら2度目はない」――『楽園追放』は勝つためのフィルム
2015年02月07日 15時00分更新
虚淵玄氏の脚本なら「センス・オブ・ワンダー」を伝えられる
価値観がお金から“メモリー容量”に変わった時代を描く
―― SFのほうに源流があったわけですね。
野口 SFで、メッセージ性の強いものをやりたかったんです。脚本を虚淵玄さん(『魔法少女まどかマギカ』脚本など)にお願いしたのは、SFものでメッセージ性のある人間ドラマをやりたかったからというのがあります。
虚淵さんが『神林長平トリビュート』で書いた短編小説の「敵は海賊」を読んだのですが、そこには「人間はこの先どこに行くのか?」という人類の未来のことが書かれていたんですね。
それで、(虚淵さんなら)SFでよく言うセンス・オブ・ワンダーみたいなものも伝えられる、と。
―― 「センス・オブ・ワンダー」……言葉は聞いたことがあるのですが、どんな意味ですか?
野口 不思議なことや現象に耳を澄ます感性ですね。作り手視点で言えば「新しいアイデアやテーマ、ビジュアルを提示すること」。SFならば、人類の未来を提示するのが王道だろうと。
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楽園追放では、まず虚淵さんに、現代と地続きの地球の未来像――果たして人間ってどういうものなんだろうね、それが果たして良い未来なのか、悪い未来なのか、みたいなことを提示するのはどうだろうという話をしました。
虚淵さんからは、「絶対にコンピューター社会になるので、人間にとっての価値観が変わる。何に価値があるかと言えば、価値の一番はお金ではなく“メモリー容量”になるだろう。メモリーをたくさん持っていたり、処理速度の速い人が地位が高くて、権利を持っているだろう」と返ってきて、そこが楽園追放の出発点になりました。
だからロボットアニメというほどにはロボットは出てきませんよね。どちらかというと、電脳空間の捜査官アンジェラと、地球に住むディンゴのふたりによる「バディもの」で、それにプラスして人間の存在意義を問いかけ、(最終的に)三者三様の考え方を持ってそれぞれに旅立つ、みたいな話にしようということになりました。
……でも、当時はSFアニメに関してはあまり良い風が吹いてなくて。業界でも「SFものは当たらないよ」と言われていました。
―― SFアニメが?
野口 その頃、SFアニメがいくつかヒットにはならなくて、「当たらないよ」という評価になってしまっていたんですね。
楽園追放のプロットは完成していて、そこからシナリオ会議みたいなアイデア出しをして揉んでいくのですが、社内で「これは分からないよ」とか「今はこういった方向だよ」と言われていくなかで、作品がどんどん丸く、面白い部分が削られていってしまったんです。
それでいったん会議はやめました。
最初のプランのままで面白いなとずっと思っていたのと、虚淵さんも変えないだろうなと思ったので変更はせず、虚淵さんに「やっぱりこれでやりましょう」と持ちかけました。
すると、「シナリオをきちんと書くには、監督がいないと」となり、じゃあ監督を探してきますということで水島精二さんにお願いしました。
―― プロットは、結局変えなかったのですね。
野口 はい。映画の尺でやるにはちょっと密度が濃すぎたので、いくつかの設定やエピソードは削りましたけど、話の流れはプロットと同じですね。
僕がクリエイター出身だからなのか、作り手側が本当に作りたいものを作ってもらいたいという意識が強いんでしょうね。虚淵さんに限らず、作り手のアイデアはできるだけ活かしたいなと思っています。
そしてプロットが決まった後はスタッフ集めです。このテーマや内容で描いてもらえる人や会社を探すことになりました。
―― スタッフは、どのような基準で集められたのですか?
野口 まずキャラクターデザイン。絵を企画書に付けなきゃいけないときに、女の子がいるならかわいい子、惹きがある絵がいいと思いました。
そのとき、ちょうどpixivで齋藤将嗣くんが描いた“セーラー服少女とロボットの絵”と出会いまして『これは面白いな』と。ロボットも描けるし、少女も描ける。特に齋藤くんの絵は顔に魅力がありました。
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アンジェラのお尻は「作品を成功させるために」水島監督が発案
―― 人づてにアニメ業界からではなく、pixivから直接ですか。
野口 本人も驚いてましたけどね。それで絵を1枚描いてもらって企画書に付けて、これでやりますと予算が決まって。
―― 主人公を少女にした理由はありますか。SFものなら少年でも良かったと思うのですが。
野口 プロットの段階では主人公の性別を虚淵さんにオーダーしておらず、たまたま少女もので上がってきて、ああ、これは面白いなと思っただけでしたが、途中から、プロデューサーとして『主人公が女性キャラクターでよかったな』と。
―― そこは視点が、クリエイターからプロデューサーに切り替わりましたか。
野口 はい(笑)。ターゲットとする20代、30代男性のアニメ層にフックさせるなら、やっぱりかわいい女性キャラが良いだろうと。商品化もしやすいし。
齋藤くんからアンジェラのラフが上がってきたくらいのときに、虚淵さんから「肌を露出させたほうがいい」みたいな話が出ました。最初はボディスーツでしたが、もっと肌を、と。水島監督も、魅力を出すにはそうだね、と賛同して、だんだん“萌え”というものが加わってきました。
単に少女だと、作品が持っている重厚なテーマを背負わせるには幼すぎるので、“心は20代後半だけれど身体は16歳”という設定もできました。
―― 映画を観たお客さんの口コミで話題になった“アンジェラのお尻表現”ですが、ロボット・アーハンのコックピットがバイク型で、それにまたがって走るアンジェラや、それをローアングルから見せる演出なども“萌え”にあふれていましたね。
野口 アンジェラや萌えの部分は水島さんのアイデアが多いです。水島監督がこの作品を成功させるために外せないところを考えて下さったんだと思います。
露出に関しては、東映アニメーションの冠でこんなに出していいのかなとちょっと迷いながらでした。どのぐらい露出するかで、僕とスタッフとの間で綱引きがありましたね。会社としては、“これをプリキュアの横に並べることができるのか?”とかそういうのもあるので(笑)。
「不気味の谷」を越えるには?
野口 シナリオ、監督、キャラクターデザインまで決まって、あとは3DCGのスタッフですね。これには最初からすごく大きな課題がありました。
長年CG映像を見てきましたが、キャラクターがいわゆる「不気味の谷」と呼ばれる状態になってしまうのはなぜなのか、色々考えていました。
―― 3DCGでキャラクターを人間に似せてリアルに作りこんでいくと、あるラインで急に「不気味」に見えてしまうという現象ですね。「不気味の谷」はなぜ起きるのだと思いますか。
野口 これについては個人的な考えですが、僕は映画を観ているお客さんを観察していて、気づいたことがありました。
(次ページでは、「不気味の谷は“表情”で飛び越えられる」)
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