モバイル時代をかっ飛ばすユビキタスエンターテインメント(UEI)社長の清水亮氏、ユーザーインターフェースの神様こと増井俊之氏、ITジャーナリストで角川アスキー総研の遠藤諭氏という3人が集まった。プログラミングを取り巻くよもやま話をダラダラと喋る企画の予定だったが、増井先生の「全世界プログラミング」や遠藤所長の「言語の発生」や「ダンゴムシの心」などの話も錯綜しつつ、いま業界でジワジワと注目のUEIの次期プロジェクト「enchantMOON」(エンチャントムーン)の真相は何かに向かってしまうのだった。
論文のテーマが難しい
遠藤 増井さんは最近、どういう感じです?
増井 大学では論文書くのがあたりまえなんですよね。論文を書かないでボンヤリしていると示しがつかないので、ちゃんと普通に論文を書かなきゃと思ってるんですけどねぇ……。
遠藤 えー、どういうことですか?
増井 論文を発表するためには、まず学会に論文を認めてもらう必要があるんですが、そのためにはまず頭を下げて、論文誌に「出させてもらえませんか?」とお願いするんですね。
遠藤 脳科学の世界とかだとよく、「英国の科学雑誌に載りました」みたいな話がニュースになりますよね? あれじゃダメなんだ。雑誌の始まりって「学術誌」なんですよ。アメリカだって「Scientific American」(日本版は日経サイエンス)が、いまも刊行されている雑誌では一番古いんですよね。
清水 そうなんだ。
遠藤 それより前のガリレオとかの時代には、誰かに自説がパクられないようにアナグラムで発見した事象を発表しておいて、同類の説がないと分かったら、このアナグラムの意味はこの発見のことですと。木星には4つの衛星がありますとか。まあ、そういう面倒のないように学会というシステムができてくるという歴史がある。ということで、増井さんも論文を出されるということなんですよね?
増井 そう、出さなきゃいけないなと思ってるんです。
遠藤 わかった、「全世界プログラミング」ですね。ボクも、興味があるんだけど。要するに、身の回りにあるさまざまな機器がネットにつながりセンサーもついてきているので、それらの関係や動作をプログラミングできる。「ああなったら、こうなる」を教えてやるという話ですよね。床を踏んだら扉がひらく自動ドアは全世界プログラミングの第一歩だという話でした。
増井 そう。でも、論文誌に査読してもらうわけだから、俺だけいいと思っていても載せてくれないんですよ。新規性を主張したり、便利さを訴えて、周りのコミッティー(委員会)が認めてくれないとダメ。
遠藤 なるほどー。
増井 だから論文書こうと思ったら、すごいいいシステムでも誰かの焼き直しで「同じ処理を半分のソースで実現しました」じゃダメで、新しくないといけない。でもそんなのそうそうない訳です。20年前までは面白いものをつくっていれば、それがそのまま論文になってたんですけど、今論文にしようとすると自分の主張を掲げて、みんなのやってないことをせざるを得なくなる。
遠藤 やっぱりね、ジェームズ・ワットが蒸気機関作ったわけじゃないんですよ。
増井 そうなの?
遠藤 蒸気機関の発明者はトーマス・ニューコメンですよ。ジェームズ・ワットは何かをひっくり返しただけみたいな感じです。それによってえらく効率が良くなった。
増井 それを言うと、エジソンが電球を作った訳ではないっていう。
遠藤 そうですよ。ジョセフ・スワンが20年くらい前に作っていて、トーマス・エジソンが作ったのは送電網。ガス灯が電球になったのが大きくて、それによって社会が変わった。歴史が変わったともいえる。そのインパクトが大きいがために詳しい説明が取れていって、Twitter的な加工が加わって、電球の発明者はエジソンみたいになった。しかし、その改良とかに意味があったし偉かったんですね。ワットも、エジソンも。
増井 まぁ論文が通らなかったら、ウェブで出しちゃえばいいというのもありますけどね。この前のイグノーベル賞がそうでしょ? 栗原君と塚田君の「スピーチジャマー」(論文のPDFファイル)。彼らが面白いものを作って、論文にしたんだけど、変だから通らないわけです。
遠藤 通らないんだ。
増井 それでウェブに出したら、論文書くよりも脚光浴びてしまったからよかった訳です。