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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第126回

ジャーナリズムは死に、そしてウェブでよみがえる

2010年09月29日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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滅亡に瀕しているのは「記者クラブメディア」

 尖閣諸島の問題をめぐって、ウェブ上の議論が沸騰している。その全体状況を見るのに便利なのが、ライブドアのBLOGOSというサイトだ。これは日本のブログの中から「読むべきブログ」を集めようと、私も手伝って昨年10月にスタートし、まもなく丸1年になる。設立のときはビジネスとして成り立つかどうかもあやしかったが、最近は月間1000万ページビュー近い堂々たる「論壇サイト」になった。

アゴラではさまざまな論客による意見が掲載されているだけでなく、一般からの投稿も募集している

 私の運営している「アゴラ」は昨年1月にスタートしたが、こちらも月間100万PVを超えるようになった。もちろん大手の新聞サイトに比べればわずかなものだが、スタッフは私を含めてわずか2人でやっているので、広告収入だけで黒字が出る。メディアの価値が意見を表明することだとすれば、毎週10万人が読む「アゴラ」の価値は『週刊ダイヤモンド』や『週刊東洋経済』とほぼ同じだ。

 他方、新聞や雑誌は廃刊のニュースが絶えない。毎日新聞と産経新聞の経営危機説は前からささやかれているが、朝日新聞も赤字になった。これを「ジャーナリズムの危機」だと称して、新聞に公的な補助を出せという議論が一部にあるが、今や情報源は新聞だけではない。死に瀕しているのは、役所の情報を独占してきた「記者クラブメディア」であり、ジャーナリズムではない。

 ただネットメディアのようにPV中心になると、「硬派」の記事はあまりビジネスにならない。雑誌でも『現代』や『諸君』や『論座』などの総合雑誌の廃刊が相次ぎ、残っているのは『世界』『中央公論』『VOICE』『正論』ぐらいだ。これもみんな発行部数は数万部だからおそらくは赤字で、ほとんど版元の意地で営業を続けているようなものである。

 終戦直後から1960年ごろまでは『世界』や『中央公論』に掲載される論文が世論をリードし、丸山真男や清水幾多郎などのオピニオン・リーダーが、「知識人」を代表して全面講和・安保反対などの論陣を張った。しかし結果的には日本はアメリカとの「片面講和」で独立し、安保条約も改正された。「論壇」の圧倒的な支持を得ていた左翼知識人の提言は、まったく実現しなかった。大衆は豊かさをもたらす資本主義を支持していたからだ。

 そして結果的には、正しかったのは知識人ではなく大衆だった。社会主義は崩壊し、その影響を受けた社会党も共産党もミニ政党になってしまった。論壇をリードしてきた「非武装中立」や「平和主義」などの理想主義は、冷戦後も続くアジアの軍事的緊張の中で、誰も信用しなくなり、論壇も崩壊した。

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