マイクロソフトの統合開発ツール「Visual Studio 2010」パッケージ版の発売が、いよいよ6月18日に迫った。幅広い部分でブラッシュアップが図られているVisual Studio 2010の強化ポイントについて、マイクロソフトのお二方に話を聞いた。
Visual Studio 2010が実現する
「モダンなWebアプリケーション」
開発生産性の向上という目標に向けて日々進化を続けるソフトウェア開発ツール。こうしたソフトウェア開発ツールの代表格ともいえるのが、マイクロソフトの「Visual Studio」だ。買収や統合など激変するIT業界のなかで、Visual Studioは一貫性のあるポリシーで開発者を最新のトレンドに導いてきた。特に.NET Framework登場以降、Visual Studioは既存のデスクトップアプリケーションとWeb開発を完全に統合。先頃登場した「Visual Studio 2010」では、Windows Azureとの連携により、今やクラウドの世界にまで開発者をいざなおうとしている。
最新のVisual Studio 2010を導入する動機として、ニヨギ氏はやはり「モダンな」Webアプリケーションの開発を挙げる。ここでいうモダン化とは、いくつかの要素があるが、もっとも大きいのはやはりユーザーインターフェイスの強化だ。「Webやデスクトップでのエクスペリエンスを向上させ、ユーザーの生産性を上げることが重要。これに関しては、Webブラウザやスマートフォンなどもずいぶん変化しているし、グラフィックスもリッチになっている。だが、私たちはすべてのニーズを満たす1つのユーザーインターフェイスがあるとは思っていない」(ニヨギ氏)とのこと。
その点、同社はWPF(Windows Presentation Foundation)やSilverlightのようなさまざまな技術を持つほか、多くのデバイスに最適化されたユーザーインターフェイスを提供する。さらにHTML 5のようなWeb標準技術も重視している。加えてGPUパワーを前提に、HTML5の高速な動作を実現すべくInternet Explorer 9の開発が着々と進められているという。
また、複数のWebサービスとの連携も重要なポイントだ。「Webは複数のアプリケーションを組みあわせて動かすので、やはり『つなぎ目』を意識させないようにするのが重要」(ニヨギ氏)。これに対して、.NET FrameworkやVisual Studioではアプリケーションのデータ活用が容易で、検索エンジン等との連携も可能になっているとのことだ。
もちろん、クラウドでの展開も大きなテーマになる。Windows Azureでは、仮想マシン上にWebロールというプログラムを載せ、ASP.NETによる開発を行なうことで、Webアプリケーションを展開できる。また、これまでのデータベースアクセスのように、SQL Azureを用いることも可能だ。「開発者がなるべく新しいコンセプトを学ばなくても、クラウド上でアプリケーションが開発できるよう、Visual Studio 2010では腐心した」(ニヨギ氏)とのことで、ローカルアプリケーションに比べて違和感なくクラウドで展開できるのが大きな特徴となっている。
ALMを少数ユーザーでも使えるように
とはいえ、Visual Studio 2010の真価は新しい技術やデバイスへの対応がメインではない。むしろ注目したいのは、やはり冒頭にも述べた開発生産性の高さや品質向上の取り組みである。ニヨギ氏は「やはりエンドツーエンドのアプリケーションライフサイクル管理(以下、ALM)には大きな力を注いだ。バージョン管理を容易にし、テストの生産性も向上させるようにした」と語る。確かに現在のソフトウェア開発では、単に作っておしまいではなく、継続的に品質を高めていく仕組みが必要だ。こうしたなか、計画、デリバリー、運用というサイクルでアプリケーションの価値を継続的に高めていくのがALMである。
ALMの機能は、チーム開発用のTeam Foundation Serverで提供されてきたが、あくまで大規模なソフトウェア開発を想定していたという。しかし、「今までVisual Studioでは大人数でALMを用いることを想定していました。ですが、1人であっても、ソースコード管理、バックアップ、テスト、ドキュメント作成は必要ですよね。こうした管理を多くの方は、今までExcelでやっていたんです」(鈴木氏)とのこと。そこで、今回はTeam Foundation Serverをクライアント版のWindowsでも導入できるようにしたほか、MSDNのサブスクリプション付きであれば、どれでも利用可能にしたという。
Visual Studio 2008でやや複雑だったエディションも、2010では整理された。基本はProfessional、Premium、Ultimate、そしてテスト用のTeam Profssionalの4つで、「上位エディションは下位の機能をすべて包含するようにした。開発者の方々はそれぞれのニーズに合わせて、プロダクトを選択してもらえる」(ニヨギ氏)とのこと。
なんでも作れる万能開発ツールとして、成長を遂げてきたVisual Studio。Ajax対応やASP.NET MVC、ASP.NET Dynamic Dataなどが導入されたVisual Studio 2008(特にSP1)の印象があると、2010の強化点はやや地味に感じるかもしれない。しかし、ALMの強化やクラウド対応などは、今後の開発ツールのキーになってくると思われる。開発者としては、しっかりチェックしておきたいところだ。
「今までVisual Studioでは少人数でALMを用いることを想定していました」と記載しておりましたが、「少人数」という部分が誤りです。お詫びして、訂正させていただきます。本文は訂正済みです。(2010年6月3日)