4月下旬、東京ミッドタウンデザインハブにおいて、アスキー総合研究所、ワイアードビジョン、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の3者が主催する「米国Googleの権利覇権と情報流通革命」と銘打たれたトークセッションが行なわれた。弁護士・ニューヨーク州弁護士・日本大学藝術学部客員教授の福井健策氏が、現在、出版・流通業界や著作者に波紋を広げている「Googleブック検索」の提起した課題と、それに私たちはどう向き合えば良いのかを語った。聞き手はワイアードビジョン編集委員・仲俣暁生氏。会場にはクリエイティブ・コモンズに詳しい津田大介氏も来場しており、予定の時間をオーバーして熱い議論が交わされた。
いま何が起こっているのか?
Googleブック検索は、その名の通り、新聞・雑誌などの定期刊行物以外の書籍(コミックも含む)を、Googleがスキャンしてインデックス化し、検索を可能にするというサービスだ。慶應義塾大学や、ハーバード大学図書館等とも提携し、すでに700万冊以上をデジタル化したと発表されており、これは国立国会図書館の和漢書の蔵書数を超えている。
これに対して、米国の作家・出版社の協会が著作権侵害行為とし、フェアユースを主張するGoogleとの間で訴訟となっていたが、昨年10月に和解が成立した。「クラスアクション」という規定により、その結果が日本の出版関係者にも影響することになり、大混乱を招いているという状況だ。
和解結果は、米国だけでなく、2009年1月5日以前に出版された世界中の書籍に及ぶ。クラスアクションでは、権利者が意思表示をしない限り、Googleは非独占的にオンライン販売・図書館や教育機関からの無償アクセス・広告表示を行なえることと定められている。オンライン販売された場合は、権利者がGoogleの収益から63%の分配を受けることもできる。
日本の書籍についても、米国内で「絶版」と認定されると対象となる。ただしこの「絶版」というのは、「米国内で市販中と認められるかどうか?」という基準で認定が行なわれるため、日本で売られている日本の本が、米国では手に入らないから絶版として認定されるという事態も引き起こされる。絶版と認定されると、その本はGoogleによって自動的に公開されてしまう。
和解案には承伏しかねるということで、和解を望まない場合は、「和解結果から離脱する」と意思表明(オプトアウト手続き)を行なわねばならない。しかし和解結果から離脱するというのはすなわち、Googleと係争する権利を手に入れられるだけであり、「和解をしない」=「Googleによる公開を免れる」というわけではない。むしろ和解結果に賛同しているほうが、交渉のテーブルにつけるという状況だ。この期限が5月5日と直近に迫ってきており、4月15日には日本文藝家協会がこの和解案に抗議したのは記憶に新しいところだ。
トークセッションでは、この申し立てを行なう専用のサイトで、例として「村上春樹」氏の著作を検索した結果を題材に取り上げ、解説が進められたが、絶版率が極めて高いという結果が出た。福井氏によると「日本書籍の米国内での『絶版認定=配信対象となる』率は高い」という印象を受けたという。
こうした状況の中、福井氏はGoogleのスタッフと意見交換をしたという。それによると、日本で流通していて米国でオンラインなどで入手可能な本については、配信対象から除かれるように見直しを検討中なのだという。よって、現状では絶版認定が高い=配信候補が多い状況だが、近い将来は改善される可能性があるという。
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