(社)日本教育工学振興会(JAPET)は11日、15回目となる“情報教育政策セミナー”を開催した。今回は“情報社会とあすの教育”と題して、4つの省庁からパネリストを招き、教育の情報化の現状と今後の施策について、講演会を開催した。会の後半では、会場からの質疑も交えたパネルディスカッションも展開された。前後編に分け、前編では文部省の講演とパネルディスカッションとについて、報告する。次回は、通産省、郵政省、自治省の講演をお届けする。
2000年度までに全国4万校をインターネットに接続----文部省
文部省からは、生涯学習局学習情報課長の吉川晃氏が参加、各省庁の枠組みにとらわれない政策推進体制“バーチャル・エージェンシー”構想における同省の取り組みなどについて講演した。
文部省生涯学習局学習情報課長の吉川晃氏 |
“バーチャル・エージェンシー”構想は内閣直属の省庁連携組織として、省庁の管轄という枠組みを超えてさまざまな問題に対処する目的で提唱されたもの。各省庁から横断的に人材を登用し、機動的な対応を実現するための試みだ。具体的には政府関連手続きの電子化など、電子政府の実現や教育の情報化などが含まれている。
吉川氏は、この構想のうち、教育の情報化プロジェクトにかかわる立場から、現在の状況と今後の計画を報告した。
学校現場におけるコンピューターの導入では、次のような目標を掲げている。すなわち、'99年度までに1校当たり小学校で22台、中学、高等学校で42台、特殊教育学校で8台--である。
インターネットへの接続に関しては、2001年度までに現在約4万あるすべての小、中、高、特殊学校をインターネットに接続する方針が決まっている。接続に掛かる費用に対し、小、中学校で1校あたり13万200円、高等、特殊教育学校で15万2000円が地方交付税から支給される。計画どおりにいけば、年間1万校が新規にインターネットに接続するペースとなる。
また郵政省と連携し、先進的教育用ネットワークモデル地域事業を計画している。全国30地域、約1000の学校に光通信、DSL、無線通信、衛星通信などの高速通信のインフラを設置し、'99年度から向こう3年間試験的に運用するという。
会場にミニ“バーチャルエージェンシー”が出現----各省庁担当者が横断的に回答したパネルディスカッション
文部省のあと、通産省の萩原氏、郵政省の久保田氏、自治省の井筒氏が講演したが、その報告は後編で紹介する。各氏の報告が終了した後、会場の参加者からの質問にパネリストが答える形でパネルディスカッションが展開された。メディア教育開発センター所長の坂本昂東京工業大学教授がコーディネーターを務めた。
坂本昂東京工業大学教授 |
会場内の出席者からの質問を坂元氏が集約、これにパネリストが回答するという形式をとった。聴衆からは熱意のある質問が多数寄せられ、パネリストも呼応するように真剣に応対。終始白熱した議論が展開された。以下、会場から寄せられた質問と、パネリストのコメントとを紹介する。
校内LANが敷かれなければインターネットも宝の持ち腐れ
--メモリーやHDD容量など、教育現場に導入されているパソコンのスペックが非力だといわれる現状に対して意見はあるか。「どんなスペックのマシンを導入するかは財政などの兼ね合いもあり、各地域で導入を決めている。文部省で“このスペックで”という指導をすることはないため、現場の判断に一任している」(文部省)
「ハードメーカー側から、教育機関向けの製品が開発、提供されるような形が望ましい。現在の業務向けのモデルが教育に最適とは言えない」(通産省)
--教育の情報化において不足しているものは何か。
「民間レベルで最も不足していると感じるのは、技術力のサポートだ。民間企業からの技術面でのサポートを望んでいる」(文部省)
「自分自身も驚いたのだが、学校の現場にLANがほとんど設置されていない。これではせっかく高速回線を敷設しても、現場での十分な活用ができない。インターネットとLANのバランスを保つような施策の必要を感じている」(郵政省)
教育コンテンツ向けの審査機関発足へ
--教育向けのコンテンツは数が多いが、どれを使えばいいのか判断に迷う--という教師の声が多い。コンテンツを中立的に審査するような機関を設置する方針はあるのか。「教育コンテンツの審査の基準作りは、難しいと感じている。現在文部省では、教育向けビデオの審査および推薦をしているが、その判断基準をそのまま転用していいものかどうか、議論の最中だ。ただ、近いうちになんらかの形で発足させる必要は感じている」(文部省)
「コンテンツを客観的に審査する機関の設置には非常に意義があると感じている。ただ、教育コンテンツの場合は、ゲームソフトなどと違って、売れたからいい製品だというわけにはいかない。客観的な判断の基準を含めて、現在慎重に検討している」(通産省)
--現在、子供向けのウェブサイトが不足しているように感じる。行政サイドからコンテンツ製作者にアプローチする予定はあるか。
「文部省の外郭団体が作成したソフトを使うと、ウェブサイト上の難解漢字を小学生の学習指導要領に沿うように平仮名化できる。文部省では、このソフトを配布するなどの取り組みを実施している。日本では米国に比べて、子供向けコンテンツがかなり不足していると認識している。ただ、過渡期であることも事実で、これからの充実に期待している」(文部省)
ボランティア教育に頼るのはもはや限界
--2001年には、約4万ある学校すべてがインターネットに接続することになるという。この計画を実際に運用する技術スタッフの教育はどうするのか。「現在インターネットに接続している学校の大半が、パソコンの知識がある教員のボランティアで運用されていることは認識している。彼らの超人的な努力によって、何とか運用できている、というのが現状。インターネットに接続する学校が増えれば、ボランティアではまかなえなくなるのは必至だ。文部省では、人材育成を中心とした対策を講じていく」(文部省)
パネルディスカッションの締めくくりと今回のセミナーの総括を兼ねて、坂元氏は、次のようにコメントした。「今日は、各省庁から、“バーチャル・エージェンシー”を実際に運営している担当者に出席してもらうことができた。パネルディスカッションでは、各担当者から横断的に意見を聞くことができた。従来の“縦割り行政”から、1歩進むことができたと思う。この会場にミニ“バーチャル・エージェンシー”が出現したようだ」