情報デザイン・メディアデザインに関わる教育機関を取り上げる本連載。美術系の代表として今回取材したのは、多摩美術大学美術学部情報デザイン学科だ。
デジタルテクノロジーや情報通信ネットワークによって可能になった、新たな「アート」や「デザイン」。同科では、この領域で活躍しうる、複合的なクリエイターを育成している。
美術大学では、油彩や日本画、版画、彫刻、工芸といった伝統的なファインアートの分野だけではなく、生産やビジネスに密接した、グラフィックやプロダクト、テキスタイルといったデザイン分野も重要な位置を占めている。これに近年加わったのが「情報デザイン」である。
ここでは、同学科における「情報デザインとはどのようなものか」、そして「そこではどのような教育が押し進められているのか」を情報デザインコースの永原康史教授に聞く。永原教授は、永原康史事務所を率いる現役のグラフィック・デザイナーであり、主著に『デザイン・ウィズ・コンピュータ』『日本語のデザイン』がある。
多様化が目下のテーマ
情報デザインやメディアデザインの定義は、大学や研究者ごとに違いがある。まずは、多摩美大における「情報デザイン」とは何かをまとめよう。
情報デザインは応用範囲が広い領域だ。同学では大きく、社会科学や認知科学の成果を反映した「ヒューマン・コンピュータ・インタラクション」※1(HCI)とインフォグラフィックスやサイングラフィック、タイポグラフィーなど伝統的なインフォメーションデザインをふまえ、電子メディアを中心に、コミュニケーションメディアへの展開を考える「メディアデザイン」の2分野がある。
現在「先端技術をデザインによって、使えるようにしていく」「最先端で使い道が分からない技術の可能性を探っていく」ための3つめのジャンルを形成中である。全体に共通することは、「いますぐ使えるというよりは、未来を形成しうるデザインかどうかを基準に考えていく」ということだという。そのために、多様なアウトプットを実現することが当面の目標となっている。
*1:ドナルド・A・ノーマン博士らが提唱した。須永剛司教授のスタンフォード大学客員教授在籍時における研究テーマでもある。
美術大学という特性上、学生が先端技術そのものを学ぶことはない。しかし、実際に研究されているもの、あるいは研究者と一緒にその使い道を考えていく──そんな新しい利用方法の発想/発明は同コースの領分となる。
電子メディアと聞いて多くの人がウェブを思い浮かべるだろう。しかし、同学ではその先を見ている。
「いま一番身近なのはウェブですが、もうそろそろパソコンのブラウザーで見る時代は終わると思います。学生作品にも、ケータイやほかのデバイスを対象としたもの、フィジカルコンピューティングのように、インターフェースそのものが日常に浸透したものが増えてきています」
この連載の記事
-
第5回
iPhone
意外に知らない、アドビの大学教育への取り組み - この連載の一覧へ