テレビ局が電波利権を独占する
テレビのアナログ放送は2011年に停波する予定で、その「跡地」としてVHF帯の電波が空くことになっている。この帯域は約70MHz。その上、UHF帯の再編で60MHz、合計130MHzが空く予定だ。
130MHzといってもピンと来ないかもしれないが、これは莫大な資産である。2000年に行なわれた欧州の第3世代携帯電話の周波数オークションで、イギリス(人口は日本の半分)では100MHzに総額225億ポンド(約4.5兆円)の価格がついた。現在、地上波テレビ(NHKと民放)の年間売り上げは約3兆円だから、この周波数の時価はざっと数兆円だろう。
しかし、この貴重な国民の共有財産の使い道が、ほとんどの人の知らない密室で決められようとしている。10日に総務省の「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」の第9回会合が非公開で行なわれ、「ISDB-Tmm」※1が採用される方向らしい。
※1ISDB-Tmm ワンセグ(ISDB-T)を発展させた、モバイル向けのマルチメディア放送規格。音楽や映像などのコンテンツを、ストリーミングやダウンロードで配信する用途に使う。NTTドコモやフジテレビなど5社が合同で設立したマルチメディア放送企画LLCが推進している(関連記事)。
また「密室」で決まった
ISDB-Tmmを提案しているのはテレビ業界だから、要するにテレビ局が立ち退いた電波の跡地にテレビ局の子会社が入るということを意味する。地上デジタル放送が始まるとき、周波数変更(アナアナ変換※2)に1800億円もの国費を投入した理由は「空いたVHF帯を有効利用する」ということだったはずだが、これでは国費を投入してテレビ局の電波利権を拡大する結果になるのではないか。
※2アナアナ変換 デジタル放送用の電波帯を空けるために、現在のアナログ放送に使われているUHFのチャンネルを変更すること
さらに不可解なのは、この国民全体にかかわる問題が、業界の関係者だけの非公開の「懇談会」で議論され、その内容さえほとんど報道されないことだ。テレビ局も、その系列の新聞社も報道管制をしいて、自分たちの既得権を守るためにこの問題を国民の目から隠そうとしているからだ。地上デジタル放送のときも、こういう密室で決めてしまい、コピーワンスなどが大問題となっている。
しかも現行のISDB-Tは国際規格ではあるものの、日本とブラジルしか使っていない日の丸技術で、事実上の国際標準は欧州規格の「DVB-H」だ(関連リンク)。かつて携帯電話で、日本はPDCという日の丸規格に固執して世界市場で孤立し、今や携帯端末業界は、11社合わせても世界市場のシェアが9%という存亡の危機にある。それなのに携帯放送でも「負け組」の日の丸技術を採用して世界から孤立するのは、ほとんど自殺行為だ。
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