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エンジニアを中心にIT業界で働く人々の間で、プロジェクトマネジメントの国際資格「PMP(Project Management Professional)」の受験者が急増しています。受験者の多くは、PMP資格のバイブルとも呼ばれる「PMBOKガイド」という本を中心に勉強をしていると思いますが、PMBOKガイドからそのまま出題されるのは試験問題全体の一部にすぎず、合格には“プラスα”の勉強が必要となります。そこで、本連載では、主にその“プラスα”を取り上げ、プロジェクトマネジメントとPMPへの理解が深まる「特別講義」を週1回掲載します。
PMP資格試験勉強におけるPMBOKガイドの位置づけ
前回の記事でPMBOKを理解するためにPMBOKガイドを学習するという説明をしました。
もう一度おさらいしますと
・PMBOK……業種に依存しないプロジェクトマネジメントの知識体系
・PMBOKガイド……PMBOKの要約本
これは、PMBOKがプロジェクトマネジメントの概念であり、この概念を要約して掲載しているのがPMBOKガイドということです。PMP資格試験を突破するには、この要約だけが掲載されているPMBOKガイドだけを勉強するのでは十分ではありません。試験は、PMBOK概念全般から出題されますが、ガイドブックはそれらすべてを網羅して説明していないのです。
では、これを踏まえて、試験問題の構成を整理しますと、次のようになります。
①PMBOKガイドからそのまま出題される問題
②PMBOKガイドを元にした応用問題
③PMBOKガイドからさらに踏み込んだ知識、および関連する知識を問う問題
④PMP職務規定(PMPが遵守すべき行動規範)に関するものと、その応用問題
この連載ではPMBOKガイドに十分な説明がないために、読者にとっては勉強しづらいであろう内容、②、③に属するものをピックアップして解説していきます。
最初に取り上げるのは、PMBOKガイドの「立上げプロセス群」の中で紹介されているプロジェクトの選定手法の1つ、「経済評価モデル」についてです。
経済評価モデルについて、PMBOKガイドでは用語紹介のみにとどまっており、それ以上の説明がありません。しかし、用語だけ覚えていても、何の役にも立たないことはもちろんですが、用語として紹介されているということは、PMP試験対策として理解しておくべきスキルの1つと捉えた方がいいでしょう。試験ではその内容、簡単な使い方についてまで問われると思って差し支えありません。今回の第2回連載から第4回連載までの3回にわたり解説していきます。
経済評価モデルとは
組織では常に複数の案件が持ち上がっているのが普通です。どの案件をプロジェクトにして立ち上げるか。経営の視点からは限られた資源(お金)の中で最も効果のある投資を行なわなければなりません。
この効果の観点にはさまざまなものがあります。業務のスピード、業務の正確さ、商品の品質、省力化、社員の士気、法規制の遵守など。そして、いずれもこれらの目的の先には売上を伸ばし、またはコストを削減し、結果として利益を増やすという思惑につながっているのです。
プロジェクトが利益を増やすためのものであるならば、組織にもたらすであろうお金(キャッシュ)をプロジェクトの価値を測るものさしにして、プロジェクト選択の一つの基準にしようというのが経済評価モデルです。 このキャッシュには流入分である「キャッシュインフロー」と流出分である「キャッシュアウトフロー」の2つがあります。キャッシュインフローからキャッシュアウトフローを引いた差分が組織にもたらされる「キャッシュフロー」になります。
そのプロジェクトへの投資はいつ取り戻せるか?:回収期間法
それでは、このキャッシュフローを理解したうえで、プロジェクトへの投資額をプロジェクトが生み出すキャッシュフローでいつ完済できるのかを知るためには、どのように計算するのかを考えてみましょう。
まず、プロジェクトの成果がもたらすキャッシュフローを累積していき、その額がプロジェクトへの投資額を上回る期間を求めます。
経済評価モデルにはいくつかの手法がありますが、この期間がより短いプロジェクトを採用するのが回収期間法です。回収期間法は計算が単純で分かりやすく、また、過大な投資を防ぐ指標(財務安全性)としても使用できますので、プロジェクトの提案や案件の足切りなどに多く用いられている手法です。
しかし、この方法は投資額を回収した後のキャッシュフローがまったく考慮されていないので、回収後にどれだけ収益をもたらすのかという視点が抜けています。そしてさらに大きな欠点は、キャッシュフローの時間的価値が考慮されていないということです。
キャッシュフローの時間的価値とは?
「10万円を今もらうのと、1年後にもらうのはどちらがいいですか?」と聞かれたらどちらを選びますか? よほど変わり者でない限り、今と答えますよね。お金は運用することで増やすことができるということを私たちが感覚的に知っているからです。仮に利率10%で運用したとすると、10万円は1年後には11万円に増えます。これは言い換えれば現在の10万円は1年後の11万円と同じ価値だということです。同様にプロジェクトへの投資額とその成果であるキャッシュフローは発生のタイミングが異なるため、単純な比較はできません。ある同じ時点に修正した上でこれを比較しようというのが、キャッシュフローの時間的価値を考慮した考え方です。
将来のキャッシュフローを現在の価値に直す。
では、実際にどうやって将来のキャッシュフローをある時点に修正するのかやってみましょう。ここでは、ある時点のことをすべて現在として扱うことにします。この場合、キャッシュフローをある時点に修正するということは現在の価値に修正すること、すなわち現在価値を求めることを意味します。
利率10%の運用で10万円が1年後に11万円になるのですから、これを式で表すと、
10万円×(1+0.1)=11万円
となります。では、逆に10%の利率の下で1年後に11万円になる現在価値はいくらでしょうか。
11万円×1/(1+0.1)=10万円
で求められます。
このときの1/(1+0.1)のことを割引率といいます。そして11万円からその現在価値10万円を求めることを「割引く」という言い方をします。同じ利率で2年後のキャッシュフローが11万円のときの現在価値を求めるには、2回割引く必要がありますから、
11万円×1/(1+0.1)2≒9万1000円
となります。
いかがでしょうか。キャッシュフローは、その額が同じであっても獲得できる時期が先であればあるほど、現在価値に直したときの目減りも大きくなることが理解できたでしょうか。
次回は、この時間的価値を考慮した経済評価モデルについて具体的に説明していきます。
- 今回のポイント
- ・出題範囲は、PMBOKガイドだけでなくPMBOK概念全般から
- ・回収期間法は投資を回収できる期間がより短いプロジェクトを推奨する方法
- ・プロジェクトの経済的価値を知る方法にはキャッシュフローの時間的価値を考慮するものと、しないものがある
- ・キャッシュフローの時間的価値の違いを修正する指数を割引率という
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