「面白い」だけの本も、「売れる」だけの本も、僕は作りたくはない。
2007年 10月 25日
おもしろそうと思った企画が実際に「おもしろい本」になり、そのうえ「売れる本」にもなるのがいちばんだけど、そうそういつもうまくいくわけではない。面白さの質を見抜けないと(編集者をやるのは)難しい
「おもしろい」と「売れる」の両方は難しいけど、どちらか片方ならいけそうなことはある。そのときに、「おもしろいけど、あまり売れなさそうな本」と「おもしろくないけど、売れそうな本」のどちらかを選んでつくれといわれたら、やはり自分は前者を選んでしまうだろう。
(ラノ漫―ライトノベルのマンガを本気で作る編集者の雑記―)
「面白い」ことは「商品価値がある」こととイコールではありません。消費者は無料のコンテンツには寛容ですが、有料だと人が変わったように厳しくなります。どんなに面白がってもらえても、買ってもらえないのでは意味がありません。ブックマークしていた記事の中に、ジャンルは違えども、編集者さん二人が似たようなことを語っている部分があった(ただし、スタンスは真逆?)。
作家や編集者が「面白い」と思っても、数千人の読者が熱狂的に支持する「面白さ」でも、部数が4桁では単価が4~500円くらいのマンガ単行本だと採算が取れません。価格がものすごく高く設定できるなら話は別ですが、マンガ本に2000円とか5000円とか出してもいいという人は少ないでしょう。
以上のような現実をふまえると、軽々しく「面白ければなんでもいい」とは言えなくなります。出版不況の中、作家が出してくる面白さの質をしっかり見極めて取捨選択ができないと、編集者はつとまらないように思います。
いい機会なので、「面白い」と「売れる」について、自分の考えもメモしておきたい。
僕の場合、企画を考えるとき、「自分が面白がれる本なのか?」が第一にある。
自社・自分の状況によっては、「面白くないけど売れる(or売れそう)」な本を作れるのがプロではないかとも思うが、僕はその域に達していない。
自分が面白いと思えない本を全力では作れないし、ましてや他人(読者)に自信をもって薦めることもできない。
満足できる仕事ができないのが目に見えているので、僕は「面白い」要素がまったくない本は(よほどの事情がないかぎり)作らない。
では、自分が面白いと思ったものはどんどん本にしているかというと、そうでもない。
僕は、自分の中の「面白いフィルター」を通過した企画を、今度は同じく自分の中「売れるフィルター」に通している。
企画によっては、「商品として採算が取れないだろう」という理由で、ここでハネらねる。
それは、僕が商業出版の編集者だからと言えばそれまでだが、もう少しウェットな理由もある。
僕は、自分が本当に面白いと思った企画や著者には、本当に売れてほしい。
これは面白い、他にも面白がる人がいるはずだ、そう思った本が全然売れなかったことほど、悲しいことはない。
だから、出せば売れる(だろう)という確信が持てない限り(そういう情報・材料が集まらない限り)、その企画は進めない。
今は出版のタイミングではない、と思えば、寝かすなり違う切り口を考えたりする。
自分の中で、毎回、二段階の企画会議をやっているようなものだ。
上記の過程を経た企画は、(理論的には)「面白い」と「売れる」を満たす企画である。
もちろん、現実はそんなに甘くなくて、それらの絵空事を実現するには骨が折れる。
自分が思っていたほど面白い原稿があがってこなかったり、鉄板で売れると思っていた内容でコケることもある。
「売れる」についていえば、どんなに企画を精査しても、僕の場合、10冊中、2-3冊は明らかな失敗作になる。
初版どまりどころか、大量の返品に、クラクラしそうになるときもある。
悔しいけれど、そのあたりが自分の限界なのだろう。
また「面白い」と「売れる」は、場合によっては、反比例の関係になる。
「面白い」内容・本作りにこだわると読者が逃げたり、「売れる」ための本作りに徹したら、何の変哲もない本ができたりもする。
だからといって、そのどちらかを選べと言われても、僕は困る。
編集者である限り、面白くて、売れる本を作りたい。
二兎を追うのが困難なのは知っているけど、それでも二兎を追う方法を考え続けるのが、僕にとっての仕事である。