防水スマホなのに水没故障、キャリアの説明は十分か? IPX5・IPX7・IPX8とは

防水スマホ

防水性能のあるAndroidスマートフォンを使っているからといって「防水」を過信すると、そこには悲惨な結末が待っているかもしれない。防水スマホでも水没故障するのだ。

「そんなことは当然じゃないか」と思う人も多いだろう。だが、ドコモ・au・SoftBankなどのキャリアが配布しているカタログ冊子や防水スマホのCM動画を眺めていると、現在の防水スマホについて勘違いしているユーザが実は少なくないのではないかと危惧される状況なのだ。

防水に関する規格 IPX5・IPX7・IPX8とは

まず、前提として防水に関する規格を多少理解しておく必要がある。

読者の皆さんは、防水性能を示すIPX5やIPX7、IPX8といった「IP」から始まる記号を見たことはあるだろうか?

このIPから始まる記号は、IEC(国際電気標準会議)で標準化されている規格でエンクロージャ(ハードウェアの筐体)による保護等級を表す。JIS(日本工業規格)の電気機械器具の外郭による保護等級とも統一されている。

上記の3つの記号の"簡単な"意味は以下のとおり。

  • IPX5…噴流に対して保護する性能を示す
  • IPX7…水に浸しても影響がないように保護する
  • IPX8…潜水状態での使用に対して保護する

これらの保護性能は一定の条件(後述)を満たした試験によって確認される。

その上で、各キャリアがカタログなどで表示している意味は以下のとおりとなる(各社ほぼ共通のため代表としてドコモの記載を引用する)。

IPX5 内径6.3mmの注水ノズルを使用し、約3mの距離から12.5L/分の水を最低3分間注水する条件であらゆる方向から噴流を当てても、通信機器としての機能を有することを意味します。
IPX7 常温で水道水、かつ静水の水深1mのところに携帯電話を沈め、約30分間放置後に取り出したときに通信機器としての機能を有することを意味します。
IPX8 常温で水道水の水深1.5mのところに携帯電話を沈め、約30分間放置後に取り出したときに通信機器としての機能を有することを意味します。

防水性能の範囲外の状況例

カタログなどに記載されている説明では、今ひとつピンと来ないかもしれない。防水できない(防水性能として保証できない)例をいくつか挙げてみたので確認してほしい。

状況 理由
風呂 水温が常温(5℃〜35℃)でないため。
温泉 水道水(真水)ではなく、水温も常温(5℃〜35℃)でないため。
プール 水道水(真水)ではないから。
水道水(真水)ではないから。
(IPX7の場合)静水ではないため、浸水する可能性あり。
石けん・洗剤 これらが溶けた液体は水道水(真水)ではないから。
サウナ 湿度が25%~75%ではなく、室温も35℃を超えるから。
キャップ・カバー類が閉まっていない 差込口などから浸水するから。

どうだろう。「そこ、ダメだったんだ」と意外な状況があったのではないだろうか。風呂もダメ、プールもだめ、海もダメ、川もダメ、温泉もダメ…となると、なかなか防水性能を発揮する状況が限られてくるのが分かる。

キャリアによる防水の説明はどうなっている?

さて、IPXから始まる記号の意味について理解していただろうか。もし知らなかったとしても、筆者としては無知だと責める気には到底なれない。キャリアが周知すべきところ、ユーザにとって分かりづらい場所でしか説明していないからだ。

ユーザは混乱しないか:Xperia Z1のCM動画を例に

とりあえず、一例として、Xperia Z1のCM動画を見てほしい。動画中では、男性が川の流れの中で潜水し、Xperia Z1で動画撮影をおこなっている。Xperia Z1はIPX8の防水性能を有しているため、この程度の潜水には耐えられるものと思われる。実際に耐えられるのだから、Sonyがこのような動画を公開していたとしても問題ない。

ただ、そもそも防水の規格についてほとんど分かっておらず、キャリアのカタログ・Webサイトで「防水」とあれば全ての端末が同等の防水性能を有していると考えてしまうようなユーザも存在するはず。しかも、おそらく少なくない人数だろう。

そういった知識レベルのユーザが動画を見て「最近の防水スマホは、ここまで出来るのか」と認識してしまい、IPX7端末とIPX8端末を区別しない可能性は否定できない。短絡的だと非難することは容易だが、もはや大衆的なものになったスマートフォンにおいて、その責任をユーザに全て押し付けることは妥当ではないだろう。

ドコモ冬モデル「AQUOS PHONE ZETA SH01-F」の防水性能はIPX7だが、購入者が「防水だから川遊びも大丈夫でしょ?」と考えかねない。IPX8端末でなければ耐えられないような激しい潜水を行い端末を水没故障させてしまうような事例が、来年の夏に発生しそうな気がしてならない。

そのような事例を発生させないにする義務がキャリアにはあるはずだ。

カタログでの説明

そこで、ドコモ・au・SoftBankのカタログ(2013年10月時点)を確認してみると、各社で微妙に異なる周知方法を採っていることが分かる。

カタログ(上からドコモ・au・SoftBank)

au・SoftBank

au・SoftBankは、各端末が1ページから2ページで紹介されているページでは説明していない(auは、ページ下部に赤字で説明している機能・仕様一覧表ページへの参照あり)。パンフレット中程にある機能・仕様一覧表の下部で、小さい字だがそれなりに目立つように説明がなされている。

ドコモ

ドコモは、auと同様に各端末が1ページから2ページで紹介されているページでは説明していないものの、ページ下部で小さく説明ページヘの参照がある。au・SoftBankと大きく異なるのは、機能一覧ページでも説明がなされていない点。下部に赤字で「防水・防塵に関するご注意(中略)詳しくはP82」とだけ記載されている。しかし、カタログの最終ページである82ページで他2キャリアよりも大きめのスペースをとって説明がされている。

Webサイトでの説明

au・SoftBank

Webサイトの方がカタログより親切な説明スタイルとなっているのが、au・SoftBank。個々の端末ページごとに防水性能に関する説明がなされている。

au(Xperia Z1 SOL23)
SoftBank(AQUOS PHONE Xx 302SH)

SoftBank公式サイト

ユーザが防水性能について疑問に思った場合に、カタログのように仕様・機能一覧表ページに説明があるよりも、個々の端末ページに説明が記載されている方が分かりやすい。

ドコモ

ドコモはどうか。残念ながら、au・SoftBankと異なり、個々の端末ページにおける説明がある場合とない場合が混在している。説明がない場合は、防水性能を有するかどうかのマークがあるだけだ。

ドコモ公式サイト

しかし、別ページ「防水ケータイをご利用のお客様へ」でカタログ同様にわかりやすく図付きで説明している。防水等級に関する定義的な説明はないものの、一般ユーザ向けには十分な注意喚起だろう。

ただ、その別ページに対するリンクが個々の端末ページに用意されておらず、ナビゲーション面で不十分なことは否めない。このページは、「ホーム>お客様サポート>困ったとき、分からないときは>故障・修理について>故障・トラブルを未然に防ぐには>防水ケータイをご利用のお客様へ」という場所に存在している。水没故障してから初めてページの存在に気がつくことになりそうな気配だ。

防水性能、区別できる?

各キャリアで、それぞれ一長一短がある説明方法だが、これではユーザにとって分かりやすいとは言えない。

IPX7の端末のページとIPX8の端末のページを比較して、「どちらも防水で、特に違いはない」という意見が出てきてもおかしくない。カタログなどで簡単に見る限りでは、素人目には区別がつかないからだ。

現在、「防水」はAndroidスマートフォンとiPhoneの大きな差別化要因となっており、「防水が必要だからAndroidにする」という人も多い。それにしては、キャリアによる防水性能に関する説明が手薄なように感じるのは筆者だけだろうか?

おまけ:IPコードの仕組み

ついでに保護等級(IPコード)の仕組みについても簡単に見ておこう。

IP◯△

まず、記号の前半部分「IP」だが、これはコード文字で"International Protection"の略。

次に、IPに続く数字。これは、例えば「IP◯△」とあった場合、◯が外来固形物に対する保護等級(以下、防塵等級)を表す第一特性数字、△が水の浸入に対する保護等級(以下、防水等級)を表す第二特性数字と決められている。防塵または防水の性能がない場合や、試験を実施していない場合、性能があるが表示しない場合は、◯や△に「X」が用いられる。

仮に防塵等級が5級で防水等級が7級の場合、まとめて表示するなら「IP57」、個別に表示するなら「IP5X/IPX7」となる。

なぜ防水規格は2つ並べられることが多い?

スマホの防水性能を表す場合、「IPX5/IPX7」「IPX5/IPX8」のように、5級と7級もしくは8級が並べられることが多い。これはなぜだろうか?

簡単に答えを書いてしまうと、防水等級の1~6級と7・8級とではタイプが異なる等級だから。1~6級は水の噴流に対する保護、7・8級は潜水に対する保護を表す等級であるため、それぞれの防水性能を有する場合は並べて記載されるということになる。先の例の「IPX5/IPX7」なら、5級と7級の防水性能を有することを示している。

水に対する保護等級

第二特性数字 要約 定義
0 無保護 -
1 鉛直に落下する水滴に対して保護する。 鉛直に落下する水滴によっても有害な影響を及ぼしてはならない。
2 15度以内で傾斜しても鉛直に落下する水滴に対して保護する。 外郭が鉛直に対して両側に15度以内で傾斜したとき、鉛直に落下する水滴によっても有害な影響を及ぼしてはならない。
3 散水(spraying water)に対して保護する。 鉛直から 両側に60度までの角度で噴霧した水によっても有害な影響を及ぼしてはならない。
4 水の飛まつ(splashing water)に対して保護する。 あらゆる方向からの水の飛まつによっても有害な影響を及ぼしてはならない。
5 噴流(water jet)に対して保護する。 あらゆる方向からのノズルによる噴流水によっても有害な影響を及ぼしてはならない。
6 暴噴流(powerfull jet)に対して保護する。 あらゆる方向からのノズルによる強力なジェット噴流水によっても有害な影響を及ぼしてはならない。
7 水に浸しても影響がないように保護する。 規定の圧力及び時間で外郭を一時的に水中に沈めたとき、有害な影響を生じる量の水の浸入があってはならない。
8 潜水状態での使用に対して保護する。 関係者間で取り決めた数字より厳しい条件下で外郭を継続的に水中に沈めたとき、有害な影響を生じる量の水の浸入があってはならない。

防水性能の試験について

当然のことながら、防水性能を確かめる試験では一定の条件が要求される。

等級ごとに、さらに条件が加わる。概ね、前述したキャリアによる性能の説明をクリアできる試験条件となっていると考えてよい。

一般的要求事項

IPX1~IPX8のいずれの等級でも要求される試験時との大気の状態は次のとおり。

  • 温度範囲:15~35℃
  • 相対湿度:25~75%
  • 大気圧:86~106kPa

IPX5

細かいので省略。以下の動画が分かりやすい。

IPX7

  • 高さが850mmに満たない被試験品(外郭)の場合は、最下端が水面から1mの位置とする。
  • 高さが850mm以上の被試験品(外郭)の場合は、最上端が水面までの距離は150mmとする。
  • 試験時間は、30分間とする。
  • 水温は、被試験品(外郭)自身の温度と5℃以上の差があってはならない。ただし、被試験品(外郭)を充電状態又は動作状態で試験する場合には、個別製品規格において条件を変更してもよい。

IPX8

個別製品規格で特に規定がない場合には、試験条件は受渡当事者間の協定とするが、その条件は、IPX7の試験条件より厳しいものとし、かつ、外郭が継続的潜水状態で使用されることを必ず考慮しなければならない。

※詳細は、JISC(日本工業標準調査会)ホームページで確認できる。