5年は前になる。
近所のスーパーでキャベツ一玉68円とか、卵10個パック198円とか、そういう物価だった頃だ。
体調を崩して仕事を辞め、貯金を切り崩した後は、幸い申請が通った障害年金と、リハビリとして始めたアルバイトで暮らすようになった。
その時考えていたのが、「いつ生活保護を受けることになるかもわからないから、支出をその範囲で抑えられるようになっておこう」ということだった。
いつまた働けなくなるかもしれないし、年金が打ち切られるかもしれない。
役所で一度相談し、説明を受けたことはあったので、金額はその時教えてもらっていた。
ちなみにその時は水際対策で断わられたわけではなく、まだ貯金がある段階で、働けなくて収入の当てがないと相談したところ、手続きの仕方などを保護担当の人が親身になって教えてくれた。
おかげで「お金がなくなったら生活保護があるし、役所で追い返されることもない」という安心感が持てて、そこから体調も安定し始めた。
話を戻して、当時住んでいた自治体では生活保護費は住宅扶助を上限まで使って13万円だった。
簡易キッチンとユニットバスの狭いワンルームなのだが、1万円近く超過している。
なので、13万円以内で生活するには生活費を諸々込みで67,000円に抑える必要があるわけだ。
バイト先への交通費は別にしておいて、通信費はスマホ(格安SIM)と家のネットを合わせて約9,000円。
水道代はほぼ基本料金なので隔月2,400円。電気・ガス代は(※当時)平均5,000円。
これを固定費として、月々15,200円の支出は確定していることになる。
ここから食費、雑費、被服や美容費など捻出するわけだが、人付き合いがなく出かけることがないので交通費がかからず、近隣に図書館があり、元々趣味が読書なので娯楽にも対して金がかからないのもあって、案外暮らせるものだった。
障害者手帳のフリーパスでバスに乗れば交通費はさらに節約できたし、割引になる美術館や自治体主催の無料の講座などに参加したりもできた。
一方で、歯医者の定期クリーニングや美容院の予定が入ったりすると一気に苦しくなるのも事実だった。
衣服代も予算を圧迫するので、靴はとにかく安いものを探し、ワークマンの980円のキャンバスシューズに行き着いた。
工夫をすれば暮らせるが、収入がある時は普通にやっていたこと(歯医者での定期クリーニングや、三か月に一度の美容院)が「贅沢」となり、小綺麗な格好をするのが難しくなるため、友人同士の集まりやおしゃれなカフェなど、身なりを値踏みされそうな場所からはちょっと足が遠のく。
月13万円はそんな生活だった。
しかし、その「工夫をすれば暮らせる」さえ、あくまで5年前の話だ。
それからロシアのウクライナ侵攻が始まり、円安も進み、物価がどんどん上がっていった。
まいばすで78円で買えていた板チョコが今は税抜148円だ。
光熱費は、使用量は減らしたのに基本料金と単価がバカみたいに上がり、倍になった。
いつも鶏むね肉を100グラム68円で売っていたスーパーでは、100グラム98円になった。
サバ缶は158円が258円になった。
まいばすの味がしないバナナなんぞ78円が気付いたら128円だが、それでも相当安い方だ。
chatGPTに相談すると「業務スーパーや作り置きを活用しましょう」などと言ってくる。
あのな、この世の困窮してる人間のそばに業務スーパーは必ずあるのか?
誰にでも徒歩やバスで行く体力があり、自炊する気力や知識や環境があると思ってるのか?
そういう話をしてるんだ私は。と、小一時間chatGPTを詰めてしまった。不毛な時間だ。
経済的に余裕がなく、さまざまな事情で自炊も難しい人が、安く食べたい、とにかく腹を満たしたいという時にそこにあって手が届くのは、現実的には安い菓子パンでありPBのカップヌードルだったりするのだろう。
普段からちゃんと食事をしている人がたまの間に合わせに食べるならいいが、常食するには体に悪すぎる、それらの食物でも「食えることは食えるんだからいいだろう」と言うのは、奇しくもマリー・アントワネットが言ってないとされる「パンがないならお菓子を食べればいいじゃない」という状態だ。
おおマリー、お菓子は安くとも体に悪く、民衆のQOLを下げてしまうのよ。
マリア・テレジアも草葉の陰で泣いている。
今は何も調べずにこれを書いているが、多分生活保護費が引き上げになったとかってことはなく、(むしろ引き下げの話をしてるくらいだ)同じ金額のまま、物価は爆上がり、交通費も光熱費も上がり、カツカツからキュウキュウで皆生きているんだろう。
(私はもう無理だと思ったので、貯金を諦めて生活費の上限を上げた。金がなくて食えなくなったら最悪死ぬからもういい)
とはいえ、これがどのくらい政治のせいなのか、友人も妹もいないタイプのメロスである私にはわからない。戦争とか温暖化の影響を、一体誰がどうしたらどうにかできるんだろう。
何もわからない。