成りたくて歯科衛生士になった
中学受験をして、自称進学校に通っていた。親が何故受験をさせたかは当時よくわかっていなくて、ただ可愛い制服が着たかった。思春期とうまく付き合えなくて、6年間薄暗く、小汚く、全く勉強をせず過ごした。高校生になっても、自称進学校で受験の準備ができることや、良い大学に行くことの価値はわからなくて、この学校を出た後に世界があることが分からなかった。現実の解像度が低かった。72dpi。それでも国語だけは勉強しなくても出来たので、入れる大学に入った。世の中のことがなんにも分かってなかった。
大学も単位ギリギリ、サボりにサボって、ゼミもサボって、お情けで卒論を通してもらった。就活もほとんどしなかった。知人の紹介で就職したが、半年も待たなくてすぐ辞めた。
歯医者のバイトだけ楽しくて、資格を取ろうと思って学校に行った。県内だと、ちょっと頑張らないと入れない倍率の高い専門学校を選んだ。社会に出て、世間知らずを自覚して初めて、親が必死に中学受験をさせた意味を知る。入る壁が高いのには意味がある。壁の向こうにいる人間は同じ志を持っている可能性が高い。幸い受験は突破できた。己の愚かさを350dpiの社会にまざまざと見せられ、過去の頑張らなかった自分を恥じていたので、少し救われる。専門学校は楽しかった。
成りたいものになって少し救われた、自分のことが好きになった。3年間1クラス、雰囲気が良くて楽しくて、小汚い6年間と何もしなかった4年間が払拭できたと思った。
本当に歯科衛生士の仕事が好きで、働きたいのに、歯科関連の情報に触れると涙が出てくる。
成りたい自分になったのに、青春コンプレックスも殺したのに、死んじまいたいよ。
歯科関連の講演会が近くであるんだ、今何もしてない、だいぶ休んで、カチカチに動かなかった体が動く、友人とも会えるようになった、講演会行こうかな、専門の先生いるかも、会いたいな、そしたら今自分が何をしてるか話して、衛生士に戻りたいって話すのかな。いま涙が止まらなくて、たぶんまだ休み足りないんだ。もう少し休んで、体を整えて、成りたい自分でいられるように。好きな自分に戻れますように。