文通相手を探していたところ、1914年(大正3年)に出版された少女向け雑誌『處女』(処女の旧字)を発見した。
この雑誌は大正時代の少女が読者投稿を行うものであり、文通相手の募集も紙面で行われていたのだ。
しかし文通を出そうにも紙面に住所を書いている少女たちはもうほとんどが死んでいるので、しかたなく1914年『處女』9月号に掲載されていた投書を読んでいたところ、ある女性が「女にもてない夫を持つた私の感想」というものを投稿していた。
最初は単なる愚痴かと思ったが、読み込むうちになんかなんだか気分が落ち込んでしまった。
とりあえず書き起こすことにする。
私がこの家に嫁いでからもう今年でちょうど5年になります。夢のように過ぎた5年の間には可成(かなり)色々な事がありましたが、楽しいことも悲しい事もみな断片のことであって、私の心に根深く止まっているというようなものは殆どなかったのです。
根本の気に染まない所へ嫁いだということは、いくら考えても私自身ではどうすることも出来ないものと、目をつぶって諦めておりました。
まったく迂闊なようですが、自己ということや、結婚、愛情などということについて考え始めたのはつい近頃のことなのです。
ぼんやりと無心なうちにまかせてきた今までの私が嫌に感じたことを申してみますと、今なお続いている夫の道楽ということでしょう。
しかし私がそれを嫌に感じるというのは、世間普通の人のする嫉妬という意味では無く、道楽をしている独りよがりの夫が、いかにも気の毒に思われるからなのです。
夫が遊びだしたということに私が気づいたのは、嫁いでから2年ばかり後のことでした。あるいは以前から遊んでいたのかもしれませんが、私があまり注意して見なかったせいか気がつきませんでした。
世間にもままある物質上から、余儀なく家庭の犠牲になったというような嫌な性質のもとに嫁いだ私は、夫に対してまるで愛情はありませんでした。
したがって、家庭というものがいかにも潤いのない、しぱしぱした、無趣味なもののように感じられて、新婚当時だれしもが味合うような、スウイートな気分は味わずにしまいました。
そんなわけで、私が夫に対して執着心がないから、夫が道楽をしても冷静な態度を持って客観することができたのかもしれません。
夫が私をもらった動機というのは、ある場所で初めて私に会ったとき、どこが気に入ったのかということを、非常な熱望を持って親たちに申し込んだのです。そうして学位も何もない夫は、金の地力をもって私をめとったのでした。
しかし趣味もない粗暴な性質の夫の愛は一時的のものであって、年の経つにつれて平凡な形がつまらなくなり、少しずつ花柳(かりゅう。現代でいうとキャバクラか)の巷に恋をあさるようになりました。
しかし女房にさえ愛されない男が、浮気な社会のひとたちに、どうしてもてましょう?
いつも無駄にお金を使うばかりで、心から充実した気分になったことはないようです。ときどき、可成(かなり)のぼせていることもあるようですが、いつも相手に反応がないので結局は失望に終わっているのです。
そしてお金があるという点からかもしれませんが、なかなか望みが高く、中やそれ以下の女は気に入らないで、いつも名の売れた、ずいぶん良い方の席にも出るような女にばかり目をつけているのです。
そういう女が、どうして生半可な財産家等を相手にするのでしょう?
もてるどころか、口をかけて一寸でも顔を出してくれれば上の部なのです。
まして、風彩の上がらない、青白い顔をした、顔の狭い痩せた、女性のような型の人、神経質でこせこせと、待合の女中らでさえ困るほど細かいことに気がついて、そのくせあまり思い切りのよくない、ほとんど振られる男の資格を完全に備えているような人が、どうして女にもてましょう?
しかし割合に罪がないとでもいうのでしょうか、芸者らが誰に対しても使うような、有りふれた常套語をさも自分にばかり殊別(格別)に言われたように、欣々然(いかにもうれしそうに)としているのです。
そして私が女の話や待合(芸者と遊ぶところ)の話をされても平気でいるものですから、すべて私に話してしまいます。
先日も例の如くお酒くさくなって帰ってきて
「おい、後龍(※)が俺の顔を見て、非常に良い毛だと言っていたよ」
(※おそらく当時、日本一の美女と言われた芸者・萬龍であると推測できる)
と言う。私はそれを聞いて赤くなってしまいました。
なるほど主人の顔の毛はいいに違いありませんが、頭の鉢の割合にバカに毛ばかり沢山あるので、ぴったりとくっつかず、ちょうど30年ばかり前、いまだに髪を分け始めた頃の人のような妙な格好をしているのです。
人の悪い芸者が皮肉に冷やかしたのだと思うと、喜んでいる正直な夫の顔が、ほんとうに気の毒に見えます。
また道楽する人には似合わず、自慢そうに女房を連れて歩くのが好きなのです。
芸者らが見て、そういうことは鼻つまみなことだと知っているのか知らないのか、私を着飾らしては、芝居だのカツフエー等に連れて回ります。
そしてときおり知った顔の芸者たちが挨拶をしますと、いかにも得意そうなのです(私に対しても)。
それも男の虚栄心の一つかもしれませんが、側から見てもあまりいいものではありません。
いつでしたか、夫に連れられて芝居に参りました時、二、三人の一流どころの綺麗首がきていて、夫に向かって挨拶をしたが、すこし夫が横を向いた時、三人で首をすくめて、嫌な笑いを漏らしていました。
ふとその態度が目に入った私は、思わずカッとなって夫のそばを離れてしまいました。そして並んで芝居を見ているのがたまらなく嫌でした。
だいたい、夫にはちっとも友人というものがいないのです。ある私立の専門学校を出たのですが、同窓の人とか、気のあった友達というものはほとんどありません。
こう友達などが少ないというのも、つまり夫があまりにもわがままで、そして神経質な利己主義な人を毛嫌いする癖があるから、どうしても誰と交際しても長続きがしないのでしょう。
男に嫌われる人は、やはり女にも愛されません。
ただし金銭の前には何物も無い花柳社会のことですから、夫の背後に光っている黄金の前に、いつどんな悪どい手段を講ずるものができるかもしれません。私は胸に企みのあるような者は、夫のために近づけるほかないと思っております。
夫とはぜんぜん趣味も性格も合わないし、また夫として手頼る(たよる)にたるような敬慕すべき人格のある人とは思われないから、1人で食べてさえ行かれれば、そっちを望んでいるのです。
しかし私は今すぐここを出なければならないほど自分に差し迫った事情もないし、また今出てはずいぶん惨めな暮らしをしなければなりませんから、こうして安全に生活の保証を得ているうちに出来るだけ自分を修養し、いついかなる境遇の変化に遭遇しても狼狽えず、静かに自分の希望に向かって實行(じっこう)出来るように準備をしようと思っております。
それですから、とにかく今まで同棲した夫のために、また一度名乗った●●家のために、物質ということを抜きにして、心から夫を愛するような女を、夫のために欲しいと思っております。
しかし近頃は以前に比べると遊び方も円熟して来たし、物質によって得た愛情は長続きしない虚偽なものであるということを覚えてきたようですから、早晩気にいるような間違いのない、實(じつ)のある女を得られるであろうと喜ばしく思っています。
(終)
言うてこの人は既婚者だから弱者男性の俺の雲の上だしな そして愛情がどうのとか言うけど結局やる事やってるんだろ?
つまり、女は下方婚しないし甲斐性もないありふれた話ですよね。
弱者男性は下方婚しないし甲斐性もないですよね。
弱者男性より下の存在はいないってよくリベラルとフェミニストが言ってたよ
つまり弱男=女 弱男同士で番うのが理想的
それだ💡
貧乏華族のおひいさまが小金持ちに下方婚した話ぽくない?
増田に直系の子孫がいそう
怖い、とはちっとも感じなかったが、なぜその表現を選んだのだろうと思った。 「女は怖いんだぞと思ってほしい」って気持ちの置き換えなのかな? 畏怖するなら勝手にご先祖様の文章...
ザ・まんさんって感じのバイアスやな
自分と境遇が似てるってことじゃね? 感情のおもむくままのまんポエムを深く考察しても意味なし
答えがなく、何も生産しない、人類に寄与することは決して・・・無限に それが「まんポエ」
ゴールド・E・エクスペリエンスの決めゼリフで草😂
有限 ハイ論破
アスペで草
何が怖いのか分からん ガンダムで例えて
信頼を得ていたがやはりシャアはザビ家への復讐心を忘れてなかった みたいな話だとわいは感じた
忘れるもクソも全ては復讐の為だろあほか
信頼を得ていたがやはりシャアはザビ家への復讐心を忘れてなかった みたいな話だとわいは感じた
地球連邦の高官の腐敗みたいなことじゃないの? 知らんけど
110だけに
ぺこらじゃん
いうて男友達は居ないオッサンの方が多くない?現代は特に 職場で同僚に嫌われるオッサンは女にも嫌われそうだなってのはあるけども
女は言ったら負けってセリフを思い出した。向田邦子のドラマ「阿修羅のごとく」。 夫の浮気をずっと前から気づいているのに動じもしない妻。最後に浮気相手の女もそれに気がついて...
osaka06 いっときますが「処女」は「おとめ」と読みますからね。現代の意味とは違います。 そうなのか各所に連絡してあげた方がいいな レファレンス協同データベース https://crd.ndl.go...
なあ、このホッテントリ増田を読んだか? 110年前の女性の投書「女にモテない夫を持った私の感想」 anond:20240609163552 裕福な家に生まれ、金の力で美人の嫁をもらい、いい暮らしをさ...
『處女』大正3年12月号より 過去の女より 宇佐美米子 N様、私は今日、貴君がお帰りに成ってから、静かに今日一日の貴方の態度から延いて、今迄の貴方の総てを色々に考えながら、...
結局、遊び人に引っかかった上に恋も叶わず離婚して出戻りか ただの負け犬やん
フェミニズムみが感じられる
「女性が下した男性の評価」が女性にとって如何に高く価値を見積もられているかが分かる記事ですね 客観的に観測すると、夫を学がない、人望がない、モテないと散々にコケおろして...
友達居ないから男からもモテてない
それも女目線から下された評価でしかない
確かに怖い。 でもこれ夫や妻に優しくしないからという話じゃないと思う。(少なくともこの夫は、妻に贅沢させ、しかも当時では珍しく芝居なんかに連れ歩くなど「優しい」タイプで...
味のある文章だな〜。愛はなくても情はあるから気の毒に思うのだろうか。
この「気の毒」は8割ぐらい嫌味のつもりでは? 本人の自覚している範囲じゃ情もあまりないと思う、 いうて夫が惨めさで打ちひしがれていたらちょっと世話焼いてきそうな雰囲気もあ...
なんで女ってだけでこんなに偉そうになれるんだろうw
そこまで言ってやらんでもいいだろ