個人経営のイタメシ屋。その「個人経営」という甘美な響きから、何となく「可愛がってもらえる」「良くしてもらえる」「融通が利く」と思ってしまっていたが、その希望は見事に崩れ去ることとなる。
初シフト。料理を作る店主と、年下先輩アルバイトと僕の3名が店員だ。狭いながらも居心地の良い店内が特徴だ。
僕の相方となる4歳下の先輩バイト君。テキパキしているながらも、おっとり、静かに話す好青年だ。物腰も柔らかで感じも良い。ただ、飲み物の分量、作業容量など「そんな感じで…」とファジーな指示もあった。でも、個人の飲食店だし、そういうものかと割り切っていたのだ。
しかし、開始2〜3時間でお店が混み始めたところで、異なる様子を見せ始めた。
どうも、連携がうまくいかない。相方君も1から10を語ってくれるわけでなければ、店主も忙しく、対応がつっけんどんになってきた。なるべく店主へ質問しようとしていたのだが、「あいつに聞いて」と回される。それほど、店主はその相方君へ信頼を寄せているらしい。
そして、やはりというか、危惧していた状況へと陥ってしまう。相方君が教えてくれていない、つまり誰からも教わっていないことで店主に叱責されるようになった。
人間というのは(というか、僕が)思った以上に単純なもので、予め聞いていないことで叱責されると、途端に理不尽に感じてしまう。店主曰く「ちょっと常識で考えたら分かること」(コップの飲み口を持たない、料理の提供が何よりも最優先、ドリンク提供のタイミングなど)らしいが、あいにくその常識は持ち合わせていなかった僕である。
もしかしたらここまでは、飲食店にはありがちなことかもしれない。しかし、僕が看過できなかったのは、この店主が想像以上に短気だったことである。
面接時や、アイドルタイムは口調も丁寧だ。一見、良識のある大人に見える。しかし、混雑時にしくじったときにはたまったものではなくて、「おい」だの「馬鹿」だのといった言葉が飛び交う。お客様の目には触れないよう近くに寄ってきて耳元で言われるのはせめてもの救いか否か。
「何のために耳と頭がついてんの」「日本語分かる?」正直、僕がこの世で一番嫌いといっても過言ではない罵倒文句。それを大量に向けられるようになってからは、もう店主への尊敬は無くなっていて、憎悪の感情さえ抱くようになっていた。
個人的決定打は靴蹴りと舌打ちと物に当たること(時計を机に叩きつける)。自分の感情をコントロール出来ない大人は格好悪いとつくづく思った。
では、ほかの従業員はどのように働いているのだろうか。
先述の年下先輩バイト君(入って半年程度)。教えるのはあまり上手ではなかったが卒なく仕事をこなし、信頼を得ているようだ。入った直後はよく怒鳴られていたそうだが、今はそういった面影はなく、店主との信頼関係を構築しているように見られた。
もう一人の女性の年下先輩バイトは最古参(といっても一年程度)で、店が繁盛する前からのアルバイト。こちらも、店主からの信頼は絶大だ。怒鳴られている様子はない。
では、怒鳴られている人間はいないのか。…いた。僕の友人であり、このバイトを紹介してくれた人間でもある。僕より1週間程度しか先輩でない彼であり、僕と同様に店主の叱責を受けているが、なかなか骨太な彼である。バイトをすぐ辞める気はないらしい。
後の人間は…どうやら店に居着かないらしく、多くの人間が短期間で辞めていった、という話を耳にした。僕からしてみれば原因は明らかであるが。
そして、人生で一番憂鬱な1ヶ月間の始まり…というと大袈裟ではあるが、違いは人間の三大欲求に顕著に現れた。食欲は落ちて一日一食になり、睡眠欲に関しては寝付きが悪くなり、目覚めてすぐアルバイトのことを考えるようになった。性欲もまた然りである。頭の中の80%ほどにはいつもこのアルバイトが居座り、ほかの作業が手につかなくなる。普段はしないようなツイートも増えた。仲間にこのバイトの愚痴をこぼす瞬間が良い気晴らしとなっていた。
もちろん、「割と飲食店にはあることだよ」「慣れたら大丈夫になるよ」という声もあった。もちろん、僕から吐き出される言葉はヘイトに塗れていて、もはや客観性を失っていた。「そんなバイト、辞めたら良いよ」その言葉が天使の囁きだった。
呆れられた。「こんなこともできないようじゃ、どこに出てもやっていけない」「決断するのは早すぎじゃないか」「どうしてもっと早く相談しなかった」
「新しい仕事にもかかわらずメモも取れていない、基本的なこともできていない、そんなんで出きっこないのに『できません』は甘え」…などと言われたように思う。正直、あまり覚えていない。もはや、食傷であった。
1ヶ月後、退職する運びとなった。
果たして、完全に店が悪かったのか。僕は全く悪くなかったのか。
もちろん、経営者側と同じく、僕を「根性なし」「甘えている」と見る向きもあるだろう。
確かに、ここ最近はヘイトに任せて行動していたし、正直、勤務中の僕の動きは悪すぎた。「基本的なことができていない」とはまさにその通りで、それについては料理の提供順序が前後してしまったり、ドリンクを提供できなかったりと実際に営業に支障が出ていた。ほかのお店であっても叱られて当たり前のレベルである。
しかし、叱責され方(僕が経験なくびっくりしてしまったということもあるが)に嫌悪感を抱いてしまったこと、「失敗するとあそこまで叱られるんだ」という心持ちでバイトをするということが苦痛であったこと、が辞める決め手になった。
まだ心持ちの整理が付いていない段階であるが、この経験から学んだこと。アルバイトでも正社員でも、「価値観のすり合わせ」が大事なのではないか。
今回のケースのように、「成長のために叱責は必要不可欠」と考えている経営者のもとに「たくさん叱られたくない」と考える労働者が勤めてしまうと、それはそれは悲惨な結果となってしまう。残念ながらこの部分については、タウンワークやanやリクナビの紙面には浮かび上がってこない、「働いた人にしか分からない」部分である。そして、その「価値観」は、叱責の有無に限らず、ほかにもいろんなファクターがあるだろう。
アルバイトの場合は顕著であるが、面接でミスマッチに気づいても遅い場合がある。そのまま採用されて、ズルズル取り込まれてしまうパターンがあるからだ。
じゃあ、どうするのが良いのだろう。僕は今まで馬鹿にしていたが、就職活動であればOB訪問、アルバイトであれば事前にそのお店に偵察にいくことをおすすめしたい。少しでもミスマッチを防げる手助けになるだろう。
「アルバイト 辞め方」などで検索すれば(経験のある方はお分かりだろう)予想をはるかに上回る件数ヒットする。理由は何にせよ、それだけこの国で僕みたいに悲鳴を挙げている人間が居るのだろう。その人たちの幸せを願いたいものである。
最近・・・というかここ10年ぐらい。そういう流れだよ。 教師がへりくだって友達感覚じゃないと生徒がついてこない。みたいな流れ。 当たり前の話だけど、教える方は客だから...
取り敢えずキモい そしてコレに賛同するはてな−が沢山いるから更にキモい
文章をキモイと思うのは個人の勝手だけど、 誰も何もしないうちに赤の他人の行動を勝手に予測してキモがっててキモイ……。