2012-04-11

オウム真理教ナウい教化法”を実践した広瀬死刑囚手紙 vol.6

【vol.5「規範意識を変容させる集団」】はこちら

 これまで四つの観点からカルトについて述べさせていただきました。しかし、「入会防止」の目的なので、それに関連する内容に言及されており―学問的に説明が不十分でもあります―。オウムのすべてが網羅されているわけではありません。ましてや、私はカルトのすべてを論じることのできる立場ではありません。その意味では、本文は「オウムへの入信を防止するための手紙」でしかいかもしれません。

 この理由で、カルトへの入会を防止するためにも実学としてカルトのすべてを知るためにも専門家による著書『マインドコントロールとは何か』(西田公昭 著 紀伊國屋書店)お勧めします。

 また、本文にはオウムの教義の概念が氾濫しているので、皆様にどのように受け取られるか気掛かりでもあります。これまでも、私は多くの方々から質問を受けてきました。説明責任があると思い、できる限り回答させていただきましたが、私どもの愚行をお伝えすることには失敗することが多かったです。殊に宗教経験に係わる話になると、その方の人生経験に沿うように別の解釈をされてしまうことが多々ありました。人は自身の経験に基づいて物事を理解するものですから、無理もありません。

 ですから、この度は説明方法を変え、具体的な描写とそれを説明する文献の引用を加えました。それでも、理解が困難な点があると思いますが、ご容赦願います

 現在、私はオウムの教義や麻原の神格を全否定しています。その正当性の根拠だった宗教経験について、脳内神経伝達物質が活性過剰な状態で起こる幻覚的現象として理解しており、教義のいう意味はないと考えているからです。

 それだけに、いかなる理由があれ人間として許されない罪を犯したことは、慚愧の念に堪えません。亡くなった皆さまのかけがえのない生命は取り戻すことができないこと、ご遺族の皆さま、重傷を負われた皆さまやそのご家庭の皆さまの苦しみが今後も続くであろうことを考えると、後悔の念ばかりが浮かびます

 また、オウムの教義や麻原から心が離れた今、私は無信仰の状態にありますしかし、宗教価値は認めています信仰によって人格を高められた方々が多数いらっしゃるからです。人間には超越的な存在を感じる資質が備わっているのでしょう。それは、人類誕生して以来、いかなることがあっても―権力から弾圧されても、科学が発達しても―、宗教が存続していることが証明しています。その資質によって人格を高めることは、決して否定できません。そして、超越的存在自体も、私などが否定できることではありません。

 「超越的存在も否定できない」と申し上げると、これまで私が述べてきたことと矛盾していると思われるかもしれません。実は、「宗教経験脳内伝達物質が活性過剰な状態で教義のいう意味はない」ということも、私の個人的経験によってそう感じているだけであって、客観真実ではないと自覚しています。私の経験に基づいて、多くの方々にそれを納得していただける程度の説明をすることは可能と思いますが、科学的に厳密な証明は不可能です。元々、この種の概念は、科学的な証明が可能なように定義づけすることができないからです。そのため、カルトの超越的世界観についても、それを科学によって排斥することは、極めて困難です。

 また、前に「禅」の瞑想の例を挙げましたが、それは、オウム技法本質な違いはありません―もちろん、教義は大違いですが―。つまりオウムは多くの文化遺産採用―濫用というほうが正確かもしれません―してきたのです。この場合伝統的に承認されており、有益性もある瞑想技法と“オウム的なもの”として排斥したら、社会問題になりかねないでしょう。そして、この事情はほかのカルトについても同様でしょう。このように、社会的要因によっても、カルトを構成する要素を排斥しきることは難しいのです。

 これらのエアポケットにおいて、カルトはいつまでも生息し続けるかもしれません。

 たとえば最近は、「スピリチュアル」が話題になっています。これはいまだ「カルト」とはいえないかもしれませんが、その超越的世界観が有益なもの有害ものか注意深く見守る必要があると思います。もし、恐怖を喚起する概念が含まれているならば、影響を受けやすい人は日常生活に支障をきたすでしょう。また、「スピリチュアル」が集団化すれば、個人の価値観が相当受容して、社会通念から逸脱した行動をとる人も現れるかもしれません。

 以上の状況においては、結局、各個人が「カルト」を理解し、その基準を定めるしかないでしょう。本文が少しでもそのお役に立てれば、幸いに思います

 平成二〇年六月二五日  

 広瀬健一  

 平成二〇年一〇月二七日改訂


【vol.1「カルトに係わる契機」】へ戻る。

 

 

◆参考記事リンク

 『広瀬健一 - Wikipedia』

 『摂理資料』

 『駅長日記:サリン事件実行犯広瀬健一氏の手記をUPしました』

広瀬健一氏の直筆手記、PDFへの直リンク

 『オウム元信者広瀬健一氏の手記「学生の皆様へ」』(2008年公開)

 『オウム真理教元信徒広瀬健一の手記を一部公表。順次追加』(2011年~公開)

◆皆さんに読んで欲しい記事リンク

 『悪い知識は大切 - レジデント初期研修用資料』

 『やる夫とAAで学ぶオウム地下鉄サリン事件』

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