3月2日(土)、グランドプリンスホテル新高輪にて第8回『クランチロール・アニメアワード2024』が開催された。同アワードが日本で開催されるのは、昨年に続き2度目となる。
クランチロールは、海外で日本のアニメを配信するストリーミングプラットフォームだ。近年は、イベント展開やグッズ、ゲームにマンガの刊行や映画の劇場配給など多方面に事業を展開して、世界中にアニメコミュニティを創出している。『クランチロール・アニメアワード』は、同社が毎年、ファン投票によって優秀アニメを表彰する場として設けられ、昨年からは日本のクリエイターと世界のファンをつなぐために、日本で開催されることとなった。
今年は、昨年の倍近くになる約3,400万票が世界中のアニメファンから集まったそうで、年を追うごとに注目度が上がっていることがうかがえる。
メディアとして現地を取材してみて感じたのは、アニメのグローバルな広がりと、この場がクリエイターにとっての励みとなっているということだ。
■世界から多彩なゲストが来場する意味
『クランチロール・アニメアワード』の見どころの一つが、海外から来場する豪華ゲストだ。アニメ好きのセレブレティは海外にも数多くおり、それぞれがアニメのクリエイターを祝福したいという動機で参加している。
今年は、グラミー賞受賞アーティストのミーガン・ザ・スタリオンや『パラサイト 半地下の家族』で非英語作品としてアカデミー作品賞を受賞したポン・ジュノ監督、マーベル映画『マーベルズ』カマラ役のイマン・ヴェラーニなど、大物がプレゼンターとして登場。
プレゼンターゲストは、世界中から呼び寄せられており、オーストラリアで活躍するフィリピン出身のシンガーソングライター、イローナ・ガルシアや、インドの大人気女優、ラシュミカ・マンダナ、フィリピンのボックスオフィス女王と呼ばれる人気女優、ライザ・ソベラノなど多岐にわたる国々から、集められている。
ゲストの中には日本ではなじみの薄い人もいるかもしれないが、いずれもそれぞれの国では大スターだ。ミーガン・ザ・スタリオンのInstagramフォロワーは3,000万人を超えている。その他、ライザ・ソベラノは1,800万人、ラシュミカ・マンダナにいたっては4,200万人のフォロワーをInstagramに抱えている。
こうして世界中から著名なゲストが一堂に会することは、日本のアニメがそれだけ世界中に浸透していることの証であり、みな人生においてごく自然にアニメに接して成長してきているのだ。
ミックスゾーン取材でゲストの何人かと話すことが出来た。彼ら・彼女らは、人生におけるアニメの影響の大きさを熱心に語ってくれた。
ドラァグクイーンのアクエリアは、アニメは「どんなファンタジーであっても、それになれるということをいつも教えてくれる」と言い、アニメはドラァグクイーンとしての活動に大きなインスピレーションを与えてくれていると語ってくれた。
ラッパーのシェイ・リンゴは、10代の頃にアニメにハマったそうだが、それが「アニメ」であると特別認識せずに接していたらしい。「ONE PIECEもポケモンもドラゴンボールも、それが日本のアニメだということを知らずに見て影響されていた。成長していくにつれて、アニメがどういうものかを理解し、日本文化へのリスペクトを持つようになったんだ」そうだ。彼は、辛い幼少期にアニメが勇気を与えてくれたそうで、アニメが人生の重要なロールモデルを失った子どもたちに夢を与えていると言う。その他、イローナ・ガルシアやラシュミカ・マンダナも自身のキャリアや創作活動にアニメは大きな影響を与えていると口々に語った。
■国内クリエイターが世界とのつながりを実感する場
そして、より重要なことは、国内のクリエイターにとってこのアワードが大きな刺激になっていることだ。
受賞者は登壇後の囲み取材で口々に、海外からの反響をSNSで見かける機会はあるが、どこまで熱狂的かの実感は持ちにくいものだと言う。やはり、国内で日本語の中で生活していると、世界とつながっていることは頭ではわかっていても、実感が湧かないだろう。
だからこそ、こうしてアワードによってそれを可視化することには大きな意味がある。アニメは世界中で人気があるという記事はたくさんあるが、実際にどのくらい好かれているのか、どんな風に人々に影響を与えているのか、そのリアルな内情まではわからない。このアワードはクリエイターが直接にそれを体感できる大きな機会となっているようだ。
最優秀監督賞を受賞した『呪術廻戦 懐玉・玉折』の御所園翔太監督は、「SNSで日本語以上に多くのコメントを見かけるけど、日本にいるので(海外ファンの熱狂を)ダイレクトには感じとれていなかった」と囲み取材で言っていた。
また、こうしたアワードは商業的な競争の中で埋もれてしまう作品の発掘にもつながる。最優秀ロマンス賞を受賞した『ホリミヤ -piece-』の石浜真史監督や最優秀オリジナルアニメ賞の『Buddy Daddies』の浅井義之監督は、受賞結果を意外と受け止め驚いたようだ。石浜監督が「(賞をもらうことは)こんなにも嬉しいものなのか、と思うぐらい嬉しい」と語っていたのが印象的だった。
ファン投票がベースになっているので、一部の作品に賞が集中しがちな傾向があるのは確かだが、優れながら埋もれがちな作品を改めて広める効果もあったのではないだろうか。それとこの2名の監督や『呪術廻戦 懐玉・玉折』でキャラクターデザイン賞を受け取った平松禎史氏のように、長年業界を支えてきたベテランに華やかな舞台でスポットが当たることにも大きな意義があると思う。
クランチロールは、日本国内ではサービス提供していないためにまだ日本のアニメファンには馴染みが薄いかもしれない。しかし、クリエイターたちの心象には大きな影響を与え始めているので、日本で開催することの意義は確実にある。今後もぜひ日本でアワードを開催してほしい。