毎年恒例のアニメ総合セミナー「あにつく」が、2021年9月18日から20日までの3日間開催された。
おもに3DCG制作やデジタル制作の裏側を、実際に関わったスタッフが解説する本セミナー。アニメファンや次世代のクリエイターに向けて発信するイベントであり、商業メディアでは語られないような部分まで切り込む内容で注目が集まっている。
セミナータイトル「もぎたてフレッシュ! 開発便り!!」と題した本講演は、その初日に配信されたセッションのひとつ。東映アニメーションによる、『プリキュア』シリーズを題材にしたものだ。
長年続く人気シリーズで培ったノウハウと、それに使用された最新ツールの開発秘話……。知られざる制作舞台裏とは?
キャラクターの表情を自動修正してくれるツールが誕生!
本講演で制作秘話を語ってくれるのは、東映アニメーションの加藤康弘さん、中村有希恵さん、山口雅志さん、フリーランスTDの服部剛さんの計4名。
まずは社内で「アングル補正ツール」と呼んでいるツールについて解説してくれた。
「アングル補正ツール」とは、角度によって見栄えの劣るカットを骨格レベルで修正をする東映アニメーション独自開発のツールのこと。
本来なら各スタッフがそれぞれ修正するのだが、リードアニメーターが修正したものを各スタッフで共有できれば作業がスムーズに進む……そんな考えから開発がスタートしたものである。
そのツールを、『ヒーリングっど プリキュア』に登場するキャラクター「キュアグレース」を例に実演解説しよう。なおツールは実用段階になく、これから現場に投入される開発中のものとなる。
「アングル補正ツール」の仕組みは、あらかじめ登録しておいたいくつかのアングルの補正済みの表情データをもとに、自動計算を行いさまざまなアングルに適用できるというもの。
つまり登録済みのキーとなる表情以外の、「中間の表情」も自動で整えてくれる便利なツールなのだ。
なおキーとなる表情は自由に登録できるので、登録した表情が多ければ多いほど補正の精度はグングンと上がっていく。
通称「アングル補正ツール」は2つのツールで成り立っている。正式名称は「ta Maya Pose Register」と「ta Maya Apply Pose Cam」。
編集ソフトの「Autodesk(R) Maya(R)」に対応したツールとして、「Autodesk(R) Maya(R)」の作業中に任意で起動し補正等を実行していく。
プログラムはフリーランスクリエイターの服部剛さんがひとりで作業し、設計、プログラミング、テストまで含め約4ヶ月で開発。アイデア出しの期間を含むと約7ヶ月にも及んだ。(TDの実稼働は約120時間。)
それではなぜツールを2つに分けたのか?
当初はひとつのツールとして開発していたものの、大量にポーズを登録しなければならない手間や、今後の拡張性を考慮した時に2つに分けた方がいいという結論に達したからだ。
ゲーム用のコントローラーで操作する! 独自の3Dレイアウトツール
東映アニメーションが独自に開発したツールがもう一本ある。それが『映画トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』で導入されたインハウスツールの「HM Layout Cutter」だ。
「HM Layout Cutter」は手軽に3Dレイアウトが作成できるツールで、パソコンに慣れていないスタッフも想定した操作感を目指した。
レイアウトとは作画作業の準備段階であり、背景つきの原画とも言える素材だ。このレイアウトをもとに背景と原画が作成される。
3Dレイアウトはまさに3Dで描くレイアウトで、手書きの時代では不可能だった、自由なカメラワークで画作りがおこなえるものだ。
それでは実際に3Dレイアウトを作成してみよう。
なおツールは上から順番に機能が並んでおり、単純に最上段から操作していくだけで誰でも完成形まで持っていけるようUIがデザインされている。
本ツールは簡単操作が売りだがそれだけではない。なんとゲームコントローラー(ゲームパッド)で操作ができるようになっているのだ。
これはPCに不慣れな方を想定し、マウス以外でも操作できるよう考えられたものだ。
なお「重力モード」と呼ばれる機能を使うとカメラが重力の影響を受け、キャラクター視点で歩き回るようなゲーム操作感覚でカメラ位置を決めることもできる。
このツールは作業効率のアップを目的に開発された。レイアウト作業そのものにかかるコストと美術作業の軽減、そして画面イメージの明確化などなど……。
アニメ制作ではまず「絵コンテ」を作業し、それから「レイアウト」に移る。その際、コンテは監督または演出家が担当、レイアウトは原画マンが担当するのが一般的だ。
しかし演出家が3Dレイアウトを使えば、よりイメージを明確化できるとともに、レイアウト完成までの時間を圧縮することができる。
原画マンの負担が軽くなればその分、原画作業のクオリティーアップにつなげられる。これらのさまざまなメリットを考慮した結果、本ツールが開発されることになったのだ。
『映画トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』で実戦投入された本ツールだが、まだまだ改善の余地がありブラッシュアップを検討中だ。また将来的にはAIの会社が提供する技術とも連携したいと、開発担当の山口雅志さんは語る。
「アングル補正ツール」に「3Dレイアウトツール」……独自のツールを次々と開発し作業環境を進化させていく東映アニメーション。社が制作する話題作はもちろんのこと、今後のデジタル環境の変化にも注目したい。
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