来店するお客様が全て動物という不思議な百貨店・北極百貨店が舞台の映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』。新人コンシェルジュである秋乃が、先輩たちに見守られて日々の仕事に奮闘する姿を、美麗なタッチで描いている。
本作の主人公・秋乃役の川井田夏海さん、彼女を見守る謎のペンギン・エルル役の大塚剛央さんの対談が実現。お互いが演じた役への印象や、声優という仕事への想い、“何度でも足を運んでほしい”と語った作品の魅力などをお話しいただいた。
未完成な自分と秋乃を重ねて――原作を読んだ感想をお聞かせください。川井田 オーディションを受ける前に読ませていただいたんですが、先生が描かれる絵の独特なタッチがすごく印象的で。「これをどうやってアニメーションにするんだろう?」「たくさんあるお話をどう映画としてまとめるんだろう?」とワクワクしました。台本はいただいてすぐ読んだんですが、秋乃が四季折々の中でどんどん成長していく姿や、百貨店が変化していく部分がとても綺麗に描かれていて、なんて見事なんだろうと感じました。
大塚 僕も原作を読んだとき、独特な雰囲気に引き込まれました。台本はエルルとして、このフィルムの中でどうなるのかを念頭に置いて読み進めたのですが、秋乃の成長が軸にある、とても前向きな気持ちになれる作品と思いましたね。接客の難しさなどさまざまな困難も描かれていますが、そこに秋乃が立ち向かう姿に元気をもらえる、頑張ろうと思える、そんな暖かな空気を感じました。
――演じるうえで、大切にしたことはなんですか?大塚 エルルが持っている、北極百貨店への愛は意識して演じました。彼はわかりにくい言い回しをしますが、百貨店に対する愛のようなものを確かに持っていて、現状にも満足していないと思うんです。エルル自身も、どうすればいいのか探っていて、そこに秋乃という存在が現れた。彼女の真っ直ぐな姿を見て、エルルも感じ入るものがあったんじゃないかなと。
川井田 きっと秋乃役に私を選んでくださったのは、秋乃と同じで私がまだ完成されていないところがあるからじゃないかなと思うんです。現場でも、先輩方との掛け合いのなかで私自身いろいろと感じて出てきたものもあって、私が先輩方とのお芝居で引き出していただいたものと、秋乃がお客様と接する中でにじみ出たものとが重なって、秋乃の真っ直ぐさにつながるといいなとひとつひとつ大切に演じました。秋乃という役は私一人で作り上げたのではなくて、一緒にお芝居をした皆さんのお力添えがあったからこそだと思っています。
秋乃 (C)2023西村ツチカ/小学館/「北極百貨店のコンシェルジュさん」製作委員会
――川井田さんから見たエルル、大塚さんから見た秋乃の印象はいかがでしょう?大塚 好きなことに全力で、一直線に向かっていけるところは、やっぱり魅力的に見えますね。困難にぶつかっても折れずに、コンシェルジュへの憧れを実現しようとする彼女が持つ力が、この作品全体を明るく照らしていると感じます。
川井田 エルルは核心を突くことを言っているんですが、わかりやすい言葉を使わないので、どう説得力を持たせるのかがとても難しそう、と思ったのが第一印象です。私がエルル役だったとしたら、どう演じたらいいか迷いに迷った気がします。彼の行動を追っていくと、いつもお客さんの中に紛れて百貨店のどこかにいて、ずっとみんなの様子を見ている。なんだったら、レストランで一人お酒を飲んでいたりとかして(笑)。百貨店をすごく愛しているということが伝わってくるんです。私も秋乃としてとても愛のある会社の一員になれたと感じながら働いておりました(笑)。でも、エルルには自分のことを話してほしいですね。
大塚 誰も彼が何者なのか、秋乃に言っていないですからね。
川井田 そうなんですよ。秋乃はただのお客様だと思って接客していて。
大塚 秋乃が自分で気づくまでは言わないのかもしれないですね。
エルル(C)2023西村ツチカ/小学館/「北極百貨店のコンシェルジュさん」製作委員会