雨音読書ブログ

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読書感想|エッセイ|『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』

こんにちは、天音です

 

雨音読書ブログへようこそ!

 

今回は『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』を紹介します。

 

 

基本データ

タイトル

本を読んだことがない32歳が

はじめて本を読む

作者

かまど

みくのしん

出版社 大和書房
出版日

2024年8月15日 第1刷

2024年9月1日   第2刷

ページ数 319(単行本)

 

『走れメロス』の記事が話題になったときに読んだので、続きがあると知ってこの本を手に取りました。

↓元記事

https://omocoro.jp/bros/kiji/366606/

WEB版と書籍版の違いも楽しみでした

 

あらすじ

「生まれて一度も読書をしたことがない男が本を読んだら、一体どうなるんだろう」
そんな素朴な疑問がきっかけで生まれた「本を読んだことがない32歳が初めて『走れメロス』を読む日」というオモコロ記事。
1人の男が人生で初めて本を読む。ただそれだけの記事が爆発的に拡散され、100万人の目に留まる大ヒット記事に……!

この本でしか味わえない、不思議な読書体験をぜひお楽しみください!

アマゾンより引用

 

感想

まずはシンプルに感想を一言。

超良かった!

みくのしんさんの豊かな想像力が圧巻です。

 

本に苦手意識を持っているみくのしんさんの読書を、かまどさんがアシスタントするという会話形式のエッセイ。

(……に分類されるのかな?)

この本でみくのしんさんが挑戦する話は、『走れメロス』『一房の葡萄』『杜子春』『本棚』の4篇です。

いずれも有名な短編ですね。

学生時代に読んだことがある人も多いのではないでしょうか。

 

『本棚』は『変な家』で大ヒットの雨穴さん特別寄稿作品です。

 

『変な家』はわたしも読みました!

読みやすい本だなーと思っていたのが、構成やセリフをあんなに考えて書かれていたなんて……。

作者である雨穴さんの気持ちを、まさかこの本で知るとも思ってなかったです笑

 

本を読む人たちを読むっていう二重構造で、2人が読んでいる文章を読者であるわたしたちも一文ずつ追うことができ、本文もみくのしんさんの感想もリアルタイムで楽しめます。

 

元の記事にかまどさんが「本は伏せて置かないでほしい」とみくのしんさんに言うシーンがあるんですよ。

書籍版ではカットされているようですが。

そういう部分含め、初心者が本との接し方を知っていく過程を見ることができ、みくのしんさんのように読書が苦手な人にもおすすめできる本だと思います。

 

なんといっても、みくのしんさんの心象風景の言語化が素晴らしい。

 

五感全部を使った読書で、とてもダイナミックに物語を感じている様子がこちらにもダイレクトに伝わってきます。

しかもそれを全文やるんです!

 

濃厚どころの話じゃないですよ。

 

みくのしんさんは時折読書を「疲れる」と言っていたんですが、それだけ細部まで共感しつつ読もうと思ったら疲れるだろうなと……。

わたしもどちらかといえば頭の中で映像を動かすので、そこにも共感しながら読みました。

 

読書は基本孤独だけど

本書というかこの企画のいいところは、本に慣れていない人が慣れている人に即座に質問できる体制で読書に臨んでいるところです。

お2人の掛け合い自体も楽しかったです

みくのしんさんが突飛に思えるような感想や行動をしても、かまどさんは否定しないし、「みくのしんの読み方でいい」と見守ります。

 

こういうの言うとスカしたふうに聞こえるかもしれませんが、基本的に読書は孤独な行為だと思います。

読書会とかSNSの読書グループなど、読了後に感想を言い合うことはあっても、読むのは1人じゃないですか。

 

アニメや映画は一緒に見ながら感想を言うこともあるし、最近はネットでも同時視聴ができるけど、本はそう言うのが難しいです。

ライブ配信で"Read With Me"みたいに同じ時間を過ごしても、みんな文章を追うスピードは違いますからね。

 

読んでる最中は「本と自分の対話」って感じ。

でもこの本は一行ごとにみくのしんさんが割り込んで感想をいちいち伝えてきます。

そこにかまどさんが説明したり、2人で感想を言い合ったり。

一行だから読んでる箇所がズレることなくピッタリ一緒。

新感覚な体験型読書……アトラクションに乗ってる気持ちでした。

 

しかもその感想がいちいち核心をついているので、みくのしんさんの割り込みが楽しみになるんですよ。

自分が知ってる本だと「このあたり来るぞー」って思ったり。

 

読書を邪魔されるのが楽しみだったのは初めてです。

 

わたしが思う読書のいいところ

この章はまだ自分でもまとめきれていないこともあるので、言葉足らずなところがあるかもしれませんができれば許してください。

 

この本を読んでいるときに唯一不満だったことは、読書に対して「共感」があまりにも大きな地位を占めていたことです。

みくのしんさんは、自分が共感できないこととできることへの感度が相当違うようで、読書中でも「自分と一緒」に重点が置かれているように感じていました。

 

もちろん共感は本を読むことにおいて大事な要素です。

ただ、わたしは読書を「共感できるかできないか」では判断できないと思っているところがあります。

 

『複眼人』や『コレクターズ・ハイ』はわたしにとって共感できない本でしたが、今でもなぜか折に触れて開く作品です。

 

読書のいい所の一つは他者が自分に内在することで、何かを「保留」させることができるようになることだと思います。

例えば、本書でも最初の方にみくのしんさんが言ってましたが、どの情報が大事かわからないと言うところ。

後から伏線やトリックに気づくことがありますよね。

2度目でセリフの重みが変わったりとか。

作中だけではなくて、昔読んでわからなかった話が年を経て理解できるようになることなんて多々あります。

共感する人物が変わることだってある。

 

これは心の中にその物語を置いておかないとわからないことです。

 

「人のことばをそのまま受け取り、持っておく」っていう、わかるわからない以外のもののスペース作りみたいな感じ。

 

なので、本書を読んだ後にもう一度WEB記事に戻ってみてめちゃくちゃ感動したんですよ。

https://omocoro.jp/kiji/462699/

こちらはみくのしんさんが一度挫折した『山月記』にリベンジする記事でした。

 

純粋に読書を楽しむみくのしんさんを本書で見守ってからこの記事を読むと、その凄まじい成長っぷりが顕著に表れています。

 

わからない・知らないを、抱えたままに進むめるって楽しみや思考の可動域が広がるんだなと思いました。

 

まとめ

みくのしんさんの感受性が爆発してました!

ユーモラスだけど的確な説明に、彼が見ている情景が目に浮かぶようです。

 

それと最後!

ラストページの著者紹介のところ。

ここにもみくのしん節が効いていて、気を抜いていたので声を出して笑ってしまいました。

突然グルッとこっちを向いて話しかけてきたというか……。

皆さんは最後まで油断せず読み切ってくださいね。

 

読書が苦手な人は「読んでみようかな」と、読書が好きな人は「本ってやっぱりいいよな」と。

この本を読んだら改めてそう思えるはずです。

読了後、自然と本に手が伸びる作品でした