つぶやくだけで作業の記録と共有が可能に
「農地やライスセンターで、スマホに向かってしゃべると、その情報がデータ化される。GPS(全地球測位システム)を使い、いつ、どこで、誰が何をつぶやいたか、特定されるしくみです」
農家向けの音声つぶやきシステムを、佛田さんがこう解説する。スマホにマイクを付け、現場でつぶやくと、情報が他の従業員に共有され、自動でテキスト化される。メモしたり、スマホに文字を打ち込んだりする手間が省けるのがウリだ。現場で撮った写真も共有できるので、遠隔地から作業のアドバイスをすることもできる。
農作業の記録をクラウドに上げ、共有するシステムは、農機メーカーやシステム会社などさまざまな会社が既に運用している。ただ農家からは、農地で、あるいは会社に戻ってから情報を打ち込むのが手間だという声をよく聞く。作業中は手がふさがったり、汚れたりすることも多いので、使い勝手が悪いという。
佛田さんは、手軽に記録できるしくみを作って、農家の悩みを解決しようと、石川県能美市の北陸先端科学技術大学院大学の研究グループと共同開発を進めてきた。近い将来の商品化を目指していて、同社の圃場(ほじょう)などで実証実験を重ねているところだ。
音声つぶやきシステムは、現場で手軽に記録できるので、記録の正確性が担保しやすい。加えて、熟練者の知識を若手に継承するのにも役立つと期待されている。
「スマートライスセンター」で乾燥調製の情報を生産に生かす
作業内容のデータ化と共有は、音声つぶやきシステムの開発だけにとどまらない。
「40年前に建てたライスセンター(※)を、『スマートライスセンター』にリノベーションしたんです」(佛田さん)
新たなライスセンターでは、もみの乾燥調製時に重量や水分量、整粒や着色粒の情報が収集される。これらの情報を施肥や水管理といった生産現場の情報と照らし合わせれば、栽培管理の向上につながり得る。このスマートライスセンターと、音声つぶやきシステムをかけ合わせることで、経験と勘に頼りがちな農業の「見える化」が容易にできるようになるかもしれない。「暗黙知を形式知に変えることができる」と佛田さんは期待している。
※ もみの乾燥調製作業のための施設。乾燥、もみすり、選別、袋詰めなどを行う。
コメ1俵を原価6000円で作りたい
効率化を追求するのは、生産原価の低減を目指しているからでもある。個別経営の2020年産米の60キロ(1俵)当たり生産費(資本利子、地代を含む全算入生産費)は、1万5046円(農林水産省調べ、第1報)だった。組織法人経営でも、60キロ当たり1万1524円だ。
「コメ1俵を原価6000円で作りたい。そのために大切なのが、1人当たりで生産できる面積をいかに増やすかということなんですよ」と佛田さんはいう。
1俵6000円というのは、現状の組織法人経営の生産額のおよそ半額だ。ぶった農産は現在、30ヘクタールを3人で耕作している。
「うちは加工品を手掛けるなど、高付加価値型の販売をしているから、3人で成り立つけれども、本当は30ヘクタールは1人でやるべき面積ですよね。30ヘクタールをいずれは2人で、ゆくゆくは1人で管理する。昔だったら100ヘクタールを10人で耕作したけれど、いずれ4人で経営するくらいにならなきゃいけないんじゃないか」
将来は25ヘクタールを一つの構成単位とし、これを1人で管理することになると予測している。
いろいろな要素が重なり合う経営に
効率を求める一方で、従業員の働きやすさも重視する。重労働を極力減らし、作業の安全性の向上や、休日の確保、過剰な労働の回避に努めている。詳しくは、下記の記事で確認してほしい。
音声つぶやきシステムやスマートライスセンターも、これらを実現させるための取り組みの一つだ。佛田さんは、目指す経営の形についてこう話している。
「原価を下げるだけだと、もちろんダメで、従業員にとって働きやすくならないとダメ。一方で、働きやすくなるだけでもダメ。いろいろな要素が重なり合う経営にしなければならないと思っています」