どれだけ「相手」を知っているか

職業柄、批判することが多い反面、称賛することは少ない。ジャーナリストの職業病といえば、そうかもしれない。全てをその通りだと受け取ることはめったになく、「きっと何かその裏にあるだろう」と憶測する。これはジャーナリストには不可欠な気質かもしれないが、時には大きな間違いを犯し、やり切れなさを覚えることも出てくる。

批判することで、その相手より事の真相をより理解しているといった印象を与えるが、実際は事の全容を知らないのに批判することが少なくない。批判は健全な言論活動には欠せないが、批判の内容が偏見や間違った情報に縛られていないかがやはり問われるだろう。

話は飛ぶ。アマゾンやNetflixで米TVシリーズ番組をよく見る。当方はメル・ギブソン監督の映画「パッション」(2004年)でイエス・キリスト役を演じた米俳優ジェームズ・カヴィーゼルのファンだ。映画「オーロラの彼方へ」(原題 Frequency、2000年映画)を観てからファンになった。最近では、米CBS放送のTV番組「パーソン・オブ・インタレスト」(Person of Interest) で元CIAエージェントの主人公(ジョン・リース)を演じ、好評を博した。

ジェームズ・カヴィーゼル(Wikipediaより:編集部)

ところが、「パーソン・オブ・インタレスト」を宣伝するイベントに出演した時、ファンからの質問に答えるカヴィーゼルを見て驚いた。彼はもぞもぞとしゃべり、何を言いたいのか時には聞き取れない。後で、彼は口下手で話すのが苦手というのを知った。多くの作品で名演技をしてきた彼が口下手とは信じられなかった。流ちょうに作品を紹介し、ファンを喜ばすだろうと考えていたので、そのイベントの動画を見て正直かなり驚いた。

彼は小さい時から内気で話すのが下手だった。その彼が俳優の道に入り、多くの名作品を演じてきたわけだ。彼は敬虔なキリスト信者としてハリウッドでは有名だ。口下手のモーセに神は兄アロンを遣わしたように、カヴィーゼルには英語教師の奥さんが彼を支えているという。

最近は「スーパーナチュラル」(Supernatural)に凝っている。14シーズンは終わり、15シーズンが撮影中だと聞く。当方は11シーズンまで観た。長編人気番組だ。その主人公の悪魔ハンターの1人、ディーン・ウィンチェスター役を演じるテキサス出身の俳優ジェンセン・アクレスも同じように口下手だということを知った。番組の中のディーンを見ていると、考えられないことだ。

ジェンセン・アクレス(Wikipediaより:編集部)

インタビューの中でユーモアたっぷりに語るのは常にもう1人の主人公サム役のジャレッド・パダレッキ。アクレスはそれを脇で見ていることが多い。一方、パダレッキは若い時から俳優の世界に入ったが、うつ病を抱えている。その彼を日常生活で励ましているのがアクレスだ。2人は番組の中だけではなく、実生活でも本当の兄弟のようなのだという。番組の長寿の秘訣はその辺にあるのだろう。2人とも結婚し、子供がいるが、家族付き合いしているというから羨ましい。

観客を大笑いさせた後、家に帰ると、「風呂、飯、寝る」だけをしゃべり、自宅では寡黙だという落語家の話を聞いたことがある。テレビや映画で見たり、聞いたりするファンは俳優に一定のイメージを抱く。そのイメージから俳優の性格や日常生活を推測することが多いが、カヴィーゼルやアクレスはそのイメージとは違った世界を通過してきたことを知って新鮮な驚きを感じた。

話を戻す。私たちはどれだけ相手を知っているだろうか。中途半端な情報や生半可な知識、メディアを発信するイメージに躍らされていることが多いのではないか。政治の世界でもそうだろうし、隣国に対する好き嫌いも同じではないか。これはジャーナリストの世界の生きる当方にとっても忘れてはならない点だと考える。

「今日、何人の人を批判し、何人の人を褒めただろうか」
一日を終えてベットに就く時、数えてみるのもいいだろう。批判したことが多かった日と、称賛したことが多かった日では、ひょっとしたら、夜見る夢にも違いが出てくるかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年8月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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