ベンチャーキャピタルとハンズオン

起業というのは、産業の発展にとって、大切な機能である。資本主義の精神そのものかもしれない。その重要な起業も、資金がなければ始まらない。この起業資金の調達を支援するのがベンチャーキャピタルである。


融資等の普通の金融は、キャッシュフローが読めることを前提にしている。しかし、起業というのは、まだできていない事業、これから作ろうという事業なのだから、キャッシュフローは読めない。読めないキャッシュフローに金融をつけることはできない。できないことをやるところに、ベンチャーキャピタルの特異性がある。

もちろん、業を起こす人にとっては、主観的には、キャッシュフローが読めているはずである。そうでなければ、単なる冒険であって、社会的に意味のある起業にはならない。しかし、起業家の頭(というよりも心か)にある事業展望を、数値化し、客観化することは困難である。

起業というのは不確実な将来へ賭ける行為だから、その将来のキャッシュフローの見込みについても、起業家の構想を信じるしかない。この信じるという要素は、どんな金融についても、決して消し去ることはできない。金融は信用なのだから。要は、程度の問題である。起業家の構想というのは、いわば紙の上の絵だ。絵にすぎないものを信じていいのか。

起業家の描いた絵を信じてはいけないとしたら、投資が始まらない。ベンチャーキャピタルなど成り立たない。論点は、単に信じるのではなくて、科学的方法によって、信じることが実現していく確率を制御することである。

出資先企業への積極的な経営支援、いわゆるハンズオンも、その一つの方法である。限られた資源で出発する小さな企業は、その資源が限られているということ自体で、成功確率を小さくしてしまう。だから、そこを補う支援が必要なのだ。

例えば、製品はいいが営業戦略が悪い、事業自体はいいが人事・財務・法務などの内部管理ができていない、こういうことは、起業においては、むしろ当たり前のことである。事業構想だけでは業は起きない。周辺の支援が外から提供されれば、成功確率は高くなる。

ベンチャーキャピタルに求められることは、ハンズオンを通じて、成功確率自体を自ら制御していくことである。ベンチャーキャピタルにとって、起業家の事業構想そのものは起業家固有のものだから、信じるしかない。しかし、その実現を支援することは、営業政策にしても、内部管理にしても、一般性のあることなのだから、自らが積極的に関与できるし、関与しなければいけないのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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