日本ならではの体育会教育の限界

田村 耕太郎

甲子園準V投手がひったくりのニュースを見てとても残念な気持ちになった。これぞ我が国におけるスポーツ選手の全人格教育(トータル・パーソン・プログラム:TPP)の欠如である。同じように学生スポーツが盛んなアメリカでは、人生経験が未熟な学生がスポーツで人生を狂わせないようなプログラムがある。まずは徹底した文武両道。成績が悪いと得意なスポーツもさせてもらえない。他にはメディアとの付き合い方や人生相談である。いくら学生時代に活躍しても、プロになれるのは一握り。多くの選手は学生時代にスポーツ漬けでは後で食べていけない。また、メディアに寵児扱いされた後、人生を間違う子供もいる。日本もTPPが必要だ。詳しくは私の近著「世界のエ リートはなぜ歩きながら本を読むのか?」 を読んでいただきたい。

体育会採用と社会人スポーツという受け皿がないアメリカの学生スポーツは文武両道しか許されない。いわば日本の体育会のような甘えがない世界だ。日本の体育会の扱いは“易しく冷たい”もので、長期的には体育会学生のためにならないと思う。私は結果的に現在のアメリカの学生スポーツの在り方の方が“厳しくも暖かい”ものだと思う。

スポーツをやる学生たちに勉強をさせ、社会人としてのマナーをつけさせ、社会福祉活動にも精を出させ、スポーツ以外の能力を開発し、人間の幅を幅を広げてやるのがアメリカの学生スポーツ界での学生の扱いの目的だ。


今のアメリカの文武両道・人格形成の学生スポーツ哲学の基礎を作ったのは、ホーマーライス氏が築いたトータル・パーソン・プログラム、TPP(人格形成プログラム)である。ホーマー氏はアメリカ・プロフットボールリーグ(NFL)のシンシナティ・ベンガルズのヘッドコーチを経て、ジョージア工科大学の体育局長になった人物である。

日本政治でよく議論されるTPPとは違い、アメリカでTPPと言えばこちらが本家である。TPPの思想は「勝ち負けに勝るとも劣らない大事なものがスポーツにはある。学生スポーツをやる人間は、は人生に必要な全ての教育を受ける必要がある。人としての成功があって初めてスポーツでの成功があるのだ」というものだ。

TPPが最重視するのは学力。ざっくりいえば成績が悪いものはスポーツはできない。試合はおろか練習に参加することも許されない。そのためにスポーツクラブに最低一名の学習指導員を用意させることから始まる。部員に授業の受け方・試験勉強の仕方、レポートの書き方をことこまかに指導するのが彼らの仕事だ。

日本でも体育会採用や社会人スポーツはグローバル化時代に衰退していくとみられる。学生のためを思えば、スポーツのみ打ち込ませておくのは学生のリスクを巨大化させているだけだ。一方で、運動は脳の機能も向上させるため、文武両道こそ最も合理的な能力開発だ。

TPPは全人格プログラムなので対象は勉強だけではない。忙しさを管理するためのタイムマネジメント術、学生スポーツを終えた後の人生設計、文武両道のストレス管理、ビジネスマナーやメディア対応、人間関係、ドラッグや性的暴行を避ける知識等まで幅広く学生を指導する。

日本でもこれだけ指導してもらえれば、体育会採用や社会人スポーツがなくても道を開いていく学生は増えるのではなかろうか?

メディアによって、スポーツスターに祭り上げられてしまい、勘違いして道を踏み外してしまう若者もいる。かつてはアメリカでも学生スポーツ選手が性的暴行やドラッグ問題や銃使用等で社会問題を起こしたこともある。その反省である。その一方で、日本の学生スポーツは毎年のように不祥事を起こしている。TPPに学んだ方がいい。

TPPでは企業へのインターンの手配や地域への社会奉仕活動参加機会の提供までやってくれる。インターンをすればスポーツしか知らない状況から脱せられる。問題を起こした少年少女や若いシングルマザーをスポーツスターが慰問して懇談することはお互いにとって視野を広げ元気をもらえる。

このスポーツ選手たちの地域活動は大きな副産物を生んでいるようだ。彼らの地道な地域での奉仕活動を地元の個人や企業が評価し運動部に多大な寄付金が集まるとという。それで立派な体育館やスタジアムやジムができるのだ。

TPPのおかげでまず学生スポーツ選手たちの卒業率が倍以上に向上。また社会に進んでからの勤務態度も改善し、離婚率も減り、幸せに暮らす選手たちが増えているという。

"); // } else { // document.write("
"); // }