クラウドと著作権についての補足

池田 信夫

昨夜の記事には今までに15万ページビューも集まり、RTも5000を超えました。これはアゴラ始まって以来の記録です。ただ実際にこの判例がクラウド全般に適用されるかどうかについては微妙な問題もあるので、専門家からいただいたコメントを踏まえて、前の記事でふれなかった論点をまとめておきます。

  • まねきTV判決は「テレビの再送信」という特殊な目的のサービスで、一般的なクラウドには適用できない:これは誤りです。最高裁判決は目的も媒体も特定せず「自動公衆送信」一般を対象とする抽象的な論理構成になっており、テレビ番組だけではなく、音楽や書籍なども対象になります。
  • まねきTVは「機材の設定や配線」を行なったことが決定的で、ただ送受信させるだけでは「主体」とならない:これも違います。MYUTAは音楽のストレージで、配線も設定もしていない。PCからサーバに送って携帯にダウンロードする点でMobileMeと同じです。
  • ISPはプロバイダ責任制限法で保護される:これは必ずしもそうでなく、「特定電気通信役務提供者」はサービスの態様で決まるので、電気通信事業者が行なっているクラウド型サービスも訴訟の対象になる可能性があります。
  • まねきTVに入力される情報はすべて他人(放送局)の著作物だが、クラウドの場合は基本的には自分の著作物である:形式的にはクラウドは最高裁の条件に該当しますが、ほとんどのコンテンツは普通の文書ファイルなので、JASRACや放送局に阻止するインセンティブがない。しかしサービス提供企業としては、訴えられたら勝てないサービスを行なうことには法務部が反対するでしょう。

要するに、形式的にはクラウドは著作権法違反になるおそれが強いが、実質的にはそれが訴えられる確率は低い。また最高裁の意図も放送と音楽の既得権を守ることなので、クラウド一般を違法にするつもりはないと思われます。しかし大手企業の法務部は、コンプライアンス対策として予防的にクラウドを自粛せざるをえない。

これは検索エンジンや個人情報保護法で起こったのと同様の過剰コンプライアンスで、是正するには著作権法を改正して自動公衆送信の範囲を明示的に限定する必要があるでしょう。私は、多くの混乱の原因になっている自動公衆送信という概念を著作権法から削除するのがベストだと思いますが。

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コメント

  1. heridesbeemer より:

    この国を蝕むものの、一つに過剰コンプライアンスがあると思う。

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     とある昔、ダイアモンドマルチメディアのMP3プレーヤーがヒットしていたころ、ある家電メーカーで。

    某オーディオ担当者:MP3なんてのは、著作権の問題でとんでもありません。(JASRACに殺される?MDが売れてたので、アナログ技術がいらないシリコンオーディオを敵視していた)

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    とある、さっぱりはやっていない公営ギャンブルの会場近く。平日で、まともな人の出入りもないのに、警備員だけはやたらと、たくさんいて、来るはずのない車の整理に備えている。これは、規制に対するオーバーコンプライアンス?
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    とある、オンラインサイト

     当社でサポートしているのは、Windows+Internet Explorerと Mac OSx 10.4+ Safari 2で、それ以外の組み合わせについてはサポートしてませんのであしからず。

     おおい今は、2011年だぜ。IEのシェアがなんぼやと、思ってるねん。
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     Japanese版Wikipedia で、よくあること

    xxxxのYYYYYの記事は、ooooなので、版削除提案します。
     削除提案するなら、テメェが修正しろ。
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    片や、海のあちらでは、 to be bold が推奨されるという。

  2. はんてふ より:

    あくまで私の周囲での話です。個人情報保護法以降、企業は所有する個人情報をクラウド経由で入手できるようにし、ガラケーから認証しないと閲覧できないなどの措置を取ってきました。

    企業の皆様は非常に真面目なので、今回の判例によりコンプライアンスが成立すると、その複合コンプライアンスは一体、どのような形態になるのでしょうか。過剰コンプライアンスは、下請けイジメの権威付けにも使われますから、著作権と無関係な分野であっても、この法律を元に、また下請けや派遣イジメが行われるでしょう。

    そしてそれがスタンダードとなれば、そのマネジメントに意見でもしようものなら、仕事を切られるわけですよ。個人情報保護法成立以前からすれば、今の運用は異常である、とほぼ誰しもが思った事でしょうに。高度な運用とやらが期待できますねえ。