最優先課題は選挙制度改革の争点化

Chikirin

2009年9月に自民党から民主党への政権交代が実現して1年半弱。政権交代によって、停滞した日本経済と、制度疲労甚だしいこの国の抜本的な構造改革が行われると考えた有権者の期待は、完全に打ち砕かれました。

「支持率が1%でも辞めない」というリーダーの言葉は、紙面を埋めるため毎週のように支持率調査を繰り返すマスコミへの皮肉として、また、一年足らずで政権を投げ出し続けた過去の先輩首相達への皮肉としては有効でしょうが、一方で「国民がなんと言おうと、この地位は絶対手放さない」とでもいうような地位への執着の声にも聞こえます。

また歴史上も多く例がみられるように、政権をとった権力者がまず手がけるのはライバルの粛清であり、現状が余りにセオリーどおりに進んでいることにも苦笑してしまいます。

なぜこんなことになってしまったのでしょう?ようやく実現した政権交代が、こんな期待はずれの様相を呈している理由は何でしょう?


私の考えでは、それは、民主党に政権をとらせた勢力が、必ずしも“日本の構造改革を心から望んだ有権者”だけではなかったからです。民主党の政権奪取の功労者のひとつは、連合に代表される労働組合組織であり、もうひとつは小規模兼業農家を中心とする地方の有権者でした。

もちろん、改革を切望した都市部有権者の票や若い世代の浮動票が民主党に流れたことは最後の決め手とはなりました。しかしそれらの票はあくまでも”決め手”となっただけであり、そもそもの勝負の土台となる組織票なしに全国の小選挙区で議席を積み上げることはできなかったでしょう。

社会党の崩壊以来ずっとくすぶっていた労組の支持を取り付け、小泉政権で自民党に裏切られた地方の農業票を自民党から奪い取った小沢一郎氏の選挙手腕なくしては(都市部の浮動票獲得だけでは)政権交代は起こりえなかったのです。

だから政権をとった後の民主党の政策や姿勢が、あたかも一昔前の左翼政党とそっくりに見えることや、TPPや所得保障政策に関して常に農業関係者が最優先に語られることは当然の帰結ともいえるでしょう。

(農業票の政治力に関する分析については“農政にみる民主主義の罠”-「Chikirinの日記」をご覧ください。)

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では「抜本的な構造改革を求める勢力」の力だけで、政権をとらせることは不可能なのでしょうか?

この実現には2つの克服すべき障害があります。ひとつは一票の価値の格差です。抜本的な構造改革を求める勢力は都市部に多く、その票の価値は司法の場で違憲判決がでるほどに低いものです。まずは公正な票の重みを取り返さない限り、この勢力だけで支持する政党に政権を取らせることは困難です。

私は一票の格差は、今のこの国では「最も深刻な格差問題」だと考えています。

もうひとつの問題は、抜本的な構造改革を求める層に非常に不利な(時代遅れの)選挙制度です。現在の選挙制度では公示日以降はネット上で演説会のスケジュールを更新することさえ問題だといわれたりします。ツイッターやブログで政策の説明をしたり有権者からの問いに答えるなどもってのほか、ということになっています。

また選挙日にはわざわざ住民票登録された地域の小学校や公民館まで出向く必要があり、職場の近くでの投票もできないし、出先からスマートフォンや携帯で投票することもできません。

このため、平日の昼間から公民館に集まっての支持大会にでることが可能な人たちや、活動範囲の狭い人たちと比べて、土日も働いていたり、土日しか遠出できない多忙な都市部の人たちの選挙権行使コストが非常に高くなっています。

またこのような選挙制度の中では、立候補者側も効率的なネット上での政策討議より、毎朝の駅前での連呼のような“根性系”行動を優先する必要があるため、それらの非合理な選挙運動が嫌いな人たちは立候補自体をしなくなります。

実際、ネットやマスコミ上で政治や政策について継続的に発言している発言者の多くが、「選挙にでるなんてばかげたことは、自分には絶対できない」と考えていることでしょう。

このように、まともな人ではとても立候補する気になれないような選挙制度にしておくことによって、「どんなにバカげたことをやってでも権力を手にしたい」と思う人が当選しやすい制度が維持されているわけです。

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この現状を打破し、“抜本的な構造改革を求める人たち”が支持する政党が政権の中核を担えるようにするには、下記のふたつが必要です。反対にいえばこのふたつだけ実現すれば、政治家の言動も、有権者行動も、当選する人たちの顔ぶれも大きく変えることができるでしょう。

(1) 一票の価値の格差是正
(2) 時代にあわせた選挙制度の合理化

今の制度のまま次々と異なる政党に政権を回しても、結局は「浮動票を獲得するために口では改革を叫びながら、裏では組織票を得るために利益誘導型の政策を着々と推し進める政治家」しか当選できないし、そういう政党しか政権を獲ることができません。

今、私達が声を合わせて主張しなければならないことは、このふたつの政策を争点化すること、そして、それを最優先課題として推し進めると確約した候補者に投票すると宣言することではないかと思います。

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コメント

  1. harappa5 より:

     他の方が書いていた事ですが、「選挙当選・落選運動」をアゴラかブロゴスか、どこかのサイトでやってみたら如何でしょうか?具体的に言えば
    1、解雇規制、TPP、世代間格差等に焦点を絞り、政治家が発言した内容を採点付き(○や×付きで)で記録する(出来れば、裏付けを取った上で)
    2、選挙の時に、この記録を目安に、投票をする。
    3、結果的に、構造改革に賛成の人は、当選し、反対の人は、落選をする事につながる。
     このぐらいしなければ、世の中を変える事は、出来ないと思います。

  2. pacta より:

    選挙制度の改革が必要なことに異論は有りませんが、それだけで事足りるかは疑問です。
    理由は、抜本的改革派も自分や周りの人達が損する改革に賛成するか疑問だからです。
    公務員改革、TPP、農業改革などの都市部無党派が傷つかない政策はいいですが、年金や雇用の改革、移民などの政策は、論理的に必要であったとしても、多くの改革派を守旧派に転向させると思います。
    単純に良いことばかりではないと思いますが、選挙改革は日本のこれからを議論するために必要な改革なので、積極的に進めたいですね。

  3. iseeker より:

    同意です。現在の生活水準を維持するためには生産性の低い産業のテコ入れをする必要があります。生産性の低い業界はサービス業と言われますが、それ以上に日本の農業と公務員の生産性は低いです。ここに手を付けないといけないですが、今の選挙制度ではどうにもなりません。一票の格差を「違憲だが有効」などとぬるいことを言っている法曹界も、そろそろ日本のために仕事をしていただかないといけないと思います。「二倍以上の格差は無効」ぐらいのことを言っていただくと大きく流れが変わるかと思います。

  4. yonaoshiki より:

    自分は本気で政治家を目指しています。
    今回の記事は本当にためになりました。
    自分の目指す政治は「身近な政治」です。
    今は色んな方と出会い、そしてその方の活動してるフィールドの問題が国という壁にどこでぶつかるのか?その制度という壁は本当に今後のことを考えても効率がいい制度なのか?ということを考え、自分の中に蓄積させ、またそこで得たリアルを政治の世界に押し上げて問題解決を図っていきたい。そうやって現実に近い対策をしていくことで、より身近に政治を感じるようになればと、今の時点で思っています。
    また今の政治に対する感覚を変えなければ変えようにも変わらない。

    そのためにどうしていけばいいか動きながら考えてはいますが、実際に日本に残された時間を考えるとそんな悠長なことも言ってられない状況だとも感じています
    色々なことを同時にやらなければいけない厳しい状況だとは思います。
    しかし、本当に今誰かがやらなければ本当に取り返しのつかないところまで20代は負担を追ってしまうんじゃないか?という危機感があるのです。

    なので今回の記事で勉強したことを頭に入れ、これからの自分のアピールの一つとして、是非取り入れさせていただきたいです。

    自分はまだまだ知識不足、経験不足なので、この記事に触れられてよかったと強く思っています

    ありがとうございました

  5. 一票の格差問題なんて憲法違反が白昼まかりとおっていて日本はまともな民主主義国家だと思えません。私は議員に選挙制度を決めさせていることが根本的な問題だと思います。自分が当選しやすいように決めるのが合理的だからです。議員定数削減なんて超党派で反対するか、もしくは賛成するならミニ政党を消滅させようなどという党利党略でしかありません。このままでは一票に託した国民の意志は政治に正しく反映されません。そこで金利を決める日銀みたいに、政府から独立した機関が選挙制度を決めるようにすべきだと思います。

  6. kaku360 より:

    yonaoshiki 様  政治家でも何でも目指すものがあるのは素晴らしいことだと思います。

    ちなみに、今の日本の国政選挙で結果を左右するのは、無党派と呼ばれる既得権益とはあまり関係無い層だと思うのですが。

    一票の格差が改善され、またネットで投票できるようになることは、民主主義においてとても重要なことです。ただ、それは政権交代が期待外れに終わったこととあまり関係ありません。

    現与党が政権を獲得した主な原因はマスコミの偏った報道であり、その後の混乱はつぎはぎ与党に能力特に経験がなかったためでしょう。

    多くの日本人が評論家や経済学者の言葉に左右されることなく、自分の頭で考えて判断できるような情報環境を整えることがもっとも大切なことだと思うのですが。政治家はその業績でのみ評価され、ダメな人は退場させることができるという意識が大切でしょう。

    身近な政治というのはそういうことではないですか?

  7. chokotan153 より:

    いまの選挙制度は地域別だから、地域間の利害は反映されるけど
    世代間の利害は全く反映されない。

    地域別だけじゃなく、世代別の選挙区も作ってくれよ
    多数派にはなれなくとも
    いまは、公明がキャスティングボードを握ってるけど
    若者区出身議員がキャスティングボードを握る展開はありうる