日本経済の議論で当たり前だと思われてるけど実はぜんぜん当たり前じゃない前提条件いろいろ - 藤沢数希

藤沢 数希

その1 経済が成長すれば日本の財政赤字は改善する

経済が成長する、つまり、GDPが大きくなっていけば、国の税収はたいだいGDPに税率をかけたものなので税収も増える。一方で医療や年金などの社会保障費はGDPが増えてもいっしょに増えるわけではない。よって経済成長できれば日本の財政赤字は改善すると思われている。実際に小泉政権のときは改善していた。


しかし、国の借金、つまり国債は満期が来たらどんどん借り換えていかなければいけない。この時に金利が上がってしまったら国が負担する利息が増える。経済成長率が高まれば金利は当然上がっていく。日本のように政府が莫大な借金を抱えていると、ちょっと金利が上がっただけで支払い利息もものすごく増える。この時、経済成長率と(長期)金利で、成長率の方が金利より高くなる保証は実は何も無い。成長率>金利が続けば確かに財政赤字は改善されていくが、成長率<金利だと財政赤字は悪化する。成長率と金利がどちらが大きいかはマンキュー先生も”Deficit Gamble”と呼んでいる。

経済が成長することは(地球環境問題などを考えなければ)とにかくいいことだが、財政問題とは別けて考える必要があるだろう。経済成長はそれ自体が大切な目的で、財政赤字解消のための手段ではない。日本の財政赤字は税収に対して社会保障費が大きすぎることが原因で、これは経済成長だけで解決できないかも。

参考資料
アゴラ ある財政破綻のシナリオ 池尾和人

その2 デフレが解決すれば庶民の生活は楽になる

当たり前だが「他の条件が全て同じなら」物価が下がっていくことはとてもいいことである。なぜなら同じお金でより多くのモノやサービスが買えるからである。しかし消費者はデフレ予測によってモノを買い控える(来年の方が安くなるなら来年まで待とうと思う)ので景気が悪化したり、モノがどんどん安くなることにって企業収益が悪化したりする。その結果、雇用が悪化する。

よって日銀がむちゃな金融緩和をして無理やりインフレにすることを主張する経済学者や評論家もいる。中央銀行の通常の金融政策は短期金利を上げたり下げたりすることで、日本の場合は短期金利がゼロになってしまっているので普通の金融政策はやりつくしている。よって日銀が直接株を買ったり、社債を買ったり、満期の長い国債を買ったりして、普通じゃない(非伝統的)金融政策によって、ゼロ金利から無理やり市場に現金をばらまかなければいけない。これによってデフレが仮に解決したとすればどうなるのだろうか? 筆者はこのように溢れ出した現金は不動産や新興国の株や石油などのコモディティーに向かうと思う。そうすると石油などの多くの資源を輸入している日本では確かに物価も上がるし、不動産の値段も上がるかもしれない。しかしそれは庶民にとってよいことなのだろうか?

雇用も悪いまま、給料も低いままで、家賃やガソリン代がどんどん上がるだけのような気もするが・・・

その3 財政破綻はよくない

国債とかプラマリー・バランスとかどうも普通に生活している分にはあまり馴染みのない言葉がよく出てくるので、財政破綻とは何かというのが想像できない。しかし個人でも会社でも財政破綻とは借りた金を踏み倒すことである。国でも同じだ。

法人と言うのがバーチャルな人格のように、国と言うのもバーチャルなものだ。国が借金していると言うのは、要するに国と言う仕組みを通して誰かが誰かにお金を貸しているわけである。誰が誰に貸しているのか? それは日本の老人が持っている莫大な貯金が郵貯や生命保険などを通して国債に流れ、その国債の発行によって得た現金を政府が組織票を入れてくれそうな利権団体にばら蒔いたりしているのである。それでは老人がお金を利権団体に貸しているのか? それはちょっと違う。なぜならば国が借金をできるのは国に信用があるからで、その信用の源泉は徴税権だからだ。つまり利権団体や既得権益層にばら蒔かれたお金は、現役の労働者やこれから働く若者、そしてこれから生まれてくる子供が返済することになる。つまり老人が若者にお金を貸しているのだ。国が金持ち老人のための有能な借金取りだ。

会社の倒産も個人の自己破産も一番困るのは誰かと言うと、それは当然借金を踏み倒された債権者だ。老人が債権者で若者が債務者だとして、国が財政破綻して老人の財産を吹き飛ばせば、同時に若者が税金として返済していく予定だった借金も吹き飛ぶ。このことだけ考えれば、財政破綻は(財産をたくさん持っている)老人が大損して、若者がものすごく得することになる。

しかし財政破綻すると日本の国際的な信用もガタ落ちになるので、多くの資源を日本円を支払うことで輸入している日本経済にどれぐらいダメージがあるのかと言うのは、ちょっとやってみないとよくわからない。

その4 財政破綻してリセットすれば日本はまた高度成長する

最近はどうせ民主党政権には構造改革なんてできないのだから(自民党もできないし)、いっそのこと一旦破綻してしまった方がいいのではないかと言う意見がちらほらでてきた。戦後日本のようにもう一度高度成長するのである。

しかし一旦落ちることろまで落ちたところで、その後に本当に戦後のように経済成長するのかどうかは自明ではない。当たり前だが、生活水準を決めるのは一人当たりのGDPの絶対値で、その成長率ではない。こんな老人ばっかの国で一旦坂を転がり落ちたら、ずっとそのままかもしれない。

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コメント

  1. bobby2009 より:

    政府赤字の900兆円を踏み倒す話がちらほら聞こえていますが、それに関連して、「もし下記のような楽しい状況になったとしたら」という前提で、日本の経済がどうなるか、仮想実験的トンデモ記事をリクエストしても宜しいでしょうか?

    1)日本政府が(仮に)日銀に命じて900兆円のお札を刷り、財政赤字を一気に返済したとしたら?

    2)日本が革命で新政権を樹立させ、前政権が国内の銀行に負っていた債務(財政赤字)を無効と宣言した場合?(対外的な債権はそのまま引き継ぐ事を、外国政府に対しては宣言する事にしましょう)

  2. 海馬1/2 より:

    日本が「破綻」しても、世界に対して担保として、
    「勤勉」(低賃金と品質を含む生産性)であったこと
    ですが、額に汗して働くのは八女たので、
    中華バブルの崩壊でどうにか誤魔化すらしいです。

  3. hantaon より:

    中国以外の新興国や韓国は、90年代に一度経済が破綻し、その後力強く復活しました。日本に足りないのは危機感ではないでしょうか。そして本当の危機感とは本当に破滅しなければ決して得られないのではないでしょうか。それがこの20年グダグダし続けてきた日本人を見てきた結論です。日本はアメリカ牧場の豚としてブクブクと肥え太ってきましたが、そろそろ体の中に不健康なガスがたまり、破裂しそうです。日本は一度破綻すべきです

  4. heridesbeemer より:

    その1: 経済成長して、財政再建

     は、確かにお説のとおり、金利の上昇の方がひどくて、再建どころではない、ということもありえる。というのは、わかります。
     でも、財政はいつまでも、こんなことやってるわけにはいかないので、社会保障費の抑制、増税、経済成長のミックスで、船にたまった大量の水を排出していくしかないのでは。

    その2: デフレは、悪である

     これは、そのとおりですね。でも、インフレターゲット論者は、そこかしこで増殖中のような。

    その3: 財政破綻は、よくない

     これは、よくないのでは。破綻する前に、米国債とか放出するので、US国債が引き受けてがなくなって、あちらにも、財政危機が飛び火して、世界的な信用不安(ですめばいいが、下手すれば恐慌で、全世界的にリセット)になるのでは。
    (白馬の騎士は、中国?!)

    その4:財政破綻して、高度成長

     まぁ、これは、たしかに、嘘くさい話ではありますが。ただ、破綻するような混乱期には、織田信長、陸奥宗光、木戸孝允のような人が、出てくることを期待したいです。