いろいろ考えたけどやっぱり増税には断固反対します - 藤沢数希

藤沢 数希

参院選挙の争点は消費税のようである。筆者は消費税率を現在の5%から引き上げることを支持してきた。しかし、それは法人税の大幅減税、所得税の累進性の緩和、将来的には所得税のフラット化を実現するためであって、トータルで見ればむしろ減税するためである。それが強欲な政府は消費税を引き上げ、その上に所得税の引き上げ、特に高額所得者への累進性の強化を考えているようだ。また、法人税の減税も遅々として進まず、目標も10%台が標準である他のアジア諸国からは程遠い水準であるらしい。現在、日本の財政は危機的な状況にあるが、それでも筆者は増税するべきではないと考えている。以下、そのことについて様々な反対意見を想定しながら論じる。


所得税の累進性緩和、法人税減税、消費税増税は金持ち優遇でさらに格差が広がるのではないか

イエス。そのとおり。しかし、だから何だというのだ。グローバル化の進んだ世界では、クリエイティブな個人も、優良な多国籍企業も簡単に国境を超える。とりわけアジアにおいては香港やシンガポールなど、非常に低い税率で積極的に高額所得者や多国籍企業を誘致している国がある。このような状況では、早晩、高額所得者と多国籍企業は香港やシンガポールに拠点を移すだろうし、アジア以外の地域からアジアに進出してくる企業にとって、東京はアジアの拠点になることはないだろう。香港かシンガポールにアジア戦略の中枢機能を集中させ、東京はアジアの他の都市の下に位置する。当然、高額所得者は香港かシンガポールに居住し、主な活動は東京以外で行われるので、日本国政府に支払われる税金は限られたものになる。

高額所得者や企業に減税することにより、確かに低所得者層との格差は広がる。しかし、それはゼロサムゲームではない。このようなグローバル・プレイヤーが活躍する地域では、低所得者層の生活水準も向上するのだ。さもなくば、優秀な個人も企業も出て行き、低所得者層の生活はなお一層きびしいものになろう。さて、日本はどちらの道を選ぶのだろうか。

日本の財政は危機的な状況にあり、このままでは将来ギリシャのようになってしまうのではないか

イエス。そのとおり。このまま行けば、日本は将来、ギリシャのようになってしまう。しかし、ギリシャに何が起こっているかよく考えてみよう。国債の金利が上昇し、ギリシャ政府はこれ以上、借金ができなくなった。それで公務員や官僚、様々な官営企業に資金を供給できなくなり、その結果、公務員や官僚、政府の関連企業が容赦無い減給や解雇に直面している。また、過大に受け取っていた年金生活者の年金支給金額が大幅にカットされている。そして国際社会からの激しい非難を浴びているのだ。今まで、既得権益の上に胡座をかき、利権を貪っていた人々に市場が天罰を下した。確かに、社会は大混乱しているが、このような歪な構造が温存され続けるよりはよかったのではないか。激しい経済危機の後には社会が驚くほど発展することがある。戦後の日本がそうだったし、最近では1997年のアジア通貨危機で瀕死の状態に陥った韓国は、IMFなどの国際機関の介入で現代グループなどの財閥が解体され、多くの企業で激しいリストラが断行された。膿を出しきったのだ。その後、競争的な市場経済の中で韓国は目覚しい発展を遂げた。筆者はグローバルに活躍するエリート層では、すでに日本人より韓国人の方がはるかに層が厚いと感じている。

現在のような日本の状況で増税して、財政破綻までの期間を引き伸ばしたところで、非効率で腐敗しきった官僚組織や、死に体の産業構造がそのまま温存されるだけだ。政権与党の政治家に痛みを伴う構造改革を断行する強い意思がないのならば、我々は決して増税を容認してはいけない。いずれ市場から強制的に洗礼を受けることになるが、それは今のような、経済が成長せず、閉塞感が充満し、緩やかなデフレが続く、生ぬるい地獄のような日本経済の状況がずっと続いていくよりもはるかにマシだ。

日本の財政赤字は増税することではなく、非効率で肥大化した社会福祉を大幅にカットし、それに付随する官僚機構のリストラを断行することにより解決しなければいけないのだ。

年金が減額されたり、支給されなくなってしまうのではないか

イエス。そのとおり。そして年金が支給されなくなることは何の問題もない。なぜなら年金なんていらないからだ。当たり前だが、年金というのはマイナスサム・ゲームだ。誰かに支給される年金は、誰かが払ったものだ。自分が払ったよりも多く受け取れる者もいれば、逆に少ししか受け取れない者もいる。ゼロサムじゃなくてなぜマイナスサムかというと、カジノと同じ理由だ。ギャンブルではカジノが寺銭を抜くが、年金は官僚や年金に関わる公益法人、システム開発を請け負う民間企業や資産運用会社がいくらかの金を合法的に抜き取る。

日本の年金はさらに続きがあって、40歳以下の人たちは負け、それも大幅なボロ負けが確定しているのだ。勝ち組は高齢者と年金ビジネスに関わる官僚や企業だ。こんな小学生でもわかる簡単なことが、なぜか多くの国民はわかっていないようで、みな自分が払った以上にもらえると期待しているようだ。こんなすでに負けがわかっている不合理なギャンブルに自分の金を張り続けるなんてどうかしてると思わないか。だから年金は一刻も早く解散させるべきだ。今まで支払った保険料に、国債の金利を付けて全額国に返済してもらう。それで年金は解散だ。年金が必要だと思う者は自ら資産運用してもいいし、民間企業が提供する金融商品を買ってもいい。自分の老後の面倒は自分で見る。当たり前のことではないか。

とはいっても少子高齢化社会では増税は避けれれないのではないか

イエス。そのとおり。しかし、少子高齢化社会を回避する簡単な方法がある。移民をどんどん受け入れることだ。日本は過去の貯金があり、まだまだアジアの中では豊かな国だ。だから、日本で働きたいという若者は東南アジアや中国に多数いる。日本は今後、労働人口も減少していき、介護や保育などで労働力不足になる。そのような状況で、なぜ我々納税者は、より少ない人数で、より多くの高齢者を支えていく社会を半ば受け入れつつあるのだろうか。日本国民はマゾヒストにでもなったのだろうか。重税に耐え、老人の介護などで薄給を稼ぐ将来を日本国民は望んでいるのだろうか。筆者はそのような考えは全くもってクレイジーだとしか思えない。

まだ日本経済に余力があるうちに戦略的な移民政策を大胆に実行するべきだ。移民というのはより高い賃金を求めて移住するのであって、日本経済が衰えて他のアジア諸国と比較して高額な賃金が払えなくなれば、移民政策は非常に困難になる。だから、日本に残された時間は少ないのだ。

現在のような、既得権益層を延命させるための増税には筆者は断固として反対する。

"); } else { document.write("
"); }

コメント

  1. jpsg より:

    元官僚でしたが辞め、現在はシンガポールの金融関係の会社に勤めている者です。

    移民の箇所以外は、100%同感です。今の日本政府は本当に問題だらけです。増税して今の状態を延命するよりも、10年前の韓国のように一度膿を出し切ったほうがいいと思います。

    私のブログにも書いていますが、シンガポールの活気はすごいです。このままじゃ本当に東京は抜かされてしまう(あるいは既に抜かれている)と思います。

  2. harappa5 より:

    私は、増税に賛成です。仮に、財政が破たんしても、抵抗勢力の主張は変わらないと思います。彼らは、腐敗した現状維持によって利益と恩恵を受けて来ましたから。これからも、腐敗した現状維持のための詭弁を言い続ける事でしょう。そして、維持するための法律を作りだし、無理やりにでも維持し続けることでしょう。だから、必要な事は、彼らをたたきのめす事です。地べたに顔をこすり続け、辱めを受けさせる事です。私たちが、彼らを圧倒させる事です。その時まで社会秩序を維持して欲しい。まあ、このような理由で、増税に賛成します。

  3. 「延命」じゃなくて韓国みたいに本当に「再生」するためには一度IMFの管理下に入ったほうが良いのでは。IMFのネバダレポート(日本管理プログラム)では,8項目のうちの1.2.が公務員のリストラですが,今の政府のやり方では,1.2.をスルーして5.以下だけが強行されそうです。

    1.公務員の総数の30%カット、及び給料30%のカット、ボーナス全てカット
    2.公務員の退職金は100%すべてカット
    3.年金は一律30%カット、
    4.国債の利払いは、5~10年間停止
    5.消費税を20%に引き上げ
    6.所得税の課税最低限を年収100万円まで引き下げ
    7.資産税を導入して不動産には公示価格の5%を課税、債権・社債については5~15%の課税、株式は取得金額の1%を 課税。
    8.預金は一律1000万以上のペイオフを実施し、第2段階として預金額を30%~40%財産税として没収する。
    (http://ihope.jp/nevada.htm)

  4. 故郷求めて より:

    年金については100%イエス(笑)

    せめてやるなら掛金から給付まで、5年単位くらいの世代別管理にして欲しい。現役世代が金余りの老人に恵むのもやめにして欲しいし、我々が小屋孫の世代から恵んでもらうのも不要。

    もともと公的年金不要論者だったので、このくらいのことを言う人がいなきゃけないと思う。

  5. nnnhhhkkk より:

    今日の記事は全面的に賛成です。
    移民反対の多くも日本人の既得権を守りたいだけで意固地になっているだけです。
    犯罪が増えるとかの問題が発生することも確かですが、それは仕事を移民に奪われることを恐れている人の言い訳でもあります。
    一生懸命に働く外国人が職場にいっぱいいた方が、日本人にも刺激になって活性化するのではと思います。
    移民を受け入れずに少子化問題を解決した先進国はありません。
    それプラス相続税を廃止しないといけないでしょう。
    世界一高い異常な相続税がある限り、金持ちは永住してくれません。

    税金も15%ぐらいのフラットでいいと思います。
    この国では低所得者層が税金を払わなすぎです。
    控除を利用するために働く時間をわざと減らすのも人材の損失です。

    しかしkazuさんのような当たり前のことが日本では通用しないのは悲しいかぎりです。
    金持ちや成功者の足を引っ張ることしか能が無い低所得者や若者の足を引っ張ることしか考えない中高年にはうんざりです。
    国民の嫉妬の感情論で政策をやろうとするから金持ちの数が減って、平等化してみんなが貧乏になるのです。
    フォーブスを見る限りでは、日本人の金持ちが激減して資産格差はどんどん縮まっているのは明らかでしょう。
    格差が縮まっているのに格差が拡大しているなどと騒いでいるこの国は異常です。

  6. stonedsly より:

    どうでもいいが、「~なくなってしまうのではないか」「~ないのではないか」という問は否定形なので、「イエス。そのとおり」ではなく「ノー。そのとおり」が正しい表現だろう。どうしても英語を入れたいなら「ライト。そのとおり」とすべき。

  7. j_izayoi より:

    移民の部分を除いて、全面的に賛成します。
    移民反対は・・・まあ、感情論です。
    でも、やっぱり、なんとなくいやなんですよね。
    ほかの移民反対派の人はどうなんでしょうか?

    >stonedsly
    こちらもどうでもいいですが・・・
    文章全体が日本語で書かれていること、
    “Yes”ではなく”イエス”と書かれていること、
    この2点を考えれば、英語ではなく日本語の文法にのっとった表現であるのはおかしくないでしょう。
    “イエス”がもともと英語由来の表現であるからといって、
    日本語として取り込まれている以上、日本語文法に準拠すべきです。

  8. bobbob1978 より:

    移民に関してですが、「心理テストや性格テストを行い、それをパスした者だけ移民を認める」ようにすることは法的に可能なのでしょうか?
    単純に労働力を確保するために金目当ての人々を移民として受け入れると、スラム化等の問題が生じ返って社会の活力を削ぐ結果になりかねないと思います。
    「移民も日本の価値観に染まるべきだ」とは全く思いませんが、多少なりとも日本社会と融和性の高い人々を受け入れるようにしないと問題が複雑化しかねません。

    その点以外は全面的に賛成です。

  9. wishborn2400 より:

    あまりにも考えのない、典型的なリバタリアンの文章のように
    みえます。
    市場原理主義を無条件に肯定し、それによる社会へのダメージに
    ついては、自己責任や競争原理による結果という言葉で合理化して
    いますが、夜警国家でも志向しているのでしょうか。

    私は移民の受け入れについては賛成している方ですが、少子高齢化
    への対策に大量の移民を受け入れるというのは理解しかねますね。
    出稼ぎということでなければ、日本人であろうが、移民であろうが
    介護に対する報酬は同じでしょう。低賃金な移民の大量発生、
    その社会的なリスクを考えない、もしくは故意に無視しているよう
    です。そして、そうした労働者は日本に魅力がなくなれば、どこかに
    移動するものだとも言っているのです。あとに残るのは何でしょう?

    リバタリアン的な論者の主張について、リバタリアンでない一般人が
    気をつけなければならないのは、彼らは市場の住人であって、
    国や地域社会において、ともに生きる隣人ではないということです。
    それらに対するコストは、彼らにとっては無駄なのです。

    市場経済という現実がある以上、市場原理主義的な方向性を
    選択することも、妥当な選択肢の一つでしょう。
    しかしながら、その根底にある精神を考えるとき、私はやはり
    大きな不安を感じます。人は相互によき隣人でありたいものです。

  10. bobby2009 より:

    >グローバル化の進んだ世界では、クリエイティブな個人も、優良な多国籍企業も簡単に国境を超える...このような状況では、早晩、高所得者と多国籍企業は香港やシンガポールに拠点を移すだろう

    地方の産業が衰退傾向にあるのは、彼ら経営者が国境を越える第一歩を踏み出せないからともいえます。香港は単にタックスヘイブンであるというだけでなく、国内企業の経営者にとって、もっとも取り付き易い「世界市場」への第一歩です。

    http://www.isl.hk/blog/bobby/archives/334

  11. はんてふ より:

    >リバタリアン的な論者の主張について、リバタリアンでない一般人が気をつけなければならないのは、彼らは市場の住人であって、国や地域社会において、ともに生きる隣人ではないということです。それらに対するコストは、彼らにとっては無駄なのです。

    資本主義のエンジンこそは、
    「消費者の選択肢は多ければ多いほどよい」
    という事。

    ともに生きる隣人、という無垢な存在こそが
    幻想なのではないかと私は考えます。
    何故なら、その「ともに生きる隣人」も、選択/非選択の
    苦しさからは逃れられないから。

    しかしご指摘が間違っているわけではなく、
    リバタリアン的とは、消費者の選択肢は可能な限り多く、
    自由を実現するために規制はなるべく小さく、で
    ありましょう。

    僕もあなたも、無垢な存在も、リバタリアン的政策であろうと
    開発独裁的な政策であろうと、資本主義を続ける以上、
    選択/非選択の苦しさからは
    逃れられぬのではないでしょうか。

    池田先生が以前引用したフレーズ:
    「資本主義は自転車操業」をイメージしてみて下さい。
    そしてコミュニタリアンの提示する「共同体」こそが、
    選択/非選択の苦しさから解放する
    「選べない、選ばない集団」という解なのです。

  12. nippon5050 より:

    このエントリーの増税反対という趣旨には全面的に賛成です。

    リバタリアン云々というコメントには、はんてふさんのコメントに同意します。
    しかし移民については、このエントリーのタイトル風に言わして貰えば「いろいろ考えたけどやっぱり移民には断固反対します。」

    となります。
    わたしも移民という手段自体を最終的に排除するものではありません。

    しかし安易な移民で解決する前に我々は労働人口を増やす為の努力を十分したと言えるでしょうか?少子高齢化といいなが毎年30万件の人工中絶を黙認し、子育て中の女性の就労支援も甚だ不十分ではないですか?

    硬直した労働市場により、かえって若者の就労意欲をそいでいないか?

    雇用形態の自由度が低いばかりにビジネスチャンスを失い、結果的に雇用を失っていないか?

    現在の非効率な行政を延命させての増税に反対なように、労働人口を増やす努力をしないでの安易な移民には反対します。

  13. wishborn2400 より:

    はんてふさん、コメント有難うございます。

    反論というよりは、私のスタンスに関するものと言った方がよいかと
    思うのですが、我々は資本主義社会に生きながらも、それだけの
    社会に生きているわけではありません。
    この認識は共有されているものと思います。

    我々は資本主義における市場の交換可能なプレイヤーであると
    同時にほかの存在でもあるわけです。
    コミュニタリアンのいう共同体は、そうした没人間的な市場に対して
    有益であるかもしれません。しかしながら、コミュニタリアンのいう
    共同体を、私は「個人」の実感にもとづく共感ほどには信用することが
    できないのです。

  14. taquonoss より:

    >現在のような、既得権益層を延命させるための増税には筆者は断固として反対する。

    たかが、他人の既得権益がうらやましいだけで国家百年の計を誤まってはいけないのでは?

    大体が、経済や社会はそれなりの既得権益があって、それを前提に人々は暮らしていると思う。既得権益全般の否定は社会前提の否定です。

    増税をしなくても、ブログのような結果になるとも思わないけれど、たかが5パーセントの増税と比べて増税を否定するなら、少し感情的過ぎませんか。

  15. keta3821 より:

    なんかこんな議論自身がもう恥ずかしいような・・・

    韓国も台湾も中華圏も少子化が日本以上に
    激しい。間もなく日本の後を追って閉塞感に
    包まれた地域になるでしょう。現在の社会や
    教育や経済体制では必然的に少子化になる
    んでしょうかね?

    米国もフードスタンプ貰っている人間が10%を
    超えたらしいし、イギリスは金融機関の人間の
    ボーナスに懲罰的な税金をかけていると聞く。

    間もなく第二次金融危機が来るんじゃないの?
    世界中でグローバルな金融機関の人間の財産
    没収か銃殺すべきと思っている・・・・まぁそれから
    だな消費税アップは。