魔改造の裏側をのぞく- ペンギンちゃん大縄跳び編

※撮影時のみマスクを外しています(12/9撮影)

1月22日、29日の両日に渡ってNHK BSプレミアム『魔改造の夜』に“Rコー”が登場したのは皆さんもよくご存知のこと。社内副業制度やTRIBUSなど、自由な働き方や新規事業創出などを進めるリコーにとって、魔改造に取り組むのは渡りに船というか、ある意味“望むところ”だったのではないか。今回のテーマは、25メートル先のボウリングのピンを、DVDディスクを飛ばして倒す「DVDプレーヤーボウリング」と、ペンギン人形5体を縄跳びさせる「ペンギンちゃん大縄跳び」の2つ。これにリコーグループからは2チーム総勢29名がチャレンジした。その結果はすでにご承知のとおりだが、今回、魔改造に取り組んだ2チームの面々の思いや、映像にはならなかった裏側をご紹介する。

「ペンギンちゃん大縄跳び」のチームは15名。五羽のペンギンを人間が回す縄で縄跳びさせ、その1分間の回数を競うというものだ。テクニカルな難しさだけでなく、レギュレーションの問題などもあり、一筋縄ではいかなかったようだ。

ペンギンちゃん大縄跳びチーム
《リーダー》亀井謙二
《サポーター》小泉英知
《メカチーム》緑川瑠樹※、赤井武志、岸雅文
《エレキチーム》米田優※、植野剛、北川岳寿、西後淳貴
《ソフトチーム》笠原亮介※、毛登優貴
《縄の解析》亀井謙二、小島玲央、橋川ほたる
《縄の回し手》岡村純平、田原雄大
※印はチームリーダー



思いがつながり人が人を呼ぶ

――まず、どのように集まったメンバーだったのか教えて下さい。

亀井「私はリーダーを務めましたが、そもそもは橋川さんから声をかけてもらいました。ある番組にリコーが出演するから、活きのいい人を探してると言われて、詳しい内容は知らなかったですがなんか面白そうだと思って二つ返事でやりますって」

橋川「私も自分でじゃなく、緑川さんから誘われたんです。ただ、緑川さんとは業務でちょっと話をしたことがあるくらいで、知らない人の中でやる自信がなかったので、知ってる亀井さんに声を掛けました(笑)」

緑川「私自身は社内チャットでお話をいただいて、面白さに惹かれてOKしたんですけど、短期間で仕上げるために活きが良くて、こういうものづくりに特化して強いメンバーでチームを作りたいと思って声をかけたんです」

植野「私はTRIBUSの社内コミュニティでこの情報を知って立候補しました。番組のファンだったし、入社して20年経ってこういう現場でのものづくりから遠ざかっていたので、何かにチャレンジする人たちと一緒にものづくりしたかったという希望があったんです」

岸「私も番組ファンでした。出て恥かいたらどうしようという悩みもありましたが、リコーが出るのに自分が出てないのをテレビで見るのは絶対後悔すると思ったので、勇気を振り絞って参加しました」

赤井「僕は必ずしも最初から乗り気だったわけじゃないです。緑川くんと同じ部署にいたことがあった関係で声を掛けられたんですけど、土日メインだっていうじゃないですか。土日は家庭の都合があって難しいと一旦は固辞したんですが、結構粘られて……(笑)」

緑川「絶対赤井さんじゃないとイヤだってごねました(笑)。活きの良さもありますし、問題解決力、チームをまとめる力、機構全般に対する理解力、メカ全般に精通していることを考えると、欠かせないメンバーだと思って」

赤井「過去に一緒に仕事をして信頼もしているし、こんなに熱心に誘うってことは何かあるんだろうと結局は折れまして、家族を説得して、参加することになりました。こんなに熱心に誘うのは飲み会くらいしかないもんね(笑)」


コピー機・プリンターではありえない難関難問

DVDプレイヤーボウリングチーム同様、メカ、エレキ、ソフトのチーム編成に加え、縄跳びの縄を解析するチームがある。また、縄を回すメンバーも集められた。開発は、ジャンプする機構をメカチームが開発し、エレキはセンサーで縄を検知させる。ソフトはそれらの挙動を制御する。人が回す縄の動きを解析するチームは、縄の跳ね返り、速度、ばらつき具合などを測定し、フィードバックする。各チームがある程度進めたところで統合し試験。バグ取りをするという進め方だった。

――各チームでどのような作業を行ったのか、また、ご苦労されたことを教えてください。

緑川「メカとしては、機構部分は赤井さんが基本的な部分の構築をしてくれ、初号機をもとにブラッシュアップを重ねたので、その点は良かったです。社内の3Dプリンターなども活用し、短期間で試作を重ねられたのも良かったかと思います」

赤井「ジャンプする機構には、滞空時間を短くするため最初はダブルダッチ的な動きを想定したんです。しかしそれはレギュレーション的にNGが出て。ただまたぐ動きはOKだという。制御が難しくなるので動力の数は少なくしたいし、片足ずつの動きはバランスも悪くなる。レギュレーションは、頭が5つあれば良い、足が5本でジャンプして着地すれば良いとも解釈できたので、最終的に現在のジャンプする形に落ち着きました」

岸「苦労したのは、やはり時間のやりくりですね。夜6時から集まって9時には体育館を撤収しないといけない。その後に3Dプリンターのセッティングもする。1日の中で、やることをやりながら、明日新しいアクションに取り組めるように仕込むという、それが結構時間に追われるようで、深夜までかかったりしていました」

緑川「あと、最初から想定はしていましたが、メカ的には足と着地が課題でした。飛ぶところと着地するところが同じであってほしいのですが、ちょっとしたことですぐズレていくんです。縄を回す人はそれに追従していかなければならないので、そのバランスをどう保つのかが難しかった」

赤井「センサーで縄を検知して人が回す縄に合わせて飛ぶという点は共通の認識になっていたので、メカ側の動きのばらつきをどう吸収するかというのは、最初から課題として認識はしていたんですよね。 あと苦労したのは着地の衝撃です。想像以上に衝撃が強くて、ギアが吹っ飛ぶとか、ネジが緩んでいくとか、そんなことを体験したのは初めてでした」

植野「センサーを担当したのがエレキチームです。超音波センサーと光電センサーのどちらにするかを検討して最終的に光電センサーに決めましたが、その試験をするためには、治具が必要なんですよね。機構とは違う部分の製作も必要で、それは北川さんに頑張ってもらいました。
苦労したのは、同じく衝撃ですね。ユニバーサル基板だと大きくなるので、基板加工機で作るんですが、それが着地の衝撃で壊れる。それが割れるとか抜けるとか目に見えて分かるならいいんですが、微妙に切れたり外れたりしていて、ちょっと見ただけではわからないんですよ。例えば車のメーカーだったらノウハウがあるのかもしれませんが、僕らはコピー機がメインなので経験がまったくなくてわからないことばかりでした」

笠原「ソフトチームが担当したのはマイコンを載せて制御すること。軽くて、しかしセンサーの入力に即応してドライブかからないといけないから遅いものはダメ。あと設定しやすさもあるし、その中で選んだマイコンを決めて、反応の良いプログラムの基盤を作っていくところから始めました。
そのうえで、メカエレキの構成に合わせて、アルゴリズムの開発を並行で進めていきました」

毛登「プログラムの屋台骨を笠原さんが作り、僕は設定を変えられるようにしたり、どのようなパラメーターでモーターのスピードを変えるかといったチューニングを担当しました。
一番苦労したのはモーターの出力です。100%の能力で飛ばせればめっちゃジャンプしますけど滞空時間が長くなれば衝撃もでかくなる。ある程度弱いというか、中間くらいの力で回すのが良いのですが、最後の最後まで絞り込めなかったですね」

笠原「出力の最適解は縄を回す人や、床面の状況にもよって変わってくるんです。最終的には岡村さんに合わせた設定にしたんですけど」

岡村「最終的なしわ寄せが回し手に来ちゃうみたいですね(笑)」

亀井「解析チームは、最初に立てた1分間240回という目標に向けて、実際にどう回すか、縄がどう動くのかということを検証しました。モーションキャプチャーで縄の動きを測定したりしていたんです。チームとしては240回を達成する最適な条件を出すことがゴール。カメラで撮影した写真を1枚ずつ確認して、跳ね返り量を見るとか泥臭い作業もやっていました」

橋川「メインだけでも4つカメラがあって、ハイスピードカメラのコマを分解して、一番高いところと低いところを比較して何センチでした、ということをひたすらやっていたんです。条件によって解析が変わるんですが、結局30くらいの条件でどのように縄の動きが変わるかを検証したので、膨大な枚数の画像をチェックしていました」

亀井「あと、240回を達成するにはかなり速く回さないといけないので、社内でアスリートを募ったんですよね」

岡村「私は何が行われているかもまったく知らなくて、職場が一緒だったDVDチームの後藤さんから『縄を回す人を探しているみたいだよ』と教えられて、私も面白いことが好きなので、じゃあやりますと(笑)。格闘技歴は10年くらいで、ロープワークは3分3ラウンド毎日やっているので、縄を回すのもいけるかなと。本当はメカもやりたかったのですが、途中からの参加だったので、回し手に専念しました。
実際回してみて、1分240回というのは私でも結構ギリギリだったんです。それからは毎日家で縄跳びしたり、マシンで筋トレしたり、とにかく240回安定して回せるようにずっと練習していた感じです。もう、試合に臨むつもりで体を作り込んでいきました。本番に強いことを期待して、試合経験のあることも募集条件にあったみたいですね」


リコーの隠されたリソース、力を目の当たりに

――伺うとそれぞれにご苦労があったことが分かりますが、全体を通しての課題は何だったのでしょうか。

亀井「本番一発勝負ということは、どこまで追い込めるかという意味で、悩ましいところではあったのですが、一番は着地と足でしょうか」

岡村「確かに来るたびに足の形変わってましたよね」

緑川「やはり要件としては同じ場所に着地してほしいので、それがずれるなら補正する手段を考えないといけません。ただ、時間は待ってくれないし、失敗しても、これは絶対大丈夫というものが出せない。だから毎日これはどうかあれはどうかと繰り返してました」

岡村「同じ機体でもセンサーの向きが違うだけで飛び方が変わったりするんですよ。日々足は変わるし、飛び方も変わるし、前日に駐輪場で試したら全然飛ばないし(苦笑)」

橋川「床によっても挙動が変わるんです。会場の床はコンクリートとは聞いていましたが、実際に見れたのは一週間前のことで、かなりタイトな環境でした」

――普段の業務でのものづくりと違う点はどんなところだったのでしょうか。

岸「スピード感ですね。通常の7倍は違ったと思います。普通だったら発注して2週間後に届いて、何日かかけて組み立てるというスケジュールですが、今回は1日で試作して、3Dプリンターで今日作ったものを明日動かすとか。モノが手に入るまでの何もできない時間をいかに短くできるかというのが、本当に違っていたと思います」

赤井「ギアがふっとぶ経験はコピー機では絶対ないものでしたね(笑)。コピー機ならだいたい対策や手法にセオリーがあって、その条件の中で手を打てば良いのですが、今回は自由度の幅が広すぎて、何やってもいいから、苦労するところでもあったし、楽しいところでもあったと思います。なんでもできるので、今回は身の回りにあるもので対応することもできる。足にクッションとしてBB弾を入れたのもそのひとつでした」

緑川「家にお手玉があって、お手玉って跳ね返らないじゃないですか。これだったら飛び跳ねないから入れてみようとなって、次の日手に入るもので何かないかと探してBB弾になったんです」

植野「エレキ的にもスピード、衝撃というのは経験がないことでした。もうひとつ加えると、外装の干渉ですね。動くところと基板をつなぐハーネス部分が干渉して、ジャンプ力が落ちたということがあったんです。エレメカに近いところですが、そもそもそこまで動くものを触らないので、どこかに当たるなんて想定もしません。本当に本業では絶対出てこない問題です」

毛登「ソフトでは、本業だと最初に仕様が決まっていて、納期通りにソフトメンバーでお互い作っていこうと分業的に進めていく感じなんです。しかし、今回は短納期ですし、明日エレキのこれができて、明後日にはメカがこう組み上がるから、そこでつなげたいよね、と日々少しずつ出来上がっていく感じが大変でしたが面白かったです」

――今回のプロジェクトで、どんな刺激を受けられたでしょうか。

亀井「私は、リコーってプリンターだけじゃないんだなってことをすごく感じました。今回、これを作り上げた技術って、ジャンプにしても着地にしても全然プリンターと関係ないじゃないですか。でもその技術を使って作り上げられる人たちがいる、そういう力があるんだというのが示せたんじゃないでしょうか」

岸「今回、特に急いで作らなくてはいけないということで、例えば足の部分はレーザーカッターで作ったり、胴体部分はパック用の真空成形機を使ったりしているんです。真空成形機なんて、今回そういうのが社内にあるのを知って取説を読みながら初めて使ったんですけど、そうやってなんかいろいろなものを使いこなせるようになった。即使えるものを作れるようになったというのがありますね」

赤井「私は最近リーダー業務ばかりで、ラピッドプロトが流行りだしてからは現場で設計とかしていなかったんです。今回もできる人にお任せしてしまったんですが、個人的にはすごく面白そうだと思っていて、教えてもらいたいなって思ってます。あと、今新規事業開発の部署にいるので、今回のようなプロトタイプを素早く作る設備体制が社内にもあることが分かったので、この先使わない手はないなって思ってます」

緑川「社内リソースがいろいろあるという発見は大きかったです。使えるものは何でも使おう、人も設備も、遠慮しちゃいけない、貪欲にやっていいんだと思いました。あと社内の部署に加工依頼を出すにしても、こちらの熱意が伝われば動いてくれるということも分かったので、今後はさらに貪欲に攻めていきたいと感じました」

北川「私はいろいろな失敗やトラブルを目の前で見れたことが大きいです。普通ソフトはソフト、メカはメカで作り込んでくるのでその前段階の作っているときの失敗を見ることができないんです。でもここなら失敗も見られるし、改善の方法の探索も目の前で見ることができるでしょう。こういう失敗と対策の実践を目の前で見ることで、今後のものづくりに役立てられると思います」

植野「私も全体を見れたのは大きいですね。あとはつくる〜む(ファブラボの様に3Dプリンターなどが使える施設)に何があって誰が何をしているのかが分かったこと。これからどんどん活用したいと思います。
あと、定められた自分の仕事を超える大切さを感じました。普段の業務では自分の担当が明確ですが、今回は誰がやるか決まってないふわっとした部分があって、例えばぬいぐるみを縫うとか、そういうことに、自分の担当を超えて一歩踏み込む力を身につけることができたように思います。この力は、速く何かを作らなければならないときに生きてくると思います」

橋川「私は今回、皆さんに比べて実働が短かったのであまり関われず申し訳なかったのですが、土日は極力出て、解析を繰り返して、まあ結構自分頑張ったなんて思っていました。でも終わったあと、皆さんが『俺●kg痩せた』と話しているのを聞いて、一番若手なんだからもっと頑張れたんじゃないかと、とても反省しました」

――こういうことをやらせてくれるリコーについて、どう思いますか。

亀井「本当に自由度が高くて、自分らしくいられる会社だと思いました。自分が興味あるところにどんどん行ってきなさいと後押ししてやらせてくれる環境って本当にありがたい。私自身、社内副業制度でいろいろやらせてもらっているんですが、今回もすごく良い経験になったと思います」

――今回の経験を踏まえて今後挑戦したいことがあったら教えて下さい。

岡村「今回、みんなが頑張ったその最後に先頭に立つ役目を担当できて、本当に良い経験ができました。自分の中で持っているものとか、人を引っ張るにはどうしたら良いかとか、みんなの期待に応えるにはどうしたらいいか、という経験ができたので、最近リーダー業務に就いているので、活かせるように思います。
今回ずっとカメラに追われている生活をしていたのも面白かったですね。どんな気分ですかって聞かれながら仕事する。ついつい、『大丈夫っすよ!全然いけます!』みたいに威勢いいこと言っちゃうんですけど(笑)、良い経験だったと思います。だから今、仕事をしているときもパソコンのカメラを入れて、自分の顔を写して客観的にどう見えるかを意識しながら仕事しています(笑)」




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