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関東無宿と臥薪嘗胆。対照的な人生を歩んだ運命の姉妹、流子と皐月。
本能字学園でそうと知らず再会して敵対した二人の道が、ついに交差するかに見えたその時が、流子が自分の悲劇的な出生を知る時でもあった。
人でもない。服でもない。では自分とはなんなのだろうか。
鬼龍院羅暁という人が、いつからどういうきっかけであんな生命戦維の権化になってしまったのか、劇中で説明される事はない。鬼龍院財閥の最新科学の粋を集めても難しかった人と生命繊維の融合が、なぜ彼女には可能だったのか。もしかしたら何も知らず無防備に神衣を着る事で、皐月もあんな風になってしまったのだろうか。それならばなぜ、わざわざ赤ちゃんの体を実験体にする必要があったのか。
また纏一身こと装一郎の行動もよく分からない。纏博士のプロフィールである「鬼龍院家で生命戦維の研究をしていた」というのは、装一郎時代の事をさすのだろうか。しかしそれならばなぜ、鬼龍院は纏博士の存在を知っていて、なおかつその研究を阻止するために針目を送り込んだのか。なぜ装一郎は皐月に妹が実は生きている事を明かさなかったのか…
こういった細かいところは例の如く物語ですっ飛ばしているのだが、実は大して重要な事ではない。それは重箱の隅だからだ。
じゃあ重箱の真ん中はというと、鬼龍院羅暁はもの言わぬ生命戦維の代弁者であり、繭星降誕を助けるものだ。そして纏一身はそれを阻止するために、皐月に意思を託し、流子には身を守り共に戦う仲間を作り、人として戦うための対抗組織を結成した陰のフィクサーだ。
…と、言うと聞こえはいいけど、ぶっちゃけ二人ともとんでもない毒親じゃなかろうか。
子供を実験隊にした鬼龍院羅暁は言わずもがな。研究のためとは言え、流子は放ったらかしにされてグレてしまうのだから、纏博士もネグレクトタイプの父親だったと言える。皐月は5歳までは愛されて育っていたようだが、そこから連絡一つよこさないし、なにより母親殺しを幼い娘に示唆するのだからとんでもない。
皐月は父から思いを託される。母はもう母ではない人類の敵だ、と。その意味を正しく理解し受け継いだ彼女は、鋼鉄の意思と不屈の精神で、僅かな腹心以外には誰にも思いを告げる事なく準備をする。彼女にとっては人とは服に着られて安寧をむさぼっている豚であり、力で屈服させて思い通りに動かすための駒だ。能力の高いものには相応の力を与え、自分はさらにそれを凌駕する力を使いこなす事で支配する。
周到な計画と秘密裏に貫かれた意思によって、計画は成功するかに見えた。が、自分の予想していたよりも遥かに羅暁と生命戦維は強大だった。
力では勝てない。それどころか、こんなやり方は母と同じだ。世界を一枚の布で覆い尽くそうとする母を殺すために選んだ方法は、結局別の力で他者を屈服させることだった。「絶対的な支配」という思考回路こそ、母からの最大の「負の遺伝子」だったのかもしれない。
だが身ぐるみ剥がされた皐月が反撃の爪を研ぎながら、その脳裏に浮かべたのは「きっと自分を見つけ出し、助けてくれるであろう彼等」の顔ではなかったか。
また、流子は自己アイデンティティが崩壊し、究極の孤独の中にいた。姉の皐月には「愛された記憶」があり、忌むべき血であれ「帰属する家」があったが、流子にはそれがない。生まれてこのかた自分の「いるべき場所」はなく、感じるままにただ戦い、その中で寄る辺ない自分自身の存在を確かめて来た。そしてようやく親友とその家族に「確かな人とのつながり」を感じられたというのに、血を分けた家族からの「負債」がのしかかってくる。自分が人間ではない、という最悪の形でだ。
人と生命戦維との戦いが繰り広げられている。自分の身の回りにいた人々は、もちろん人として戦っている。しかし自分は?人でも服でもない自分はどうすればいいというのだろう。自分とはなにか、どうすればいいのか、いるべき場所って何処なのか。
暗闇の中で幻の甘い夢に浸ることで逃げていた流子を揺り動かしたのは、心から彼女が元通りの流子に戻って欲しいと飛び込んで来た「友達という言葉には収まらないわけわかんない存在」だった。
望む望まないに関わらず、子はすべからく親からの様々な業を受け継ぐ。どんなに否定しても、そこから逃れる事は出来ない。
「キルラキル」は主人公がヒロインであることから、母親が最大の敵になった。圧倒的な母の支配と、そこからの脱却。確固たる自我の確立。服従から独立へ。それには母と同じやり方ではダメだ。己自身が母の支配に絡めとられる前に、自分の力で立ち上がらなくてはならない。
一方、父は皐月に意思を、流子に力を遺した。しかしそれは同時に、母殺しの大罪であり、人外の体と相棒だ。
親からの負の遺産。それを乗り越えるためには、自分の人生で、自分の力で、何かを掴み取らなくてはならない。
ううう、体調不良で時間かかっちゃったよー 次でまとまるかな。つづく!
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