ZAPAnet総合情報局 > ZAPAブログ2.0 > 「1/60秒シャッターで実質解像度は1/4以下」にだまされてはいけない

「1/60秒シャッターで実質解像度は1/4以下」にだまされてはいけない

2009年05月04日 カメラ・写真


日経エレクトロニクスに、こんな記事が載っていました。
ユーザーが頻繁に使うシャッター・スピード(露光時間),例えば1/60秒において写真の実質的な解像度は,ミラーとシャッターの衝撃によって1/4以下に低下していた。2000万画素で撮っても実は,最高でも500万画素ほどの解像度の写真しか撮れていないことを意味する。
これを読んだ人は、深く考えずにこう思ってしまいそうです。
・2000万画素あっても意味ないんじゃね?
・500万画素で十分なんじゃね?
・ってか、ミラーのないミラーレスのカメラ最強じゃね?
と。

でも、この記事の実験環境を細かく見てみると、今回の結果はある特定の条件のみでしか意味をなしていないことがわかります。

その実験環境とは、通常の撮影方法とは違う、特殊な環境でした。

この実験での撮影条件
こちらのページに、撮影条件が載っていました。
レンズ焦点距離:200mm
シャッター速度:0.2秒
撮影距離:3.3m
手ブレ補正:オフ
三脚:重さ3kg弱のカーボン製三脚
シャッターリモコン:使用
単写モード:50枚ほど撮影
突っ込みどころがいくつかあります。

■シャッター速度
まず、シャッター速度が1/60秒ではなく、0.2秒(1/5秒)であったこと。記事内グラフの垂直方向のブレでは、「1/60秒≒0.02秒」と、なぜかニアリーイコールでまとめられてしまっています。意味はわかりません。グラフからは、0.02秒あたりで最大のブレが計測されていますが、1/60秒と1/50秒は違います。シャッタースピードは遅ければ遅いほどブレの影響が出やすくなります。仮に2倍の0.01秒のシャッタースピードなら、ブレ幅は半分くらいに収まっているように見えます(実験のグラフ上から)。


■レンズの焦点距離
一番重要な撮影条件として、「焦点距離:200mm」のレンズを使い、わりと近距離の3.3m離れた被写体を撮影していたこと!

200mmの望遠レンズで、1/5秒のスローシャッター撮影をしています。しかもミラーアップ撮影をしていない実験結果です。もし、これが望遠200mmではなく広角や標準レンズでの撮影だったら、まったく違った結果が出ていたはずです。「近距離の被写体を望遠でスローシャッター」、この実験環境は、わざとミラーショック、シャッターショックによるブレを計測しやすくするような実験環境です。


■ミラーアップの効果
三脚を使って撮影する場合、きちんとミラーアップをしないとミラーによるショックでぶれてしまうのは、ある程度カメラに詳しい人なら誰でも知っているようなことです。カメラメーカーも当たり前のこととして理解しているため、ミラーアップモード(上の写真のMupと書かれたモード)を搭載しています。特に三脚を使用してスローシャッターを切る場合、ミラーアップするのは当たり前に近いことです。カメラ開発者がミラーショックによるブレを認識していなかったら、こんなモードは存在していません。ミラーアップに関しては、今から半世紀前(50年前)に発売されたニコンのNikon Fにさえ搭載されています。

日経エレクトロニクスの記事でも、ミラーアップによる効用が実験ではっきりと出ています。
ミラーアップ後に間を置くことでミラー・ショックを排除しても,解像度が半分以上減っていた。
つまりミラーアップするだけで、解像度が1/4以下から1/2以下へと、倍くらい軽減できているわけです。


■使ったカメラは何?
また、記事では「2000万画素のカメラ」とあります。これは、フルサイズの撮像素子を搭載したカメラとのことですが、2000万画素ピッタリのデジカメは使っていないように思います。
参考までに、日本3大カメラメーカーの高画素フルサイズカメラは次のような画素数です。
メーカー 機種 画素数
キヤノン EOS 5D Mark II
EOS-1Ds Mark III
2110万画素
ニコン D3X 2450万画素
ソニー α900 2460万画素
2000万画素のカメラ」という言い方も、かなりアバウトであることがわかります。


■三脚
実験データには、「重さ3kg弱のカーボン製三脚」と「重さ約1.5kgのカーボン製三脚」がそれぞれ載っていました。(詳しくは→2000万画素で撮っても実は500万画素相当,一眼のミラー・ショックを簡便に測定 - ものづくりとIT - Tech-On!

重さ約1.5kgの三脚を使用した場合は、大幅にブレが増大しています。このことから、カメラとレンズで相当の重量があることが予想できます。レンズが重い場合、レンズ側に三脚座が付いていることもあるため、三脚への固定方法によってはブレのテストに悪影響が出ている可能性があります。より重い3kg弱の三脚を使用した場合においても、このカメラとレンズの組み合わせに対しては三脚と雲台の性能が足りていなかった可能性があります(3kgを越える三脚となるとかなり大がかりですが)。カメラとレンズの名前と三脚の名前がふせられているため詳しいことはわかりませんが、天秤ブレの可能性は否定できません。


■ミラーショック、シャッターショックによるブレ対策など
・2000万画素を越えるカメラ(現在、20万円以上)で、等倍で1ピクセルずつチェックするとブレが目立ちやすい
・ミラーショックは50年以上も前から既知の問題
・L版プリントなどの小さな用紙サイズでは、微少なブレは印刷されない
・三脚は頑丈な物を使う
・三脚にセットして撮影するときは、ミラーアップモードで撮影する
・シャッタースピードを上げる(ISO感度、絞り、ライティングなど)
・今回の実験を行った西一樹研究室では、ブレ対策を研究中


■まとめ
よって、この記事からわかることは「三脚に設置した2000万画素越えのカメラを用いて、200mmの望遠レンズで近距離3.3mの被写体を1/5秒のシャッタースピードで撮影するとブレる」ということであって、全ての撮影において「1/60秒シャッターで実質解像度は1/4以下になる」ということではありません。記事のタイトルから騙されやすいですが、撮影条件はかなり限定的です。現状2000万画素を越えるカメラを持っている人は少なく、カメラAとカメラBでも結果がだいぶ違っています。三脚を使っているために200mmの望遠レンズで1/5秒という撮影をしていますが、本来手持ちでの撮影であれば「1/焦点距離 秒」が手ブレ限界のシャッタースピードと言われています。

今回の実験が間違っているということではなく、この条件では無視できないほどのブレがあったことは事実です。ですが、「一般の撮影全てにおいてブレてしまい、2000万画素は意味がない」ということではありません。条件によってはブレは無視できないが、条件によってはおそらく問題ない、ということだと思います。

望遠ではなく、もっと一般的な焦点距離、例えば50mmの焦点距離で1/60秒で撮影するのであれば、また全然違った結果が出てくるはずです。これが1/125秒や1/250秒などのもっと高速なシャッターを切った場合には、もっとぶれにくくなります(実験データからも明らかです)。近距離ではなく遠景を撮影した場合には、ブレの影響はもっと出にくくなります。限定した条件にもかかわらず、「2000万画素で撮っても実は500万画素相当」、「1/60秒シャッターで実質解像度は1/4以下」というタイトルは、いきすぎです。

もちろん、高画素機によるミラーショック、シャッターショックは、ディスプレイ上でピクセル等倍確認をした場合にブレが目立ちやすいようなので(2000万画素を越えるカメラを持っていないので、自分でテストできない)、今後一眼レフカメラの改善点として取り組むべき問題です(メーカーやカメラによっても、ショックの影響は大きく違うはず)。ミラーによるショックのないミラーレスのカメラの方が有利な点もたくさんありますが、ミラーレスカメラはファインダーにかなりの問題を抱えています。ミラーショックがなくても、シャッターショックの大きいカメラもあります。ミラーのあるなしに関わらず、今のところ完璧なカメラは存在しません。まだまだカメラも発展途上だということです。本当に2000万画素も必要なのかということも含め、画素数だけにとらわれないカメラ選びも重要です。


続きねぇ、結局デジカメって何万画素必要なの?

関連リンク



デジカメに1000万画素はいらない
たくき よしみつ
講談社
2008-10-17
コメント:どんなデジカメを買おうかと迷っている方は是非どうぞ
コメント:光学理論を知らない人に最適な本
コメント:デジカメの入門には良いかも。
コメント:写真を撮る楽しみが増えました
関連商品:デジカメ上手になる―あなたもプロなみ!
関連商品:カラー版 基本がわかる!写真がうまくなる!「デジタル一眼」上達講座
関連商品:小さな工夫でプロ級に!デジカメ撮影の知恵
体系的に学ぶデジタルカメラのしくみ 第2版
神崎 洋治
日経BPソフトプレス
2009-01-29
コメント:デジタルカメラに詳しくなれる教科書
関連商品:デジタル一眼レフの疑問200・撮影テクニック編
関連商品:図解入門 よくわかる最新レンズの基本と仕組み
関連商品:デジカメ解体新書―カラー全図解 高画質めざす知恵と技術全解剖
ピンぼけ・手ぶれレスキュー Ver.3 Vista対応版
コーパス
2008-02-15

by [Z]ZAPAnetサーチ2.0