様々な文化や事柄に興味を持って、たくさんの本を読み、知識の幅を広げる。多くの「知」の引き出しを得るための、色褪せない名著を紹介します。
多くは私が学生時代に読んだ本ですが、昨今の若者にも自信を持って薦められるものばかりです。
いったん社会人になってしまうと、直接的なメリットに繋がらない読書をする余裕は、なかなか生まれません。
新型コロナウイルスによる外出制限は、またとないチャンス。ぜひこの機会に手にとってみてください。
文化・風俗
1. ヤクザの文化人類学
母国・日本について、どの程度、知っておくべきか。
個人的には、「外国人に尋ねられて、答えられなかったら後悔するかどうか?」を基準にすればいいのではないかと思っています。
ヤクザは日本風俗の象徴であり、日本人ならば誰でも知っています。
でも、その実態や文化については驚くほど知らないはずです。
なぜなら、記者や研究者が入り込んで調べ上げるわけにはいかない世界だからです。
この本は、イスラエル人の文化人類学者が残した、5年間のフィールドワークの成果です。外国人だからこそ、ヤクザの世界に入り込むことを許されたんですね。
02.男達(おとこだて) 現代が失ったオトコの神髄
九州誠道会理事長、村上一家四代目総長・浪川政浩氏が、作家・明石散人を相手に、自らの生き様を語った貴重な本。
知らないに世界に足を踏み入れる高揚感が半端ないです。
ヤクザの信念や考え方、存在意義など、なるほどそういう仕組みだったのかと納得させられることもしばしば。
3. 象徴天皇と皇室
天皇はご存じの通り、太平洋戦争の敗戦を経て、日本国憲法において、「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」と位置づけられています。
本書の著者は、「象徴天皇」こそが旧来的な天皇のあり方であり、大日本帝国憲法における天皇制のほうが異質なのだと主張しています。
天皇の存在について改めて考えさせられる一冊。
4. 日本人とユダヤ人
日本人論としては有名な本ですね。
個人的には、都合のいい事実のみを抜き出して持論を補強しているところが目に付き、主張そのものにはあまり賛同していません。
学生時代にレポートを書きましたが、批判ばかりだった記憶があります。
が、「外国人と比較して日本人がどう見えるのか」を知っておくのは役立つ場面もあるでしょう。
5. 日本人のこころと神道
私は國學院大學の神道科を卒業しているので、一般よりは神道に詳しいんですが、これは神社を理解するには最適の書です。
みなさんの地元にも小さな神社があると思いますけど、なぜそこにあるのか、理由がわかりますか?
実は、自分たち(みなさんの祖父や曾祖父の世代ですかね)が必要としたから、そこにあるんです。
現代の僕たちには、「自分たちのもの」という感覚はありませんよね。
どうしてギャップが生まれたのか? これから神社がどうなっていってしまうのか?
古い本ですが、本質を知れる良書です。
6. 日本史鑑定
学校でならった日本史がいかにつまらないものだったか、が『日本史鑑定』を読めばよくわかります。
トンデモ本か、「目から鱗」の希有な論考か。
判断するのはみなさんですね。
7. 新宗教の解読
オウム真理教事件を覚えていますか。
日本の近代史の中で、最もインパクトの大きかった事件の一つです。
今一度、振り返って整理してはいかがでしょうか。
あの衝撃の事件が起きる以前から新宗教を研究していた井上順孝氏による本書は、『天理教』や『創価学会』から『オウム真理教』に至るまでの新宗教の歴史が網羅されています。
美学・哲学
8. ソフィーの世界
哲学って、おもしろいんですよねー。
足を踏み入れたのは、祖母からもらった『ソフィーの世界』でした。
定番ですが、物語形式で進むみ、入門にはぴったり。
9. 哲学ファンタジー
絶版……と思いきや、ちくま学芸文庫から出てました!
あるとき、ソウル・ゴーンが、彼の禁欲主義理論を教えてくれた。「楽しみを後に延ばせば延ばすほど、最後にそれを得たときの喜びが大きいのは知っているね。したがって、もし楽しみを永遠に延ばせば、その楽しみは無限大になるはずだ。」
最近、星占いを信じているかどうかを、私に尋ねた人がいる。私が、「自分は双子座の人間だからそんなものは信じない」と言ったところ、その人はかなり困惑したようだ。
会社役員のパラドックスをご存じだろうか? これは、コライヤー著作協会のリサ・コライヤーが発明したものである。ある会社の社長が、会社の出費を抑えるような提案をした社員には、百ドルの賞金を提供することにした。これを聞いて、社員の一人が提案した。「その賞金をなしにする!」
哲学ファンタジー
本書からの引用です。
思わず吹き出した人は、買いましょう。
10. 鏡と皮膚
美学って知っていますか?
絵画や美術品の歴史を学び、作品に込められた寓意を読み解く、美術の学問のことです。
おもしろいのは、正解がないことなんです。
私が学生時代、最も尊敬したのが、著者の谷川渥教授。
博覧強記の鬼才の手にかかると、
「たとえこの内容が、単なる深読みだったとしても、そんなことはどうでもいい!!」
と思わせる素晴らしい知的ゲームになるんですよ。
私はこの本、人に三冊あげました。いま手元にあるのは四冊目です。
11. ヴァレリー・セレクション上・下
ソクラテス、プラトン、アリストテレス? ニーチェ、サルトル、ハイデガー?
こういう哲学史の偉人たちに興味があるなら、20世紀最大の知性と謳われるポール・ヴァレリーは外せません。
「ほかの作品を養分にすること以上に、独創的で、自分自身であることはない。ただそれらを消化する必要がある。」
「親友。本当の親友になるには、同じ程度のつつしみ深さをもつ者同士でなければならない。」
「自殺が許されるのは、完全に幸福な人だけだ。」
ヴァレリーの洞察は本当に心に響くんですよね。
私が最も好きな言葉たちです。
サイエンス
12. 記憶は嘘をつく
脳が記憶を都合よく作りかえてしまう事実は、臨床で証明されています。
同名の類書もたくさんあるので、「やっぱり」という感覚の人が多いんじゃないかと思いますけど。
13. 忘れられない脳 記憶の檻に閉じ込められた私
一方、まったく忘れることができない、という人も存在します。
つまり、「忘れる」というのは、脳の立派な機能なんですね。
機能が不具合を起こせば、忘れられなくなってしまうんです。
忘れられなくなったら便利ですか?
私はそうは思いません。大失敗の記憶や、心の傷になるような辛い記憶も忘れられなくなってしまうんですから。
14. 脳の中の幽霊
「脳」の不思議、未知の世界は、この一冊に凝縮されています。
手足を切断した人が、ないはずの手足に痛みを感じたり、かゆみを感じたり。
また、身近なところでは、盲点の話がおもしろいです。
盲点とは、眼球の奥の視神経が繋がっているところで、ここでは光を受けられません。
つまり、我々の視野には、二つ穴が空いていて、見えない場所があるんです。
でも、言うまでもなく私たちは、見えない場所なんか無いと思っています。だってクリアに全て見えているんですから。
実は、脳が「見えている」と思い込ませています。
本書に書かれている簡単な実験によって、盲点の存在を意識できるんですが、衝撃ですよ。
15. スティーブン・ホーキングの宇宙
「脳」の世界に勝るとも劣らない未知は、やっぱりなんと言っても宇宙でしょう。
筋萎縮性側索硬化症の物理学者、スティーブン・ホーキング。2018年没で、76歳まで生きました。
本書は『Newton』のビジュアルサイエンスシリーズという特集で、写真が多く、一般人向けに書かれているので、物理学に拒否反応がある人にもおすすめです。
16. 世界の究極理論は存在するか―多宇宙理論から見た生命、進化、時間
そう、宇宙と言えば気になるのは、タイムトラベルは可能なのか? についてですよね。
本書はマルチバース(多元宇宙論)について、始めて説得力を持って書かれた本です。
社会における目の前の現実はちょっと忘れて、広大な宇宙の中にいる、極微少な自分の存在に思いをはせるのも、財産になるのではないでしょうか。