『MOTHER2』の足は遅くなくてはならない
Wii Uのバーチャルコンソールで配信されているスーパーファミコン版『MOTHER2 ギーグの逆襲』をクリアしました。スーファミ版が発売した当時はちょうどゲームをやっていない時期だったので、今回が初プレイで、とても楽しませてもらいました。
紹介記事も書くつもりですが……その前に書いておきたいことがあったので、紹介記事の前に今日の記事を書きます。
『MOTHER2』って、すごく「不便なゲーム」だと思います。
「スマホのゲームばかり遊んでいるからドラクエ7が面倒くさい」という人が遊んだら発狂するだろうくらいに、「不便」で「面倒くさい」くて「不自由」なゲームだと思います。
例えば、アイテムを持ち歩ける数が少ない―――
アイテムを預けられる場所も、自宅以外の場所では「運送会社に電話をかける」→「配達員に来てもらう(有料)」→「時間差があるのでちょっと待たなくてはいけない」→「預けるか届けてもらうかは別個に頼まなくてはいけない」→「しかも頼めるアイテムは3つまで」→「そもそも預けられる上限もかなり厳しい」―――
お店でアイテムを買う時に「このアイテムがどんな効果のあるアイテムなのか」が分からないし―――
これは「不便」とはちょっと違うのだけど、セリフが「ひらがな と カタカナ」のみで「漢字」が使われていないのも古臭いゲームと思われるかも知れません。
当時を知らずにこのゲームを遊んだ若い人は、「昔のゲームだからね」とか「今と違って不便なところが多いのも仕方ないね」なんて思われるかも知れませんが。このゲームが発売された1994年の時点で、『MOTHER2』はかなり「古臭いゲーム」だったんですよ。
例えば、4ヶ月前に『ファイナルファンタジー6』が出ているんですよ。
7ヶ月前には『ファイアーエムブレム 紋章の謎』が出ているんですよ。
当時の最先端は『FF6』で、細かい背景にチョコマカと動くドット絵のキャラクターに大迫力のボス敵、もちろん漢字も使った重厚なストーリーに、それでいて「アイテムは持てるだけ持てる」とか「細かくセーブポイントが配置されている」などの遊びやすさも備わっていました。
『FF6』を遊んでいた自分は、当時友達の家で『MOTHER2』を友達がプレイしているのを見て「随分と古臭いゲームだなぁ」と言った記憶があります。そして、その友達に「ふざけんなよ!そこがイイんだよ!」と怒られた記憶も。当時の時点で『MOTHER2』は、「最先端ではないけれど」「味のあるゲーム」だったんですよ。
これに関しては……開発期間が5年にも及んで、当初目指していたものが「最先端ではなくなってしまった」という事情があるのかも知れませんが。今プレイしてみると「ふざけんなよ!そこがイイんだよ!」と言った友達の気持ちも痛いほど分かりました。
このゲームは「便利になっちゃダメなんだ」。
アイテムの所持数が厳しいから、持つアイテムを厳選しなくちゃならない。
アイテム預かり所からは3コずつしか受け取れないし手数料もバカにならないから、「何を受け取るのか」もしっかり考えなきゃならない。
アイテムをお店で買う前に何の効果があるか分からないから、「買ってみたら全然役に立たなかった」と悔しい思いをしなくちゃならない。
「漢字」を使わない「ひらがな と カタカナ」のセリフだから、空白と改行と間を上手く使って「実際にそのキャラクターが喋っているのを聞いているような」感覚で入ってくる。
ゲームだからといって「便利で」「面倒くさくなく」「遊びやすい方向に」進むのではなく―――私達が生きているこの世界は「不便で」「面倒くさくて」「生きづらい」ことがたくさんあるのだから。その中で「工夫したり」「必死に厳選したり」「騙されないように気をつけたり」するように、このゲームは出来ているんだと思います。
だって、電話をかけてから時間差があって運送屋さんやピザ屋さんが来るあの仕様って、何も考えてなかったら「電話を切った途端にその場にやって来る」ようにしますよ。リアリティはないけれど、その方が便利だし、プログラム的にも楽ですもの。そこを敢えて「ちょっと時間が経ってから走って追いかけてくる」ようにしているという。
もしこのゲームの権利が「分かっていない人達」に握られて、「こんなに人気があるゲームなんだから現代風にリメイクしてみましょうよ」と企画が進んじゃって、3DCGで、漢字のセリフで、アイテムも持ち放題で、不要なアイテムを買わされることもなくて……ってゲームにリメイクされちゃったら、何にも面白くないゲームになっちゃうと思うのです。
そういう意味では……『MOTHER』シリーズが全く続編とか出ないのに、熱烈なファンに愛され続けているのがすごく納得しました。ゲームが進化していって、便利になって、ブラッシュアップされた過程で切り捨てられてしまった「不便だからこそ面白いもの」が沢山詰まっているんです。
だから、「MOTHERみたいなゲーム」なんて現代では作れないし、作ったところで受け入れられる土壌はもう残っていないのかもなぁ……と。いや、糸井さん本人が言うには「それがどうぶつの森なんだよ」ということなのかも知れませんが。
(関連記事:面倒くさいからこそゲームは面白いんだ)
ということで、ようやく本題ですよ。
“『MOTHER2』って、すごく「不便なゲーム」だと思います”という要素の中で、まず最初に多くの人が思うであろうところです。「移動速度が遅い」こと。
『MOTHER2』の移動速度は遅い、「ダッシュ機能はないのか!」と思ってしまう人も多いと思います。でも、このゲームは「ダッシュ」が出来てはダメなんです。移動速度が遅いからこそ、このゲームは成り立っているんです。
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まず、基本的なこと。
多分『MOTHER2』の移動速度は当時のRPGとしては標準的なスピードだったと思います。
ただ、当時のRPGは色んなゲームで「ダッシュ」の要素が加わったんですね。
1992年の『ファイナルファンタジー5』では、アビリティ欄を一枠使って「移動速度を倍に」することが出来ました。
1993年の『ロマンシング サ・ガ2』では、ダッシュをすると視界が狭くなる上に敵に衝突すると不利な陣形で戦わなくてはなりませんでした。
1994年の『ファイナルファンタジー6』では、アクセサリー欄を一枠使って「移動速度を倍に」することが出来ました。
当時のRPGは「移動速度を倍にする」ためにはリスクが伴ったんです。
ただ、もうちょっと時期が進むと「ダッシュ時のスピード」にみんなが慣れてそちらが一般的になっていきました……1992年の『ドラゴンクエスト5』から1995年の『ドラゴンクエスト6』では、通常の移動スピードが倍になりました。つまり、ダッシュ時のスピードが以後の標準的なスピードになったんですね。
『ファイナルファンタジー5』も『ファイナルファンタジー6』も、後の移植作品では「スーファミ版のダッシュ時のスピード」が「通常のスピード」になったそうです。まぁ、これは時代の流れですから、寂しいけれど当然ではあります。
『MOTHER2』が発売された1994年というのは、ちょうどその過渡期だったワケです。
(関連記事:『ファイナルファンタジー5』と「ダッシュ」)
では、『MOTHER2』。
このゲームも標準的な移動スピードは恐らく当時のRPGの標準的な移動スピードで、このスピードを倍にして「ダッシュ状態」にしてくれるアイテムがあります。ただし、10秒か20秒で効果は切れます(笑)。アイテムの所持数もかなり厳しいので、これを使い続けるというのは現実的ではありません。
なので、1994年当時の標準としても「(ダッシュ状態を維持できないことで)移動の遅いRPG」だったんですね。
“友達の家で『MOTHER2』を友達がプレイしているのを見て「随分と古臭いゲームだなぁ」と言った”というのは、まさにこれが最大の要因だったと思います。「今時ダッシュも出来ないRPGなのかよ!」と。
でも、実際に自分で通して遊んでみて分かりました。
このゲームはダッシュが出来てはダメなんだ、と。
消費アイテムを使って20秒だけダッシュが出来る、くらいで十分なんです。
ここからはゲームのストーリーのネタバレになっていくんで、更に気をつけてくださいなっと。
まずこのゲームは、「自分の家」から始まります。
何だかんだあって、夜が明けて最初に向かうのはふもとの町「オネット」。この町には体力を回復するためのホテルがあるのですが、序盤は特にお金が不足するので、多くのプレイヤーはホテル代をケチって「自分の家」に帰って無料で回復をしていたことと思われます。移動速度は遅いけれど、自分より弱い敵とはエンカウントしない仕組みなのでそんなに不便じゃないんですね。
オネットでのイベントを全部クリアすると、次に向かうのは「ツーソン」。
ここでのホテルの代金はもっと高いのですが、「ツーソン」→「オネット」→「自分の家」と帰ろうとすると移動速度の遅さに流石に面倒くさくなります。が、ここで自転車が手に入るのです。流石に毎回の回復のために「自分の家」に帰るのは面倒くさいですが、自転車があるのでまぁそこそこ気楽に家に帰るかなと思えるレベルです。帰ると妹が無料でアイテムを預かってくれるし。
ですが、更に「ツーソン」でのイベントをクリアすると、女のコが仲間になります。そうすると今度は「自転車の二人乗りはダメですよ!」と自転車に乗れなくなってしまうのです。その上、女のコの方の実家にも泊まれるので……わざわざトコトコと歩いて「自分の家」に帰るのが億劫になってくるんですね。
更に進むと、次は「スリーク」。
今度はもう物理的にこの町から出られなくなるので、移動速度がどうこうとか面倒くさいがどうこうとか抜きに、お金払ってホテルに泊まったり、お金払ってアイテムを預けたりしなくてはならなくなります。
最初はそのお金がバカにならないと思うのですが、「スリーク」のイベントを全部クリアした頃には金銭的にかなり余裕が出来るので。お金の節約のために「自分の家」に帰るなんてことはしなくなります。移動速度も遅いし!!
……と、いうことで。
このゲームは「移動速度が遅い」からこそ世界の広さを実感できるし、逆に言うと“実家が遠い”ことを実感できるのです。
実家に帰れば母親が無料で全回復してくれるし、妹が無料でアイテムを預かってくれる。
でも、どんどん帰るのが面倒くさくなるし、金銭的にも余裕が出てくるので「実家に帰るメリット」がなくなってしまうのです。この流れはまさに、子どもが大人になって実家を出て、自分一人で暮らし始め、実家に帰るのが段々面倒くさくなるあの流れなんだと思うのです。
物語も中盤を越した辺りで、「テレポート」のPSIを覚えます。
これは言ってしまえば『ドラクエ』でいう「ルーラ」なので、「移動速度が遅いから実家に帰るのが面倒くさい」という人も楽に実家に戻れるようになる転機なのですが……これが中盤まで覚えられないというのも、間違いなく狙ってやっているのでしょうし。戻れるのは「自分の家」じゃなくて「オネット」なんですよ。
「テレポート」でオネットの町に着く。
見慣れたホテル、市役所、図書館……変わらない人達が歩いていて、平穏な日々を生きていて、その道をトコトコと歩いて実家に向かうのです。何度も何度も登った山道。シャーク団にボコボコにされて逃げ帰ってきたこともあった、たかがネズミと思ったらスマッシュ連発で死にかけたこともあった―――今ではそんな連中を瞬殺できるくらいに強くなったけど、地元の町は何にも変わらないし、実家に着くと昔のように母親が俺の好物を作ってくれる。
これはまさに「大人になって実家を出て、すっかり自立して、しばらく経ってから久々に地元に帰ってきた」あの風景なんですよ。最寄り駅からトコトコと歩く道のりのまんまなんですよ。
『MOTHER2』というゲームは「不便なゲーム」ですよ。
1994年の当時であっても「今時ダッシュも出来ないRPGかよ!」と自分は思っちゃいましたよ。でも、「不便」だからこそ描けるものがあるんです。ゲームをただ単に「クリアをするもの」としか考えていなかった子どもの自分には分かりませんでした。
実家を離れ、世界中を旅して、地球の危機に立ち向かう主人公達。
随分と遠いところまで来たし、随分と大きくなったものです。
だから、だからこそ、最終決戦のあの描写と、エンディングの手紙に泣かされてしまうのですよ。自分一人で旅をして、自分一人で強くなったと思っていたけれど、遠い遠い遠い実家で自分のために祈っている母親がいる――――
もしこのゲームが「移動速度の速いゲーム」だったり「気軽に自宅までテレポートできるゲーム」だったり「飛空挺に乗って何処にでも飛んでいけるゲーム」だったりしたら、あのシーンはここまでの破壊力にはならなかったと思うのです。
「ふざけんなよ!そこがイイんだよ!」と怒った当時の友達よ、ゴメンな。
オマエが正しかったよ。
このゲームは「そこがイイ」んだ。
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| ゲーム雑記 | 17:54 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑
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