CNBLUEとマッシュルのBL小説置き場です。

haru

Silent Night







十二月初旬。
その日、隙間時間に魔法局本部内のカフェテリアへ足を向けたレイン・エイムズは、奥のテーブルにひとりで座っている親友の姿を見つけた。
人影がまばらであるため、向こうもすぐにこちらに気づき、片手を上げてくる。
レインはカウンターで注文したホットコーヒーを受け取るなり、魔法人材管理局所属のマックス・ランドのいるテーブルを目指した。
互いに、「お疲れ」「お疲れさん」と挨拶を交わし、レインはティーカップを傾けているマックスの正面に腰を下ろす。


「なあ、アドラ寮でクリパをするって話、聞いてるだろ」
「――ああ、そういえば、フィンが何か言っていたな」


コーヒーを一口飲んだところでマックスが開口一番に尋ねてきて、レインは数日前のことを思い起こした。
残業を終え、ほうきに乗って自分の屋敷に戻る途中、スラックスのポケットに収めている縮小サイズの伝言ウサギにフィンから電話がかかってきたのだ。
疲れていたせいか、適当に受け答えしただけで詳細はよく覚えていない。
イーストン魔法学校の卒業生は卒業後も母校に出入りするのを許可されていて、体育大会や文化祭などの行事にOBとして顔を出す者たちも珍しくなかった。


「二十五日の午後六時半からだけど、レインも行くか?」
「――……」


日時を聞いた途端、思わず無言になってしまった。
クリスマスは一緒に過ごそうと、仲間以上の存在になったオーター・マドルとすでに約束していたからだ。


「何か予定が入ってるのか?」
「ああ、悪い。先約があるんだ」
「クリスマスに先約って……、もしかして恋人とデート、とか?」


こういう場合、誰しもそう思うだろう。
事実、レインの恋人なのだが、その言葉を向けられただけでいまだに気恥ずかしくなってしまう。


「――まあ……、そんなところだ」   
「ええっ、マジか」


潔く認めると、マックスは身を乗り出し、あり得ないことを聞いたような驚愕の表情を浮かべた。


「そこまで驚くことか?」
「いやあ、だってさ。俺、密かにお前の行く末を心配してたんだよ。そうか。よかったなぁ、レイン」
「どういう意味だ」
「せっかく見た目がいいのに、特定の相手がいなかっただろ。ウサギに一生を捧げるのはもったいないと思ってたんだよ」
「勝手に思うな。そこまで捧げられるか」


やけに喜んでくれている遠慮のない親友に、レインは憮然として言い返した。
アドラ寮で六年間同室だったマックスは、レインの過去の愚行をいろいろ知っている。
羽目を外す連中は一定数いたので、互いに協力し合って夜に寮を抜け出したり、無断外泊することもあった。
ウサギは今でも心の癒しだが、オーターという代わりのきかない存在によって、これまでとは違う人生を歩んでいる。


「また何かあったら声をかけるよ」
「ああ、頼む。みんなによろしく言っておいてくれ」


いつも付き合いがいい朗らかなマックスに、レインがそう言ってコーヒーカップを口許に運んだ時だ。


「ねぇねぇ、最近、オーター様って雰囲気変わったと思わない?」
「思う。以前は挨拶しても事務的に返されるだけで近寄りがたかったけど、ちょっと人当たりが柔らかくなったよね」
「うん。無表情で、まったく隙なし脈なしって感じだったもんね。何かお近づきになれるようなきっかけがあるといいんだけど」


香り高いコーヒーを堪能していると、壁際の席から女性局員たちのひそひそ話がそれとなく聞こえてきた。
全員、顔に見覚えはない。


「オーターさんの玉の輿に乗りたがってる人、ホント多いよな。うちの局長のカルドさんもだけど」
「ああ、ちらほら耳に入ってくるな」
「カルドさんは名門ゲヘナ家の出身だし、オーターさんはエリート一家の長男。結婚適齢期の女性局員はこぞって狙ってるらしい。――まあ、俺たちには関係ないけどさ」
「……そうだな」


軽い口調で言うマックスに対し、表情を変えずに相槌を打つのがやっとだった。
レインにとっては関係なくはない。大ありだ。
既知の情報だが、改めてこういう場面に遭遇すると何とも言えない気分になった。
レインがクリスマスを一緒に過ごそうと思っている相手がそのオーターだと知ったら、この親友はきっと卒倒するだろう。
正直なところ、平然とスルーすることはできないものの、気にしても仕方がないのだと、レインは無理やり自分を納得させた。





◇◇◇◇◇





魔法界で十一月中旬から突入したクリスマスシーズンも、いよいよ大詰めを迎えようとしていた。
街中がクリスマスディスプレイに彩られて、街路樹はイルミネーションで輝きを放ち、店先からクリスマスソングが流れてくるのは毎年お馴染みの光景だ。
魔法局本部の第一局舎と第二局舎の一階エントランスロビーにも、局員たちの手によって華やかに飾りつけられた大きなクリスマスツリーが設置されている。
所用で赴いた研究所から帰局したレインは煌びやかなクリスマスツリーを一瞥し、エレベーターホールへと急いだ。


クリスマスに別段思い入れはない。
両親が存命だった頃は母親お手製のローストターキーやクリスマスケーキを食べ、プレゼントをもらった記憶がある。
亡くなってからは一時期預けられていた児童養護施設で、そして、イーストン魔法学校在学中はアドラ寮の友人たちとクリスマスを過ごした。
しかし、気持ちが高揚するどころかどこか冷めた目で見ていて、何が楽しいのかよくわからなかった。はずなのに――。


「どうぞ」
「これは私からだ」


吹き抜けになっているだだっ広いリビングルームで、クリスマス仕様にラッピングされたプレゼントを交換すると、オーターは目許を和らげた。
いつものように白いドレスシャツに仕立てのよさそうなベストとスラックスを合わせ、一寸の狂いもなく締められたネクタイ姿だ。
怜悧に整った顔立ちは、丸眼鏡でより知的な印象を漂わせている。


今日は十二月二十五日。世に言うクリスマス当日だ。
平日であるため、仕事を終えてからオーターと合流し、クリスマス一色に染まったマーチェット通りへと繰り出した。
守秘義務が徹底されているセレブ御用達のフレンチレストランでクリスマスディナーを堪能したあと、オーターの屋敷へ移動したのだが、勤務時間外でマーサはいない。
ウサギ部屋に、レインが命名したアマレットがいるだけだ。
オーターが飼っている垂れ耳ウサギ――正式にはホーランドロップイヤーという品種のメスで、オレンジ色の体毛からリキュールのアマレットがふと思い浮かんだ。
オーターにどうでしょうかと感想を訊くと、蒸留酒から取ってくるとはお前らしいなと言って相好を崩し、それでいいと賛成してくれた。


重厚感のある革張りソファに横並びで座り、互いに用意していたクリスマスプレゼントを手渡し、早速その場で包装を解く。
あれほどクリスマスに興味がなく、今まで誰かに贈り物をしたことなど一度もなかったが、状況が変われば気持ちも変わるらしい。
この変化に一番驚いているのは自分自身だ。
プレゼントを贈り合うのは初めての経験だけに、何とも面映ゆい。
でも、オーターの穏やかな表情から嬉しそうな気持ちが伝わってきて、レインの心もじんわりと温かくなった。
骨張った指で長細い箱を開けたオーターが、わずかに目を眇める。
レインが選んだクリスマスプレゼントは、上質なネイビーのネクタイだった。
老舗シルクブランドの最高品質のシルク生地を使い、ハンドメイド縫製により美しい艶となめらかな手触りが特徴だ。


「こういうカラーのネクタイをされているのを見たことがなかったので、オーターさんに合うんじゃないかと思って」


オーターの髪や瞳の色に似た茶系や琥珀色のネクタイは目にした記憶があり、それ以外の落ち着いたカラーにしてみたのだ。


「悪いな。先月もらったばかりなのに」
「いえ、あれは誕生日プレゼントですから」


ネイビーのネクタイから視線を上げてこちらを見たオーターに、レインはそう返して先月の出来事を思い返す。
神覚者全員が仮装する羽目になった秋祭りの日が、実はオーターの誕生日だったと知ったのはその翌日だった。
魔法局本部の資料保管室でオーターとばったり出くわし、用事を済ませてから一緒に執務室へ戻る途中、マックスの上司でもあるカルド・ゲヘナに会い、『やあ、昨日はお疲れ様』と声をかけられたのだ。


『ちょうどオーターのところに行こうと思っていたんだ。誕生日おめでとう。これ一日遅れだけど、魔法人材管理局から金一封』


カルドが書類ケースの中から取り出した封筒をオーターに手渡すのを見て、レインはえ……、と内心驚愕した。
神覚者は日頃の功績を称えられ、誕生日に臨時ボーナスが支給される仕組みになっているのだが、驚いたのはそこではない。
『じゃあ、また』と、にこやかに微笑んで去っていくカルドの後ろ姿を見送ったあとで、レインはオーターに問いかけた。


『昨日、誕生日だったんですか?』
『ああ……、そういえばそうだな。忘れていた』
『会っていたのに、俺、何もしてないです……』


まるで他人事のような顔で話すオーターに、レインはぽつりとこぼす。
秋祭りのパレードから解放されて着替えようかと思った矢先に、オーターの空間転移魔法で自宅に瞬間移動し、そのままベッドになだれ込んでしまったのだ。
結局、二時間近く抱き合ってしまい、そのあとレインが用意した軽めなメニューを摘む程度に食べ、夕食は近場のイタリアンレストランへ足を運んだ。


『別に何もしなくていい。祝ってもらうような歳でもないしな。ただ生まれた日というだけだ』
『いえ、そういうわけにはいきません』


一歩も譲らないとばかりにぴしゃりと言い切ると、オーターは意外そうにレインをまじまじと見てきた。
レインも自分の誕生日に興味がないので、オーターの心情は大いに共感できる。
とはいえ、それとこれとは話が別だ。
ふたりで外食する時など、出費が生じるたびに相変わらずオーターが支払ってくれている。
こちらが出すと言っても断られ、では自分の分だけでもと訴えても、頑として首を縦に振らないのだ。
一方的に負担させ続けるのは申し訳なくて、せめて記念日くらいは何か贈り物をしないとレインの気が済まない。
当の本人が失念していたのだからどうしようもないが、付き合うようになって数ヶ月経過しているにもかかわらず、そもそも誕生日の話題すら出なかったのだ。
オーターとはつくづく似たタイプなのだと思う。


そうはいっても何もせずにはいられなくて、その日、レインは早めに仕事を切り上げて、ひとりマーチェット通りへ立ち寄った。
何にすべきか考えあぐねた結果、実用的なものがいいのではないかという結論に達し、レインがよく利用するVIP専用のメンズショップに足を向けたのだ。
初めての贈り物だけに、少し控えめにしようとネクタイピンとカフリンクスのセットに決め、オーターが好みそうなシンプルかつ洗練されたデザインのものを選んだ。
エッジ部分にシグネチャーであるダイヤモンドパターンの細いラインが施され、質感のさりげないコントラストを生み出したシルバーの逸品だ。


翌日、それを手にオーターの執務室を訪ねたところ、本人は目を丸くしていた。
二日遅れでレインから誕生日プレゼントを貰うとは、予想だにしていなかったのだろう。
仕事モードのポーカーフェイスがふっと和らぎ、『ありがとう。大切にする』と言って受け取ってくれた。
十一月十日、オーターは二十四歳になった。
一時的ではあるが、レインとは六歳差だ。


「思った通り、オーターさんに合いますね。これにしてよかったです」


箱から取り出したネイビーのネクタイをオーターが胸許にあてがうのを見て、レインは口許を緩めた。


「いい色だな。風合いと光沢感も私好みだ」
「シルクなので肌触りがいいし、夏には涼しくて冬には暖かいんですよ」
「お前が選んでくれたものは間違いないな。このネクタイピンと合わせて明日締めることにしよう。――ほら、レインも」


オーターはベストのVゾーン辺りに見えるネクタイピンに触れてから、レインが受け取った小さな箱に視線を落とす。
「はい。ありがとうございます」と礼を言って、レインは箱を開けた。
プレゼントの中身は、ダイヤモンドのピアスだった。
一石ダイヤではなく、複数の小さなダイヤと18金が細かく連なっていて、まるで瞬く星々がぎゅっと詰まったようなピアスだ。


「今、つけてもいいですか?」
「無論だ。見たい」


ソファから立ち上がったレインはエントランスホールに備えつけてある大きな姿見のところへ行き、両耳からピアスを外してプレゼントされたものをつけてみた。
煌びやかな輝きが、レインの整った顔立ちによく映える。
小ぶりながらも存在感があり、これなら職務中でも邪魔にならないだろう。
リビングルームに取って返し、泰然と脚を組んでいるオーターの隣に再び腰を下ろすと、伸びてきた長い指がレインの耳許の髪を掻き上げた。


「一目見てお前に似合うと思ったんだが、やはり私の目に狂いはなかったな」


耳朶につけたばかりのピアスをじっと眺めて、丸眼鏡の奥の双眸を満足げに眇める。


「デザインが素敵ですね。とても気に入りました。普段使いさせてもらいます」
「それはよかった。これでまた、お前の魅力に引き寄せられる連中が増えるかと思うと複雑だがな」
「ピアスひとつで大袈裟ですよ。オーターさんこそ、話題になるくらいモテてるって自覚してます?」


オーターの要らぬ心配が引き金となり、胸の中のもやもやがぽろりと口をついて出てしまった。


「なんだ、それは」
「カフェテリアで女性局員が話しているのがたまたま聞こえたんですよ。オーターさんの雰囲気が柔らかくなったって。アプローチする方法はないものかって、数人で話してました」


怪訝そうな顔で見てくる男に、消えずに脳裏にこびりついていた先日の光景について話す。
今に始まったことではないが、神覚者に対する局員たちの評判はどこかしらから漏れ聞こえてくるものだ。
中でもとりわけ、独身かつ良家の跡継ぎであるオーターとカルドは、女性局員の注目の的になっている。
オーターに関心がなかった頃は気にも留めなかったが、あの時はつい聞き耳を立ててしまった。


「まったく興味がないな。自覚する必要もない。――まさかと思うが、変に誤解してないだろうな?」
「それはないです」
「即答か。つれないな」
「え……、何がですか?」
「まるっきり気にされないのもな。お前にそれを求めるのは贅沢か」


不服そうに溜息をつかれ、レインは慌てて付け加える。


「誤解はしてないですが、気にはなります」
「そうなのか? 平気なのかと思った」
「――……平気なわけないじゃないですか。気分悪いです。……こんなこと、俺に言わせないで下さい」


上目で軽く睨むように見つめると、淡い琥珀色の瞳がふんわりと包み込むように細められた。


「たまにはいいだろう? 今日はクリスマスなんだから、そのくらい望んでも」
「たまにじゃなくて、ちょくちょく要求してきます」
「例えば?」
「もうその手には引っかかりません」


まるで策士のように自分の術中に嵌めようとしてくる男からぷいっと背けた頬に、長い指が触れてくる。


「私の雰囲気が変わったのだとしたら、それはお前が私の想いに応えてくれたからだろうな」
「――……」


こめかみの辺りを撫でられながらしみじみと呟かれ、そういえば……、とふいに、夏休みに帰省したフィンから同じようなことを言われたのを思い出した。


『兄様、すごく優しくなったね。雰囲気も柔らかくなったし。イーストンにいた頃はもっと厳格だったけど』


付き合う前だったが、オーターに対する気持ちはすでに自覚していて、やはり居候中から目には見えない変化が自分の中で生じていたのだと今さらながらに思う。
隣に顔を向けると、こちらを見ていたオーターと視線がぶつかった。
首筋のラインをなぞっていた手におもむろに手を重ねてから、レインは口を開く。


「……俺も、いろいろと変わりましたよ。こういうのを相乗効果って言うんでしょうね」
「そうだ。こんなに相性のいい組み合わせはない」


レンズ越しに真っすぐに見据えたまま言い切られ、瞬いたレインはやがてわずかに表情を綻ばせた。
目許を緩ませたオーターが、ふいに腰を抱き寄せてくる。
瞬く間に距離が近づき、自然と唇と唇が重なり合った。


「今から確かめてみよう」


繰り返されるキスの合間に低く囁かれ、頷いたレインは自分からオーターの首に腕を回して唇を合わせる。
徐々に深まっていく口づけに、今夜も長い夜になりそうな予感がした。





◇◇◇◇◇





「――……、……ッ、………ン………」


夜が更けて、ほどよく暖まったオーターの寝室は濃密な空気で満たされていた。
淡い薄明りの中、ふたりの息遣いや濡れたような音が次第に熱を帯びて激しくなっていく。
清潔なシーツに縫い留められるように、レインは上から覆い被さる男の昂ぶりを受け入れていた。
間断なく揺さぶられながら何げなくカーテンが閉められていない窓の方を見て、外で舞っている白いものに気づく。


「……っ、……あぁ……ん、っ……、……あ、れ……?」
「――ん? どうした?」
「ゆ、き……だ」
「ああ、降ってきたのか……。――こら、最中によそ見をするのは反則だろう」


動きを止めたオーターに窘められたが、知らず知らずのうちに降っていた雪から目が離せなくなった。


「ホワイト……クリスマス……ですね。綺麗だな……」
「お前の方がよっぽど綺麗だ」


精悍な貌が下りてきて、反射的に目を閉じたレインの唇にキスが落とされる。
軽く啄んでから舌先を絡ませ合っていると、急に視界が大きく揺らいだ。
組み敷かれていたはずのレインはいつの間にか体勢を入れ替えられ、仰向けになったオーターの腰に跨っていた。


「あっ……、なん、で……、こんな……」


狼狽したレインが肩で喘ぎながらゆるゆると身を起こした途端、自分の重みでより奥へとオーターが沈み込む。
他の体位では届かないところまで深く穿たれて、なかなか慣れない圧迫感に襲われた。


「――……やっ、……ンンッ」
「これだと、雪がよく見えるだろう?」


無防備な肢体を晒したまま息をついていると、慣れた仕草でオーターに胸をまさぐられる。
色づいた乳首を指の間で挟むように愛撫され、つきんとした感覚が走り抜けるのに連動して内壁がきゅっと締まった。


「……っ、……ぁ、……」


あたかもそれを楽しむように、オーターが指先で弄ることを止めない。
もはや窓の向こうで舞い落ちている雪を眺める余裕などなく、逃げ場のない状況に戸惑いながら喘ぐしかなかった。


「好きに動いたらいい」


目を眇めて感じ入っている様子のオーターが情欲に掠れた声で甘く囁き、じっと下から見上げてくる。
いつも与えられるばかりなので、躊躇いつつおずおずとぎこちなく腰を揺らしてみたが、不慣れな体勢でタイミングやコツが掴めなかった。
早々に諦めて動くのをやめれば、オーターが催促するように濡れそぼっているレインに指を絡ませる。


「ちょ、っ……、いま……触らない、で――」


次から次へと沸き起こってくる快楽に翻弄され、初めての時みたいに身体が勝手に力んでしまった。 
途端に、レインの中の質量が増して、さらに奥を突く。


「や、……ふか、い……、無理……」
「……っ、レイン、きつい。……少し、緩めてくれないか」
「で、き……ない……」


こうなってしまうと、どうしていいのかわからない。
かぶりを振るレインを見かねたのか、オーターが繋がったまま起き上がったが、その拍子に思わぬ角度で屹立が最奥まで入り込んできた。


「……ンァッ、……あぁ……っ」


衝撃で聞くに耐えない艶めいた声を上げて仰け反った喉に、オーターの唇が吸いつく。
たとえようのない甘い愉悦が全身を駆け抜け、思わず目の前の引き締まった肩に縋りつくと、愛しげに抱き締められた。


「レイン、可愛い」
「……っ、……は、ぅ……」
「ベッドの中のお前はたまらなく可愛いな」


浅い呼吸を繰り返すレインをつぶさに観察しながら繰り返し言われて、腰の奥だけでなく思考まで蕩けていく。
オーターの太腿に乗り上がった状態で向かい合い、至近距離からレンズの奥の琥珀色の瞳を見下ろせば、宥めるようにキスされた。


「力んだら駄目だと、いつも言っているだろう」
「……っ、……オーターさ、……」
「大丈夫だから、私に寄りかかったらいい」


他の誰にも聞かせたくないと思うほどの優しい声音に頷いた直後、唇を重ねてきたオーターが無理のない力で緩やかに動き出す。
びくんと跳ねる腰をやんわりと抱き寄せられ、口内を深く探っていた温かい舌に求められるまま舌を差し出し、互いに絡ませ合った。
頭の奥まで甘く痺れるような口づけに酔いしれるのと同時に、視界までも白く霞んでいく。
オーターにぎゅっとしがみついたレインはもたらされる悦楽に身も心も委ね、応えるように腰を揺らめかした。





End





にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村