トビウオ
一般的に「トビウオ」と呼ばれる水産物についてのまとめページです。
標準和名「トビウオ」のページはコチラになります。
トビウオについて
トビウオ類とはトビウオ科総ての魚のことだ。漢字「飛魚」とあるように「跳」のではなく海面上を飛翔(滑空)することから呼び名がついていて、その飛翔距離は数百メートルにも及ぶ。
春から初秋にかけてトビウオ類は、小笠原諸島から伊豆諸島、本州太平洋側へ、琉球列島からトカラ列島、屋久島などをへて北上する。
関東の市場には、まだ冬といってもいい2月に大型のハマトビウオが鹿児島県、宮崎県などから入荷。続いて三重県などからツクシトビウオとホソトビウオが春から初夏にかけてとれる。夏になって姿を現すのがトビウオである。
これが宮崎県以南になるとぐんと種類が増える。小型であまり利用されないニジトビウオやホソアオトビなどが春に姿を現し、6月になると大型のオオメナツトビやチャバネトビウオ、カラストビウオなども混ざる。
これらの多くが産卵群であり、非常に大きな群れを形成する。これを一種の巻き網、定置網などでとるが一度にまとまって取れるので、鮮魚だけではなく干もの、塩漬け、すり身(練り製品)などに加工する。
トビウオ類の食べ方、加工法は多彩であり、地域性があるために、水産物として重要なだけではなく、食文化の面でも重要である。
あご(ホソトビウオ)の食文化
ホソトビウオの食文化
春に九州南部に出現して青森県沖などまで青森県沖まで北上する。長崎県から山陰に、舞鶴湾から能登半島をまわって青森県まで北上群が水揚げされるが、干ものよりも重要なのが煮干し、焼き干しである。山形県酒田市では焼き干しを使った中華そばがある。鶏ガラスープなどは不要でとっただしだけでおいしい中華そばが作れる。写真は焼き干しのだし、生じょうゆ、少量の酒のみで味つけしたもの。
長崎県、島根県などではすり身にして練り製品を作っている。揚げ蒲鉾、焼き蒲鉾など多様である。特にトビウオとツクシトビウオのすり身で作るのが島根県名物の「あご野焼き」である。またトビウオだけで作った練り製品も少なくない。鮮魚としても重要であり、卵巣なども別流通していて春から初夏にかけての風物詩だ。
南西諸島・大隅諸島のトビウオの食文化
トカラ列島・屋久島のトビウオの食文化
トカラ列島から屋久島までの沖合では本州では厳寒期にある2月にトビウオ類がとれ始める。最初にとれ始めるのは、主にハマトビウオではないかと思うがはっきりとはわからない。この地域で水揚げされるトビウオ類は14種以上にのぼる。
現在では鮮魚でも食べられているが、塩漬けにして干していたようだ。鹿児島県や熊本県などで手に入れた「七島とび」は十島村(トカラ列島)などで作られたもの。保存がきくので年間を通して、塩出ししてゆでる、また煮ものなどにも使い、当然このまま焼いておかずや酒の肴にしたのだろう。九州の山間部で食べられていたものではないかと思うのだが、これに関しては本データベースの課題となっている。
屋久島ではハマトビウオ、カラストビウオ、オオメナツトビなどは鮮魚でも流通し、干ものにも加工するが、アヤトビウオやマトウトビウオなど小型種はすり身になっている。
伊豆諸島・伊豆半島のトビウオの食文化
伊豆諸島・伊豆半島のトビウオの食文化
小笠原海域から北上してきたハマトビウオは春に水揚げされるので「春とび」、体が角張っているので「角とび」などと呼ばれている。他にもツクシトビウオやトビウオなども揚がるが主役はなんと言ってもハマトビウオだと思う。
伊豆諸島ではこれを「くさや」にする。江戸時代に伊豆諸島では製塩が行われていたが、主に江戸などに送られるもので島では常に塩が不足していた。干ものを作るときに作る塩水(塩汁)を何度も使う内に独特の臭味と風味が生まれた、これが伊豆諸島の新島、八丈島などで作られる「くさや」である。
戦後、高度成長期までは安い干ものの代名詞であった「くさや」は八王子など製糸業、織物などが盛んに作られた地域では安い食材としてよく食べられていたようだ。現在でも八王子でこの「くさや」をよく食べていた時代を知る人がいるくらいである(2017年現在)。
また流通の発達した現在では「塩干し」という上質な干ものも作られている。
「トビウオ」と呼ばれる水産物一覧
●印は「トビウオ」ですがそれ以外はトビウオの仲間ではありません。
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アヤトビウオ ●
海水魚。 [宮城県気仙沼]、房総半島館山〜琉球列島の黒潮域、伊豆諸島、小笠原諸島。 北海道太平洋沿岸、青森県八戸、富山湾、兵庫県浜坂、九州西岸。 朝鮮半島南岸・東岸、台湾、インド-西太平洋。主に太平洋沿岸、琉球列島の黒潮域でとれる。九州、四国、本州などでは夏から秋にかけて来遊して定置網などに入る。 他の食用トビウオ類と・・・アヤトビウオのページへ -
イダテントビウオ ●
海水魚。 常磐・房総半島沖、伊豆諸島〜琉球列島の黒潮海域。 朝鮮半島南沖、台湾、ピーター大帝湾でも発見されている。全世界の暖海域。主に亜熱帯域や黒潮の影響のある温かい海域にいる小型のトビウオ。 本種だけでの流通はないのではないかと思われる。 オオナツトビ、トビウオなどに混ざっているのを見る。珍魚度 主・・・イダテントビウオのページへ -
ウチダトビウオ ●
海水魚。 神奈川県三浦半島、[真鶴沖]、高知県土佐清水、鹿児島県枕崎・屋久島(幼魚)、東シナ海。 台湾、インド-西太平洋。相模湾などでも毎年のように揚がるが、トビウオとして他のトビウオ科の魚と同様に水揚げされている。他の地域でも同じように本種はトビウオとして扱われているのだと考えている。 ウチダトビウオとヒメアカトビウ・・・ウチダトビウオのページへ -
オオメナツトビ ●
海水魚。 伊豆諸島、小笠原諸島、沖ノ鳥島、屋久島、琉球列島。 太平洋の熱帯域。鹿児島県南部でもとれるが、沖縄でとれるトビウオ類のなかではもっとも代表的なものだろう。 夏にまとまってとれ、産地内で消費されるのではないかと思っている。 全国的に流通する食用のトビウオは大型の〈ハマトビ〉、夏にかけて南から日本列島を北上する〈・・・オオメナツトビのページへ -
カラストビウオ ●
海水魚。 若狭湾、伊豆諸島、高知県以布利島、鹿児島県種子島・屋久島、琉球列島。 台湾、済州島、インド-西太平洋の熱帯域。小笠原諸島、鹿児島県、沖縄県などで水揚げされるもの。6月〜9月にかけて産卵群がとれる。大型で味のいいトビウオである。屋久島では卵、鮮魚など用途も広い。珍魚度 主に大隅諸島以南で揚がる・・・カラストビウオのページへ -
チャバネトビウオ ●
海水魚。 天草、小笠原諸島、沖ノ鳥島、鹿児島県本土、屋久島〜琉球列島の黒潮域。 台湾、インド-太平洋の熱帯域。太平洋・インド洋に広く生息域を持つ。九州周辺が北限にあたると考えられる。漁業的には主に九州、大隅諸島周辺で水揚げがある。大型のトビウオであるが、同定が非常に難しいので単にトビウオとして流通している。大隅諸島では・・・チャバネトビウオのページへ -
ツクシトビウオ ●
海水魚。 北海道石狩湾〜九州西岸の日本海・東シナ海、北海道尻臼〜仙台湾の太平洋沿岸、房総半島東岸〜屋久島の太平洋沿岸。 朝鮮半島南岸、希にピーター大帝湾国内で食用とするトビウオは大型のハマトビウオと、中型のトビウオ、ツクシトビウオ、小型種のホソトビウオの4種類。日本海を北上するもの群れが国内では最大のもので、多くがホソ・・・ツクシトビウオのページへ -
ニノジトビウオ ●
海水魚。 伊豆諸島、小笠原諸島、沖ノ鳥島、相模湾、屋久島、琉球列島。台湾、全大洋の熱帯域。主に小笠原や琉球列島などで揚がるトビウオ。沖縄県ではトビウオの種類が多く、利用されている種も多いが本種もそのひとつ。 利用法などはトビウオは同じで唐揚げか焼くかみそ汁にする。ニノジトビウオのページへ -
ハマトビウオ ●
海水魚。海の表層域。 希に石狩湾・北海道太平洋沿岸、岩手県〜九州南岸の大平洋沿岸、屋久島、九州西岸、幼魚が奄美大島西方海域。 朝鮮半島西岸。トビウオ科では最大種だが、ハマトビウオの「ハマ」の意味はわからない。一般的には大きいので「大トビ」、断面が正方形に近いので「角トビ」、春に入荷するので「春トビ」などと呼ばれることの・・・ハマトビウオのページへ -
ホソアオトビ ●
海水魚。表層域。 宮城県歌津沖、千葉県天津沖、八丈島、秋田県、若狭湾、山陰沖、福岡県津屋崎、長崎県、種子島、屋久島、琉球列島。 朝鮮半島南岸、江蘇省、台湾、インド-西太平洋の暖海域。インド太平洋の暖海域に広い生息域を持っている。国内で成魚は沖縄県、鹿児島県で、未成魚は主に長崎県で漁獲されていて、様々な加工品になっている・・・ホソアオトビのページへ -
ホソトビウオ ●
海水魚。 北海道〜九州西岸の日本海・東シナ海沿岸、北海道太平洋沿岸、仙台湾〜屋久島の太平洋沿岸。 朝鮮半島。琉球列島をのぞく日本列島を南北に回遊している。九州以北で食用とする主なトビウオは大型のハマトビウオと、中型のトビウオ、ツクシトビウオ、小型種のホソトビウオの4種類だ。 中でも本種は春から夏にかけて日本海などに産卵・・・ホソトビウオのページへ