損益通算とは?株取引で赤字がでたときに知っておくべき制度をわかりやすく解説
株取引は相場の影響を受けるため、大きく儲けることができることもある反面、場合によっては損をしてしまうこともあります。そこで忘れてならないのが、「損益通算」です。
損益通算は、同じ年に発生した利益と損失を相殺することで、利益分にかかる税金を少なくすることが可能になるというしくみです。この記事では、金融商品の損益通算と確定申告について解説します。
目次
損益通算とは
損益通算とは、特定の所得で生じた損失と他の所得の利益を相殺できる制度のことです。「特定の所得」とは以下の4種類を指します。
- 不動産所得
- 事業所得
- 譲渡所得
- 山林所得
株式や投資信託などの売買においては、毎年1月1日から12月31日までの間に発生した損益(赤字と黒字)を通算できます。
複数の金融商品に投資をする場合、年間の売買の損益がトータルでプラスで終わることもあれば、マイナスになってしまうこともあるでしょう。そこで、同じ年に得た利益分と損失を相殺することで、利益分に課税される税金を少なくすることができるのです。
損益通算を行うには、所得税の確定申告にて手続きを行う必要があります。
損益通算の順序
損益通算をする際には、組み合わせと順序が下記のように決まっています。
【組み合わせ】
Aグループ.利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、雑所得
Bグループ.譲渡所得、一時所得
C. 山林所得
D. 退職所得
【順序】
- 不動産所得又は事業所得の金額の計算上損失を生じたときは、その損失の金額をまずAグループ内の他の所得の金額から差し引く
- 譲渡所得の金額及び一時所得の金額(Bグループ)から計算上損失を生じたときは、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額のみを一時所得の金額から差し引く。なお、一時所得の損失は打ち切られる
- Aグループ、Bグループいずれかの組み合わせに損失が残っている場合、計算済みのAグループとBグループでさらに損益通算をする。なお、BをAから差し引く場合は、初めに譲渡所得の損失を差し引いてから、一時所得の損失を差し引く
- 3でまだ損失がある場合、C(山林所得)と損益通算をする
- 4でまだ損失がある場合、D(退職所得)と損益通算をする。
- C(山林所得)の金額の計算上損失を生じたときは、これをまずAグループの所得の金額(1. または3. の計算が行われる場合には、計算した後の金額)から差し引き、次に譲渡所得の金額及び一時所得の金額(Bグループ)(2. または3. の計算が行われる場合にはその計算後の金額)から差し引き、最後に退職所得の金額(5. の計算が行われる場合には、その計算後の金額)から差し引く
6でも引ききれなかった損失の金額は、その年分の純損失の金額となります。最終的にでた純損失の金額は、翌年以降3年間の所得の金額から繰越控除を受けることができるというしくみになっています。
損失は3年間繰り越すことができる
前述のとおり、損益通算しても控除しきれない損失がある場合は、確定申告で「譲渡損失の繰越控除」をすることにより、翌年以降3年間の利益分と相殺することができます。
たとえば下の図のように、ある年に株式の売買で500万円の損失を被ってしまったとします。
この際、「譲渡損失の繰越控除」の確定申告をすることで、その翌年に100万円の利益を得た場合、前年の損失分を控除することができます。つまり、損失分の繰り越し500万円のうち100万円が利益と相殺され、その利益分に対しては課税されることはありません。
さらに、その翌年の利益が100万円、その翌々年の利益が300万円という場合でも、損失の繰り越し分があるので税金はかかりません。
仮に、2年目に再び100万円の損失が出た場合は、損益通算をすることによって、3年目に繰り越せる損失は計400万円になります。
なお、繰越控除を受けるためには、取引がない年があっても、毎年確定申告書をする必要があります。
確定申告のために知っておきたい「口座の種類」
ここまで損益通算と損失の繰越控除について説明しましたが、金融商品を取引している口座の種類によっては、1年間の損失に関係なく、確定申告が必要な場合があります。
株式や投資信託を売買する「証券口座」には次の4つの種類があり、その種類によって確定申告が必要か不要かが異なるため、損益通算するかどうかに関わらず口座ごとの特徴を覚えておきましょう。
特定口座(源泉徴収あり)
源泉徴収ありの特定口座を選択した場合、利益が出たときは証券会社が税額を計算し、源泉徴収税額を納めてくれるので、確定申告をする必要はありません。
確定申告が不要でラクだというメリットの反面、投資を頻繁に行う人にとっては、利益が出るたびに税金が引かれるため、その分資金効率が悪くなる点がデメリットといえます。
ただし株式取引の年間損益合計がマイナスであった場合、源泉徴収ありの特定口座であっても確定申告をし損益通算しましょう(毎年の確定申告が条件)。
特定口座(源泉徴収なし)
源泉徴収なしの特定口座を選択した場合、利益が出たときは自身で確定申告をする必要があります(年間の譲渡所得が20万円以下であれば、確定申告は不要)。証券会社などから送られてくる年間取引報告書を確認して、確定申告をしましょう。
この口座のメリットは税金が引かれないことでの資金効率のよさで、デメリットは申告のわずらわしさといえます。
なお、確定申告が不要な場合でも、損失が出て損益通算したい場合には確定申告が必要です。
一般口座
一般口座を選択した場合は、証券会社からは売買ごとの売買報告書のみで、年間取引報告書は送られてきません。特定口座(源泉徴収なし)と同様に、年間の利益が20万円を超えたら、自身で年間取引報告書を作成して、確定申告をする必要があります。
源泉徴収なしの特定口座と同様に、確定申告が不要な場合であっても損益通算するのであれば手続きが必要となります。
NISA口座
NISA(少額投資非課税制度)口座は、新規投資額で毎年120万円、最長5年間で投資総額600万円の非課税投資枠があり、この金額内の投資に対する利益に税金がかからないという口座です。最大のメリットは、売却益や配当金に対して通常20%課せられる税金が非課税になることが挙げられます。
1人1口座のみ開設可能で、NISA口座では基本的に税金がかからないので確定申告は不要です。なお、NISA口座は損益通算の対象外になりますので、注意しましょう。
金融商品の損益通算は2つのグループに分けて行う
金融商品はその種類により2つのグループに分けられます。グループが違う金融商品同士は、損益通算をすることはできません。
たとえば、株式で利益を確定した年に、日経平均先物で損失を出してしまったというケースでは、それぞれが別のグループであるため損益通算ができないということです。
それでは、グループごとの損益通算の特徴と注意点を解説します。
株式・投資信託・債券グループ
2016年には対象範囲が広がり、公社債投資信託と債券も株式と併せて損益通算ができるようになりました。個人向け国債の利子も同グループに属するため通算することが可能です。
この改正での影響が大きいのが外国債券や外貨MMF。為替差損が出た場合でも、株式や投資信託の利益分が出て入れば、損益通算することで損益を相殺でき、さらに金額によっては税金を取り戻すことができるようになったのです。
なお、株や投資信託などの売買による損益は譲渡所得、配当金や分配金は配当所得、債券の利金は利子所得の対象となります。
株式・投資信託・債券グループの例
- 上場株式・ETF・REIT(譲渡損益・配当金・分配金)
- 外国株式・海外ETF(譲渡損益・配当金・分配金)
- 信用取引(決済損益・配当落調整金)
- 株式型投資信託(譲渡損益・分配金・償還差損益)
- 公社債投資信託・債券(譲渡損益・分配金・償還差損益・利金)
外国株式や海外ETFは、日本国内の金融機関で購入した商品の場合に限り、グループ内のほかの商品との損益通算が可能です。
なお、海外の金融機関で購入した場合は、確定申告の必要はありますが、損益通算の対象外となります。
また、海外ですでに源泉徴収がされている場合、日本でも課税されるため、二重課税となってしまいます。その場合には外国税額控除という制度を利用しましょう。
※2016年以降、上場株式と非上場株式の譲渡損益は、損益通算不可となっています
デリバティブグループ
デリバティブグループは、株式・投資信託・債券グループとは異なり、源泉徴収されるしくみがありません。
すべて雑所得となり、同じグループの商品同士の損益を合算して、給与所得者で年収2000万円を超えていない人は20万円超、給与所得がない人(専業主婦や学生など)は48万円超の儲けが出ている場合に、確定申告をする必要があります。
その他の所得により確定申告が必要な場合もありますので、ご注意ください。
また、損失が出ていれば、確定申告でグループ内の損益通算を行い、損失の繰越控除を3年間行うことにより、各年分の「先物取引に係る雑所得等の金額」から控除することができます。
デリバティブグループ商品の例
- 先物・オプション取引
- くりっく株365
- FX(外国為替証拠金取引)
なお、源泉徴収されるしくみがないからといって「確定申告しなくてもバレないだろう」と判断するのは要注意です。
FXなどの取引業者は税務署への支払調書の提出が義務付けられているため、税務署は「利益がいくら出ているか」といった取引状況を把握しているのです。そのため確定申告を逃れることはできません。
一方で、雑所得は年間の取引損益から経費分を差し引いた分が対象となります。先物取引のために直接要した経費に限られるものの、情報収集のための書籍代も認められるなど、「株式・投資信託・債券グループ」と比べて、経費の範囲が広いという利点があります。
おわりに
投資をしていて損失が確定した際には、損益通算をすることで、払いすぎた税金を取り戻すことが可能です。ただし、損益通算できる順序やグループが決まっているため、申告する際は注意しましょう。
また、金融商品の場合には、自身がどの口座を使っているかによって、損失や利益が出ていなくても確定申告が必要になるなど、申告時にかかる手間は大きく異なります。
そのほか不動産を売却して損失が出た場合などにも損益通算ができるので、ぜひ覚えておくとよいでしょう。
さまざまな種類の金融商品を売買していて、損益通算の内容が複雑になりそうだったり、自分で確定申告をするのは面倒だという場合は、税理士に確定申告を依頼することも検討してみてください。
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